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最終更新日:2025.01.29 公開日:2025.01.28

自転車は、赤信号も一時停止も関係ない?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第31回

JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回は自転車に乗る人はルールを守らない傾向があり、とくに運転免許を持っていない人は事故に遭う危険性が高いという話。免許を取るまでの自分の行動を思い出すと、とても納得できる話でした。

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

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自転車は、赤信号も一時停止も関係ない?

編集部:今回は左の路地から車道に左折してきた自転車が危険な対象でした。自転車に乗る人の中には、このように車道に出るとき、減速しないで膨らんで曲がってくる人が少なくないですね。

片側1車線の道路で、対向車とすれ違おうとしています。

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左の路地から自転車が飛び出してきて追突しそうになりました。

長山先生:そうですね。今回のように狭い路地から広めの道路に出る場合、たいてい狭い路地には一時停止の規制がかかっているはずで、軽車両の自転車はそれを守らなければいけませんが、自転車を運転する人たちの多くは交通ルールをあまり意識しないで乗っています。信号のない交差点では、一時停止の標識や停止線があっても、どのような行動を取るべきか考えることなく平気で進行してしまいます。

編集部:私も小・中学生の頃はよく自転車に乗っていましたが、一時停止は守っていなかった気がします。基本信号は守っていましたが、交通量が少なく車が来ていないときは時々信号無視もしたかもしれません。

長山先生:大きな交差点では比較的信号を守っていますが、小さな交差点では信号を守らない人が少なくありません。ペダルをひと漕ぎすれば横断できるので、赤信号でも渡ってしまおうと考えるようです。

編集部:そうだったかもしれません。免許を取って自分で車を運転するようになってから、無茶な信号無視はしなくなりましたね。

長山先生:自転車運転者はルールを充分に守ることもなく自転車を利用していますが、それとともにどのような場面に危険があり、どのようにすれば危険が生じて事故になるかについての認識のないまま運転しています。それが免許を取って車を運転するようになると、わかるようになるのです。以前、自転車運転者や歩行者が運転免許を保有しているかどうかによって、どの程度事故を起こしやすいか分析したことがあります。それは大阪府警交通部交通安全調査室長との共同研究で、府警の平成6年の交通事故データと国土交通省が実施したパーソントリップ調査データ(平成5年)に基づいて、免許保有者と非保有者が同じ時間移動した場合にどれだけ事故の可能性があるかを明らかにしたものです。

編集部:パーソントリップ調査ですか? トリップと聞くと旅行をイメージしてしまいますが、「移動」という意味なのですね。

免許を持っていない人は、事故に遭いやすい!

長山先生:パーソントリップ調査(パーソン=人、トリップ=動き)とは、「いつ」「どこから」「どこまで」「どのような人が」「どのような目的で」「どのような交通手段を利用して」移動したのかについて調査し、人の1日のすべての動きをとらえるものです。

編集部:それは細かいですね。

長山先生:本来は一定の地域における人の動きを調べ、電車やバス、乗用車など、どの交通機関がどのような人に使われているのか実態を把握する調査で、交通実態調査とも言われるものです。これを利用して調べたのが、図1と図2になります。図1が64歳以下、図2が65歳以上で、免許保有者と非保有者の各10万人が1時間自転車で移動した場合と歩いて移動した場合の死傷者数を示したものです。

(図1)免許有無別10万人1時間移動中死傷者数 64歳以下

(図2)免許有無別10万人1時間移動中死傷者数 65歳以上

編集部:いずれも免許を持っていない人のほうが多いですね。とくに自転車の場合、圧倒的ですね。

長山先生:おっしゃるとおりで、免許非保有者が保有者と比べて、交通事故での死傷者が男女ともに極端に多いことがわかります。自転車の場合、64歳以下では男性が4.7倍、女性で6.6倍、65歳以上では男性で7.9倍、女性で4.2倍も多くなります。

編集部:私が免許を取ってから無茶な信号無視をしなくなったのと同じで、免許を取ったことで事故につながる危険な行動がわかり、それをしなくなるのですね。

長山先生:そうですね。運転免許を持つ人は、少なくとも交通ルールに従って行動をしないといけないという基本的態度を持っていて、どのような場合にはどのように行動することが正しいかという認識を持っているのに対して、免許を持っていない人は、そのような基本的な態度を持っていないですし、間違った行動をとりやすく、事故に遭遇する確率が高くなるわけです。また、さらに重要な点もあります。

ドライバーは「自転車での危険予知」をマスターしている?

長山先生:免許保有者は運転することによってさまざまな危ないと思う場面を経験するとともに、自転車を運転する場合の危険に関しても十分理解し、認識していて、それを避けようとすることができます。

編集部:運転経験が豊富になればなるほど、いわゆるヒヤリハット体験がたくさん経験できますからね。

長山先生:そうです。自動車を運転していて自転車がどのような場面でどのような危険を冒すかを見ているので、自転車に乗る場合、そのような危険な行動をとらないことが可能となります。すなわち、自動車運転者は、自転車を運転する場合の危険予知の基盤を確立しているので、事故を起こして死傷することを避けることができるわけです。

編集部:自転車でも歩行者でも事故の相手は圧倒的に自動車が多いですから、その自動車に乗るドライバーこそ、何をすべきか、何をしてはいけないのか、事故を避ける術を知っているということですね。

長山先生:そのとおりで、ドライバーは自転車や歩行者が事故に遭わないためのポイントを知っている貴重な存在です。『JAF Mate』の危険予知では、自転車が対象になる危険予知はもちろん、自転車目線での危険予知も扱っていますが、それは運転者として学んでいただくだけではなく、免許を持たないお子様や奥様、高齢者のご両親などに向けてもご指導いただきたいものです。

編集部:車で何度も自転車や歩行者の危険行動を見ていれば、そのぶん説得力のあるアドバイスができますし、自分が経験した同じようなケースも説明することができて、より幅が広がりますからね。実際、読者の中には、『JAF Mate』が送られてくると、免許を持っているお父さんが「危険予知」のページを見ながら、奥様やお子様にレクチャーしている人がいると聞きます。

長山先生:小学校などで交通安全教室も実施されていますが、校庭を使った基本的な指導が多く時間的にも限られます。交通安全教育は何度も繰り返すことが重要なので、日頃からご家庭でどのような行動が危険で、注意すべきことは何かを免許を持つ方が教えられることが大切です。

『JAF Mate』誌 2017年10月号掲載の「危険予知」を基にした「よもやま話」です。

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