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クルマ最終更新日:2024.07.03 公開日:2024.07.03

グラフィットが「四輪」特定小型原付のプロトタイプを公開! “リーンステア制御”の実力やいかに?

電動パーソナルモビリティの開発・販売をワンストップで手掛けるglafit(グラフィット)は6月24日、「特定小型原付」のカテゴリーに収まる四輪車のプロトタイプを公開した。

文と写真=会田 肇

グラフィットが発表した、四輪特定小型原付のプロトタイプ

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四輪特定小型原付にリーンステア制御が必要な理由とは?

特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)は2023年7月1日に新設された電動モビリティ向けの車両区分。16歳以上であれば運転免許不要で運転でき、ヘルメットの着用も自転車並みの“努力義務”とされている。特定小型原付は、車体を長さ190cm以下、幅60cm以下に収め、原動機は定格出力を0.60kW以下の電動機とすることが条件となる。そのスタイルは特に指定はなく、AT機構が備えられていれば2輪や3輪、あるいは4輪でも構わない。

また一般道を走行する場合の最高速度は20km/hまでとされる一方で、歩行者モードに切り替えれば最高6km/h以下で歩道を走ることも可能だ。この歩行者モードのルールは、高齢者用モビリティとして提供されている「シニアカー」を意識して用意されたといわれている。ただし、特定小型原付の車体には緑色の最高速度表示灯の装備が義務付けられ、最高速度20km/hモードでは緑色点灯とし、歩行者モードでは緑色点滅で表示することも条件となる。

今回、グラフィットが発表した四輪車は、まさにこの特定小型原付の条件を満たしつつ(全長は160cm程度、重量は100kg程度)、免許を返納した高齢者や、運転に不慣れな若者でも安全に運転できるようにしたことが最大のポイントとなる。その実現のために搭載したのが、アイシンが開発した「リーンステア制御」で、この技術により幅が狭い四輪の特定小型原付であっても、安定した走行を実現できたという。

glafit代表取締役社長CEOの鳴海禎造氏

グラフィット代表取締役社長CEOの鳴海禎造氏は、新製品を発表するたびに記者たちから「三輪や四輪は出さないのか?」という質問が繰り返されていたと明かす。これは「三輪や四輪なら二輪と違って転倒しにくく、安定して走行できるというイメージがもたれているからと思うが、実はこの認識には大きな間違いがある」と鳴海社長は話す。

平らな場所でまっすぐ走行するだけなら三輪や四輪は安定していると言えるが、実は認識すべきは特定小型原付の“幅60cm以下”という部分にあるという。この規格内で四輪を作ればトレッド幅は狭い上に重心はどうしても高くなりがちだ。そのため、仮に片輪だけが段差に乗り上げれば、簡単に転倒してしまう危険性をはらんでいるというわけだ。

「リーンステア制御」は、そうした状況下で大きな効果を発揮する画期的な技術として誕生した。

リーンステア制御の有無による、傾きかたの違いがわかる比較画像

実際に試乗してみると、とにかくカーブ走行が楽しい!

この技術では、路面が傾いていても車体を常に水平に保つことができる。そのため、片輪だけ段差に乗り上げたとしても車体は水平に保ち続けられる。実際、発表会後に実施された体験会でもその効果はハッキリと体感することができた。ゆっくりと車両の片輪を段差の上へ乗せてみたが、車輪が傾くだけで車体はほぼ水平のままだ。これは段差を乗り越えるまで維持された。

また周回路を走行中、カーブでハンドルを切ると車体が内側へと自動的に傾いてくれるため、オートバイに乗っている時のように運転者が重心を移動させる必要が一切なかった。運転者は進みたい方向にハンドルを向けていくだけで、自然に車輪が傾いてスムーズに抜けていってくれるのだ。最初はその感覚に少し戸惑うが、すぐに操作に慣れた。それ以降はカーブを曲がるのがとにかく楽しく、あまりのスムーズさゆえに思わずスラロームを楽しんでみたくなるほどだった。

このプロトタイプの操作は極めて簡単だ。ハンドルの右側グリップ下にアクセルとなるレバーがあり、それを指で奥に押し込むことで加速。指を放すと回生機構が働いて減速する。操作時はかなり奥まで押し込む必要があるため、誤操作の心配はほぼないと言っていい。一方、メカニカルなブレーキ操作は左側グリップに備えられたレバーで行うが、回生ブレーキがかなり強力であるため、この日の体験会で使うことはほとんどなかった。

また、プロトタイプには後退する機能も付いており、ステアリングの左側にあるスイッチ操作で行うことができた。周囲が見通せるサイズであるため、バックする際の操作も容易に行える。後退時はブザーが鳴り、運転者も含め、周囲にも十分聞こえる音量だった。

リーンステア制御は片輪の乗り上げ以外にも、旋回時や坂道走行でも効果を発揮する。

片輪を乗り上げても、車両はほとんど傾いていない。

このモデルのメインターゲットは誰?

では、このプロトタイプのターゲットはどこにあるのか。グラフィットの説明によれば、第一のターゲットは免許を返納して、日常の足代わりとする高齢者だという。高齢者の足としてはシニアカーがあるが、年間の免許返納者が60万人もいるのにシニアカーは2万台程度しか普及していない。その理由として鳴海氏は、「最高速度が6km/hのシニアカーでは、遠出も難しくとてもクルマの代わりは務まらないから」と説明する。

そこで、特定小型原付なら最高速度を20km/hまで出せる走行性能が活きてくる。しかも転倒リスクが少なく安定した走行ができる「リーンステア制御」を搭載したことで、二輪経験がなくても安心して乗れるのだ。鳴海氏は、「できることなら運転免許を返納してから乗るのではなく、近距離の移動用として普段からこの四輪特定小型原付を使ってもらい、返納後はそのまま普段の足として使ってもらうことをお勧めしたい」とした。

一方で鳴海氏は、第二のターゲットとして運転免許を取得していない若い世代へのアピールも今後は行っていきたいとも述べた。その背景にはヨーロッパで普及が進む小型シティコミューター電気自動車(EV)の「AMI(アミ)」が念頭にあるようだ。フランスではこれが運転免許が不要の四輪車に分類され、14歳から運転ができる。正確には8時間の講習を受ける必要があるが、それでも運転免許を取得するよりははるかにラクだ。つまり、そうした分野にも特定小型原付の需要があり、シティコミューターとしての4輪車が活用されることを想定しているのだ。

このプロトタイプの実証実験は、まず7月7日から65歳以上の人を中心に開催予定。製品化へのスケジュールはまだ決まっていないとのことだが、その実証実験を通して、体験者の感想や課題などを収集し、マイカーとして所有するのが適切か、あるいはシェアリングなどの利用シーンを想定すべきかを見極めていく計画だ。また2025年開催予定の大阪万博への出展も検討しており、そうした結果を踏まえ、できるだけ早い時期に製品化を目指したいとのことだった。

なお、あくまで現時点での想定だが、価格はシニアカー以上、軽自動車未満の価格帯を狙っているとのこと。シニアカーが30~40万円であることを踏まえれば50~60万円ぐらいが妥当な線なのかもしれない。年金生活の高齢者にも積極的に検討できる価格帯での登場を期待したい。

プロトタイプの実証実験開催日程は以下の通り。体験者は事前に希望を募り、実証実験に適した年齢層を鑑みながら決定していく予定だ。

7月7日(日)10時~17時:和歌山城 西の丸広場(和歌山県和歌山市一番丁3)
7月21日(日)10時~17時:温故創新の森NOVARE(東京都江東区潮見二丁目8番地20号)
7月29日(月)10時~17時:大阪府内の場所は調整中

このモデルではキャノピー装着型なども想定されている。画像=glafit

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