ランチアがラリーに復帰!? 新型イプシロンHFも同時に発表。やっぱりマルティニカラーは特別だ!
マルティニカラーのランチアが帰ってきた! ステランティスが5月27日に発表した「イプシロンHFラリー4」の正体とは? モータージャーナリストの武田公実が解説する。
イプシロンに初の「HF」の称号
ランチアは、新時代の電動コンパクトハッチ「イプシロン」の高性能バージョンとして、2025年5月に発売予定となっている「イプシロンHF」と、ランチアのラリー復帰のために開発された競技用モデル「イプシロンHFラリー4」を同時発表した。
5月27日に配信されたプレスリリースによると、イプシロン HF は名門ランチアブランドを象徴してきた、高性能なスピリットを表現するモデルとの由。このモデルで4代目を数えるイプシロンながら、実はランチア伝統のスポーツグレード名である「HF」は、これが初の命名となった。
「HF」のロゴは、1960年のジュネーヴ・ショーにて、ランチアの生み出した独創的なクルマを熱愛するエンスージアストたちが、同社の最も忠実な顧客、特に6台以上の新車を購入した人々のための特別ラウンジ「ランチアHi-Fi(High Fidelity)クラブ」を設立した際に考案された、ランチア高性能モデルの歴史的シグネチャー。そして、1963年にチェーザレ・フィオリオが設立した「HFスクアドラ・コルセ・ランチア」の紋章としても採用され、ブランドの多くの勝利のアイコンとして使用されてきた。
このロゴは、黒地に白の大文字で「HF」が構成されており、赤地に白で「SQUADRA CORSE」の文言で強調された4頭の赤い象が強調されている。この可愛い象たちは「一度放たれると止められない」という伝説に基づいて幸運のお守りとして選ばれ、パフォーマンスとドライビングプレジャーの象徴となっているとのことである。
ランチア復活の行く末を占うイプシロンHF
ところで4代目のイプシロンでは、今年2月に発表されたファーストエディションには115kW(156ps)のパワーと260Nmのトルクを発生する電動モーターと容量51kWhのバッテリーを組み合わせたが、3月には1.2リッター直列3気筒ガソリンエンジンに6速DCTと48Vバッテリーを組み合わせた、マイルドハイブリッドモデルも追加されている。
そしてこのほど発表されたイプシロンHFは、240psを発生する100%電気のモーターを搭載したBEV。0-100km/h加速はわずか5.8秒という高性能車とされ、低めにセットしたサスペンションや幅広のトレッド、自己主張の強い筋肉質なフォルムを特徴とする。また「HFストラトス」に代表される、ランチアとラリーの歴史を築いてきた過激なアイコニックカーたちにインスパイアされつつ、パフォーマンスを意識したデザインが施されているという。
ランチア復活の行く末を占うイプシロンHFだが、ブランド発祥の地、イタリアを含むEU諸国での発売は、2025年5月を予定しているとのこと。また、イプシロンHFに続き、現時点ではまだ発表には至っていない次期「ガンマ」と次期「デルタ」にも、HFバージョンの登場が確約されることになった。
ランチア、人気の「FIAラリー4」規約で復帰
現状では電動モデル専門ブランドになると言われているランチアから、今年2月に発表された4代目「イプシロン」の高性能版として、BEVの「HF」が設定されることは、既にメーカー側からのティーザーキャンペーンもあり、ある種の既定路線と受け取られていたようだ。しかし、純粋なICEユニットを搭載する競技車両「イプシロンHFラリー4」が、同じ日に発表されるというのは、なかなかのサプライズだったとも言えるだろう。
ランチアがラリー復帰への足掛かりとして選んだのは、近年「WRC(世界ラリー選手権)」や「ERC(欧州ラリー選手権)」で人気を集めているFIA「ラリー4」カテゴリー。2019年シーズンから正式にスタートしたFIA ラリー4は、旧「R3」規約に近いものとのことで、現「グループ・ラリー」規約における2輪駆動車のメインカテゴリーとして、また将来のプロラリーストを目指そうとする情熱とともに、キャリアをスタートさせる若いドライバーたちを主な対象としているという。
このカテゴリーの人気が高いヨーロッパでは、フォード「フィエスタ」やルノー「クリオ」などにくわえて、ランチアと同じくステランティスに属するプジョー「208」やオペル「コルサ」などでも、ラリー4規定マシンが開発・販売されているそうだが、いずれもFIA規約によりパワーウェイトレシオ5.1 kg/ps以上、最高販売価格は税抜きで7万ユーロ以下と規定されているとの由である。
イプシロンHFラリー4 はBEVではない!
そんなレギュレーションのもとに開発されたイプシロンHFラリー4 は、1.2リッターのターボチャージャー付き直列3 気筒、気筒あたり4バルブのガソリンエンジンを搭載し、最高出力は 212psをマークするとのこと。もちろん、ラリー4規定にしたがって前輪駆動とされ、5速のマニュアルトランスミッションと機械式LSDを標準装備する。
ランチアでは、この高性能モデルについて「すべてのラリー愛好家にとって理想的なソリューションであると同時に、R4クラスや2輪駆動選手権における勝利を目指すドライバーにとっても有力な候補になる」とアピールしている。
そして、来シーズンまでにホモロゲート、プライベーターたちに販売されて実戦投入されることになるだろうイプシロンHFラリー4は、ランチアとしては久方ぶりとなるラリー専用マシン。その開発ワークスは、かつて「ランチア037ラリー」や「デルタS4」、そして同じく「HF」の名を掲げた「デルタ・インテグラーレ」で大成功を収め、近年では「アバルト500R3T」や「アバルト124スパイダーR-GT」を市販した実績もあるアバルトが担当するのか・・・・・・? あるいは新型イプシロンと共通点が多いと目される「プジョー208」で、既にラリー4マシンの実績を挙げている「プジョー・スポール」も関与するのか・・・・・・?興味は尽きないところである。
くわえて、WRCではドライバー部門とコンストラクター部を合わせて15回もの年間チャンピオンを獲得し、ラリー史上最高のブランドとして全世界の尊敬を集める名門ランチアが、この先イプシロンHFを擁してWRCのトップカテゴリーである「WRカー」にも進出する可能性があるのか否かも、あくまでいちランチアファンとしての個人的な想いながら、実に興味深いと考えてしまうのである。
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