クルマのある暮らしをもっと豊かに、もっと楽しく

道路・交通最終更新日:2024.06.07 公開日:2024.06.07

意外と見えない「フェンス越しの人」。|長山先生の「危険予知」よもやま話 第27回

JAF Mate誌の「危険予知」を監修されていた大阪大学名誉教授の長山先生からお聞きした、本誌では紹介できなかった事故事例や脱線ネタを紹介するこのコーナー。今回はフェンスの意外な盲点からスイスで高速料金をぼられた? ことまで、話が大きく展開しました。

話=長山泰久(大阪大学名誉教授)

意外と見えない「フェンス越しの人」。

編集部:今回は高速道路に乗るため、幹線道路の側道を走っている状況です。先の交差点で右折しようとしたところ、手前の横断歩道を右から渡ろうと人が出てきて事故になりそうになるというものです。右側はネット状のフェンスでしたが、歩行者の姿はけっこう見えないものですね。

高速道路に乗るため幹線道路の側道を走っており、前方の交差点で右折しようとしています。

記事の画像ギャラリーを見る

右側から男性が出てきて、事故になるところでした。

長山先生:ネットのフェンスは隙間が多いので見通しがいいと思われがちですが、見る角度によっては意外と見えづらくなります。正面から見ればフェンスの隙間空間が広くなりますが、斜めになればなるほど隙間は狭くなるので、フェンスの向こう側にいる歩行者などは見えづらくなります。

編集部:なるほど。歩行者の服と背景の色が似ていることもあって、歩行者が差している白い傘以外、よく見えませんでしたね。「フェンスだから見える」と思っていると危険ですね。

長山先生:そのとおりです。壁や建物で完全に死角になっていれば、そのぶん注意しますが、なまじ中途半端に見えていると、安全が確認できたと勘違いする危険性があります。フェンスや柵も、必ずしも視界が確保されているわけでなく、一部遮られていることを認識しておく必要がありますね。

編集部:たしかに、大人なら見えても背の低い子供はすっかり隠れてしまうような植え込みもありますね。

長山先生:ありますね、そういう微妙な高さの植え込みも。そのように一部でも視界が遮られている場合、見落としている危険性を忘れてはいけません。今回、道路の右側には「歩行者注意」の黄色の看板が並んでいたので、右側から歩行者が出てくる危険性を予測して、より注意して見ることができますが、そのような注意看板がないと、フェンスそのものへの注意が欠落してしまう危険性があります。

編集部:フェンスそのものへの注意ですか?

高速利用者は案内標識ばかり見てしまいがち!

長山先生:そうです。今回のように高速道路に乗ろうとしていれば、案内標識を見ながら走るでしょう。

編集部:問題場面の前方に見える緑色の案内標識ですね。でも、その前に横断歩道を渡っている歩行者がいるので、まずそちらを注意するのではないでしょうか?

長山先生:たしかに前方には横断歩道を渡る歩行者が見えますが、この歩行者はすでに渡り終えるタイミングなので、ドライバーはそれほど意識していないでしょう。右側にも少し注意するものの、チラッと見ただけでは、フェンス越しの歩行者には気づかない可能性が高くなります。その結果、案内標識が注意の焦点になるのです。

編集部:初めて通る交差点だったら、なおさらでしょうね。

長山先生:そのとおりです。案内標識に書かれた「四つ木入口」から乗るのが初めてのドライバーであれば、自分の行く先によって右側の「銀座 東北道」方面なのか、左側の「空港中央 東関東道」方面なのか、どちらに向かえばよいのかを確かめようと案内標識に目線が向いてしまいます。

編集部:交差点までの距離が短いので、慌てそうですね。もし左側に進む必要があれば、すぐ左側に進路変更する必要もありますから。

長山先生:そうです。しかもそれを確かめるために数秒はかかり、その間、他のものは目に入らない脇見の状態となってしまうでしょう。

編集部:知らない道を走るということは、注意がそちらに偏ってしまい、かなり危険なのですね。ナビを設定していれば、だいぶ違うのでしょうか?

長山先生:ナビを設定していれば、案内標識をじっと見る必要はないので、そちらに脇見する危険性は低いですね。ただ、ナビの案内に耳を傾けたり、ナビの画面でルートを確認することはあるので、脇見の危険性がまったくないわけではありません。また、これはどんなドライバーにも言えることですが、交差点までの距離が近いので、信号が変わるタイミングなども気になる点でしょう。

編集部:やはり、そこを走り慣れている人がもっとも安全に走れるのでしょうね?

長山先生:基本的にはそうですが、必ずしもそうではありません。今回の場所には、「歩行者注意」の看板が多数設置されているので、どんなドライバーでも左右から横断してくる歩行者や自転車へ注意すると思われますが、そんな注意看板がなく、歩行者がほとんど通行しない地域ですと、たとえ横断歩道があっても横断歩行者のことをあまり考えないでしょう。

編集部:「渡る人なんかいないだろう」と無意識のうちに思い込んでしまうのですね。

長山先生:そうです。ただ、そう考えるかどうかは、その人に安全態度(Safety Mind)があるかどうかで変わってきます。

世の中には安全に無関心な人もいる!?

編集部:安全態度ですか?

長山先生:そうです。世の中には安全態度を持つ人とそうでない人がいます。簡単に言うと、安全に対して意識がある人と、無関心な人です。安全態度を持つ人なら、手前の「歩行者注意」の看板にも気づいて、「ひょっとすると右のフェンスの陰から歩行者が出てくるかもしれない」という意識を持ちますが、安全に対して無関心な人だと、およそ歩行者のことなど考えもせず、速度も落とさずに運転をするでしょう。

編集部:たしかにそうかもしれませんが、まったく安全に無関心な人などいるのでしょうか?

長山先生:もちろん、人が本来持っている防衛本能のような安全意識は誰にでもありますが、交通安全に関する安全意識についてはかなり個人差があり、まったく安全を意識しないで行動する人も少なくありません。今回の場面では、渡り終える人は見ていても、その他に人影がなかったら気楽にそのままの速度で走ってしまうので、陰から人が出てきても回避できず、はねてしまうことになりかねません。

編集部:安全意識は、“ヒヤリハット体験”などを経験することで高くなるのでしょうか?

長山先生:そういった経験は重要ですが、ただ経験するだけでは安全意識は高くなりません。ヒヤリとした体験を思い返し、なぜ危険な状況になったのか、どうしたらそれを避けられたのかなど、しっかり考えてそれを蓄積することが大切です。そうすると、別の場所で同じような「歩行者注意」の看板を見つけた場合でも、「見えにくい所から歩行者が現れるかもしれないぞ」という危険予知につながってくるものです。今回の危険予知の問題を学習することで、運転中に「歩行者注意」の看板があれば、「見えにくいこの場所では気をつけなければならない」との安全態度が形成されて、危険予知の基盤が形成されます。

編集部:なるほど。“ヒヤリハット体験”から状況に則した危険を予測できるようになり、その結果、減速して注意して見るといった安全行動が取れるようになるのですね。どんなことも経験が重要になるのですね。

長山先生:そうです。経験と言えば、以前、スイスでアウトバーンを利用した際に料金を多めに取られたことがありました。

長山先生、スイスで高速料金をぼられる!?

編集部:スイスにもアウトバーンはあるのですね。でも、高速料金はふつう決まった金額ですよね。いかがわしい飲み屋じゃないのですから、多めに取られるなんてことがあるのですか? そもそもアウトバーンは無料ではなかったでしたっけ?

長山先生:アウトバーンはスイスにもあります。ドイツのアウトバーンはトラック以外無料で、以前スイスも同じく無料だったようですが、私が1993年にレンタカーを借りて走ったときはすでに有料になっていました。※2017年当時、長山氏調べ(以下同)

編集部:そうなのですか。ドイツのアウトバーンも速度規制や有料化の噂は以前からよく耳にしますけど。

長山先生:ドイツのアウトバーンが有料化されるという話は、かなり現実味を帯びてきました。2017年4月の新聞に「3月末にドイツ連邦参議院(上院)がアウトバーンの有料化に関する法案を承認し、2019年から料金が科される見通しになった」という記事がありましたから。私は「あぁ、ドイツのアウトバーンも料金がいるようになったか」と思ったものです。

編集部:ついに有料化されるのですね。

長山先生:実は、ドイツのアウトバーンもすでに大型トラックには料金が科せられていました。ドイツはヨーロッパの中央に位置し、交通の要に当たるため、アウトバーンを通過するだけの外国車も多いのです。

編集部:首都高速でも都心を抜けるだけの車を“通過交通”と呼んでいますが、それと同じですね。

長山先生:そうです。ドイツ国内には何の利益ももたらさないのに道路の損傷は大きくなるため、1995年1月から、12トン以上の大型トラックにはヴィニエテ(Vignette)方式で、2005年1月から距離課金方式で有料化されてきたのです。

編集部:ヴィニエテ?? どういうものですか。

長山先生:ステッカーのことです。走行する期間に応じた料金をドライバーが前払いしたことが分かるステッカーを車のフロントガラスに貼ることで、料金を支払ったのかどうかゲートで確認するのです。スイスで料金をたくさん払わされたのも、そのヴィニエテ方式でした。ドイツのフランクフルト空港で借りたレンタカーでスイスの国境の地バーゼルに達したところ、ゲートがあって「あなたはスイスでアウトバーンを利用しますか?」と尋ねられたので、そのつもりだと答えたら、「それでは40スイスフランを払ってください」と言われました。

編集部:40スイスフランは日本円で4,400円程度(2017年当時)ですか? たしかにけっこう高いですね。

長山先生:無料で走れるドイツのアウトバーンに比べて高いなと思いましたが、仕方なく払い、渡されたステッカーをフロントガラスに貼りました。

編集部:多めに払ったということは、向こうが料金を間違えていたのですか?

長山先生:あとで分かったのですが、そのステッカーは1年間有効の通行券だったのです。

編集部:1年間ですか!? そんなに居ませんよね、そもそも。

長山先生:もちろんです。その時は後日スイスで行う調査の準備に来ただけでしたので、スイスに滞在したのはたった1日で、その後、ドイツで何日間か車を使って返しましたけど、1週間も使いませんでした。これも後で知ったことですが、ヴィニエテ方式はヨーロッパの各国(オーストリア、スイス、チェコ、スロバキア)で使われていますが、オーストリアでは有効期間は10日間、2か月間、1年間のものがあるようです。スイスは1年間のみだったようです。

編集部:それは高くつきましたね。外国人がレンタカーに乗っているわけですから、1年も使うことはないじゃないですか。

長山先生:そうですね。知っていれば、「高速道路は使いません」と言って、一般道路で行けばよかったわけです。「知らないことは怖いこと」という格言は、この場合にも当てはまったわけです。料金を高く払うという危険・失敗を防ぐためには、必要情報をよく知っておくこと、事柄を調べておくことという危険予知との共通点をここでも学んだわけです。

編集部:事前にスイスの高速料金のことまで調べるのは難しいと思いますが、何事にも予習が必要であるということですね。ところで、レンタカーはヴィニエテのステッカーを貼ったまま返却したのですよね?

長山先生:そうです。私が返したレンタカーを次に借りた人がスイスを旅行していたら無料で走れたはずで、私は他人に奉仕したことになりますね。

『JAF Mate』誌 2017年5月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です

記事の画像ギャラリーを見る

この記事をシェア

  

応募する

応募はこちら!(6月30日まで)
応募はこちら!(6月30日まで)