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最終更新日:2024.04.22 公開日:2024.04.22

日本車は中国車に勝てるのか? BYDだけじゃない! 東南アジアでシェア拡大を狙う中国企業の強かさ。

タイの新車市場で中国車が躍進中だ。これまで圧倒的シェアを誇っていた日本車の立ち位置は今後どうなる?

文・写真=会田 肇

12日間の会期中に約161万人が訪れた「バンコク国際モーターショー2024」。販売を前提としたショーとして定着している(BIMS事務局提供)

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日本車人気に陰り? 中国車のシェアが躍進!

毎年3月に開催されている「バンコク国際モーターショー(BIMS)」。今年は第45回の記念イベントとして開催された。会場で目を見張ったのが中国勢の圧倒的な存在感。それは長いこと9割のシェアを握ってきた日本車の立場を危うくするほどだ。そんなタイの自動車事情を現地から会田 肇がレポートする。

東南アジアで開催されるモーターショーの特徴としてあるのが、ショーそのものが予約販売の受注会場となっていることだ。会期中は低金利ローンをはじめ、さまざまな予約特典が付与され、会期中で予約することのメリットを全面に打ち出している。

主催者が発表したBIMS2024の実績を見ると、来場者数は約161万人。会期中に予約された台数は5万8611台(主催者発表)にも達し、これはタイ国内で1年間に販売される約77.5万台(2023年)の約8%に相当する。まさにBIMSはタイの自動車産業の動向を占うにふさわしいイベントとなっているのだ。

BIMS2024のメイン会場。緑が日本車/赤が中国車/水色が韓国・ベトナム車※主催者提供の会場見取図に筆者が色分け加工

そんな中で今年初め、衝撃的なニュースが自動車業界を駆け巡った。それはタイにおける2023年の自動車販売台数で、中国車のシェアが11%と前年比2倍にまで拡大し、それに伴って日本車のシェアが78%にまで落ち込んだというものだ。タイを含め、東南アジアは長きにわたり、シェアがほぼ9割を超えるいわば“日本車の牙城”。その足元がついにタイで揺らぎ始めたというわけである。

実はその流れは何もタイに限ったことではない。日本車のシェアが95%という圧倒的シェアを獲得してきたインドネシアでも、昨年はついに9割を下回る状況になっていた。その要因はやはり急速に力を付けてきた中国車の進出によるところが大きく、その勢いは今年2月に首都ジャカルタで開催された「インドネシア国際モーターショー(IIMS)2024」でもはっきりと見ることができた。

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補助金の減額で状況は一変。しかし……

そうした状況下で迎えたBIMS2024では中国車8ブランドが出展し、大きな存在感を示していた。振り返れば、昨年のBIMS2023でも中国車の進出は目立ち始めていたが、まさか1年でここまでの状況になっているとは予想もしていなかった。しかも、事務局によれば、2025年はすでに中国車の4ブランドが出展を希望しており、これが実現すれば日本車を完全に逆転することになる。まさに、状況は“日本車危うし!”にあると言っていいだろう。

では、どうして中国勢がこぞってタイ市場に繰り出したのか。それはタイ政府が進めるEV支援策の存在が大きい。タイ政府は30年に国内生産の3割をEVにする目標を掲げており、2022年から23年まで1台あたり15万バーツ(約60万円)の補助金を給付してきたからだ。これにより、充電インフラが整備されてきたバンコクなど大都市周辺で富裕層たちがEVを購入。昨年のEV販売台数は前年比7.8倍の約7万6000台にまで拡大することになった。これはタイで販売される総販売台数の約1割に達する。

さらにタイ政府は2024年から2027年までの4年間を対象に、輸入EVの購入に補助金を出す「EV3.5」を導入。これにより補助金額は最大で10万バーツ(約40万円)にまで引き下げられた。タイ国内でEVを生産することが条件とはなるものの、それでも中国国内で鈍化しているEV販売の現状をカバーするには、この支援策は魅力的と映っているのだろう。タイでのEV生産を急ぐ中国メーカーが相次いでいるのだ。

ただ、ユーザーはこの補助金の減額に即座に反応した。2024年に入ると1月は補助金給付の駆け込み登録で過去最高を記録したが、24年2月になるとその反動もあって急減。前年同月比で34%も落ち込んでしまった。その結果、23年にEVで4割のシェアを持っていたBYDは86%減、「MG」ブランドを有する上海汽車系は80%減、「GWM」ブランドの長城汽車は73%減となった。これはEV需要が一巡したこともありそうだが、何よりも補助金の給付額が下がった影響が災いしたことは間違いない。

タイ国内のEVシェアで約4割を獲得しているBYD。主力の「ATTO3」の新型を18%もの大幅なプライスダウンを実施した

23年に参入した長安汽車は小型EV「LUMIN」を発表。航続距離は約300kmながら約48万バーツの低価格を実現した

こうして迎えたBIMS2024だったが、中国メーカーが採った戦略は大幅な値引きだった。タイ国内でEVの最大手であるBYDが、最量販車種である「ATTO3」の最新モデルの価格を従来モデルよりも18%も安い価格で提供することを発表したのだ。それ以外の車種についても、期間中の購入に限定した特別価格を設定するなど、割安感を全面に打ち出す戦略を採ったのだ。

トップシェアを持つBYDが値引き戦略に打って出たことで、他の中国メーカーも対抗措置を執らざるを得ない。ゼロ金利キャンペーンなどさまざまな優遇措置を与えることで、顧客をつなぎ止める策を相次いで発表したのだ。

そして、この効果はBIMS2024会期中の販売実績にさっそく表れた。なんと予約されたEVが全体の32.78%にも達したのだ。総予約台数こそ、かろうじてトヨタが8540台と1位を確保したが、2位にはBYDが5345台で肉薄。トップ10の状況を見ても日本車と中国車が半分ずつ分ける格好となったのだ。

中国車の脅威は価格競争だけじゃない!

こうした状況に日本車メーカーはどう考えているのか。BIMS2024の会場でスタッフに聞いてみると「補助金効果で30%程度までEVは伸びていくが、それでも当面はまだ主流になることない」との見方が支配的だ。というのも、EVのリセールバリューはハイブリッド車に比べて大幅に安いことや、充電インフラの整備もまだ十分でないからだ。

とはいえ、タイが東南アジアでEVがもっとも普及している国であるのは確かだ。今でこそ販売が急減してはいるが、いずれ本格的な電動化の波はやってくる。日本メーカーとしてもEVへの需要に本気で応じざるを得ない時が、必ず訪れるだろう。その時、何よりも怖いのは価格競争によって力を付けた中国メーカーが、その実力で日本車を大きく上回る状況になってはいないかということだ。

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タイの自動車事情について答えてくれたBIMS事務局長のジャトロン・コモリミス氏

モーターショー事務局長のジャトロン・コモリミス氏は、「若い世代は中国車の目立つデザインが好みのようだ。加えて、かつては400~500万バーツを出さないと得られなかった加速感がEVなら200万バーツ以下で手に入れられる。これがEVが急速に売れる要因ともなっている」と話す。つまり、若い世代を中心にEVに魅力を感じる人が着実に増えているといのだ。

実際、かつて中国車は“丸パクリ”と揶揄された時代もあったが、今やタイで販売されている中国車の品質は日本車と比べても遜色ないどころか、グレードによっては日本車を上回るレベルにまで達している。これまでのように日本車が東南アジアで存在感を発揮できていけるかは、EVへの対応が重要なカギになることは間違いなさそうだ。

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