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最終更新日:2024.04.05 公開日:2024.04.03

スズキの最高に楽しい特定小型原付「スズライド/スズカーゴ」はあれからどうなった? 市販化の可能性を訊いてみた!【次世代モビリティ最前線!Vol.3】

自動車ライター大音 安弘が、今みんなが気になる次世代モビリティの開発背景や魅力に迫る連載。第3回目は、スズキのコンセプトモデル「スズライド/スズカーゴ」を紹介する。果たして両モデルは市販化される可能性があるのだろうか?

文=大音安弘

写真=KURU KURA編集部

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スズキが提案する2つの特定小型原付!

昨秋に開催されたジャパンモビリティショー2023(JMS2023)では、スズキが世界初披露した電動小型モビリティのコンセプトモデルに注目が集まった。それが「SUZU-RIDE(スズライド)」と「SUZU-CARGO(スズカーゴ)」だ。これらは近年、ジムニーやハスラーといったギア感の高いモデルが人気となっている、同社らしい遊び心に溢れた世代の電動小型モビリティだ。スズキの狙いと今後の展望について取材した。

スズキが提案するこの2台は、特定小型原動機付自転車(特定小型原付)として設計されている。この規格は今、電動キックボードを中心に展開される新たなカテゴリーの乗りものとなっている。

開発した背景には、自社がすでに販売している商品に課題があったからだという。スズキは長年、ハンドル形電動車いす「セニアカー」を手掛けてきたが、ハンディキャップを抱える人を含めた幅広いユーザーに対応する構造であることや、最大速度が6km/hに制限されること、そして、大きな荷物が載せられないなど、身近な小型モビリティとしてニーズに応えられていない一面があった。そのため、新たなモビリティの形を模索していたそうだ。

そんな中、スズキは電動キックボードに適した特定小型原付の法制化の動きをキャッチ。その定格内※に収まるスズキならではの一人乗りモビリティを作るべく、開発がスタートした。そうして具現化されたのが、これらのコンセプトモデルなのだ。
※特定小型原付の定格は、出力0.6kW以下で、全長1900mm、全幅600mm以下、かつ最高速度が20km/h以下であれば、ホイールの数は問われない。

JMS2023で世界初公開された電動パーソナルモビリティ「SUZU-RIDE(スズライド)」。16歳以上を対象に誰でも乗りやすいモビリティとして提案。ボディサイズは、全長1300mm×全幅600mm×全高1000mm(※ミラーを除く)。

SUZU-RIDEは、フロント部に500mLのペットボトルが収納可能な小物入れに加え、スクーター同様にシートの内部が約110L容量の収納に。さらに足元にも荷物が積載できるようにコード固定用のフックも備える。

SUZU-RIDEは、「“生活”と“遊び”の電動パーソナルモビリティを目指し開発。電動キックボードのような手軽さを持ちながら、転倒しづらい4輪車とした。ポップなデザインとシンプルな構造を持つ、4輪スクーターのような存在だが、シートとなるボックス部の内部は、110Lの収納スペースを確保するなど、機能性も重視されている。まさに日常生活の相棒的存在だ。

電動マルチユースモビリティ「SUZU-CARGO(スズカーゴ)」。大きな荷台で荷物を運べるのが特徴。ボディサイズは、全長1900mm×全幅600mm×全高1000mm(※ミラーを除く)

「SUZU-CARGO」のゆとりある荷台は、幅565mm×奥行き1050mm×高さ300mmを確保。周囲がカバーで覆われているので、小さな荷物も運びやすい。写真は、手前側をオープンサイドテーブル仕様にしたところ。

いっぽう、よりサイズの大きいSUZU-CARGOは、「“生活”と“遊び”のクロスオーバー電動マルチユースモビリティ」がコンセプト。ホイールベースを延長することで、後部に175Lの荷台を設けているのが特徴だ。荷台のサイドカバーにも工夫があり、取付を変更することでサイドテーブルとなる機能もある。まさに趣味や仕事の現場でのちょっとした作業スペースやベースキャンプにもなる仕掛けなのだ。またボディの大きさを活かし、SUZU-RIDEよりも電池を多く搭載できるのも強みだ。

開発担当に訊いた、こだわりポイントとは?

スズキはどちらのモデルも16歳以上を対象とすることで、幅広い年齢層で使える移動手段としているが、若者にもより興味を持ってもらえるように、デザインにもこだわったという。デザイナーの松浦さんは、「セニアカーとはまったく異なる新しい乗りものにしよう! と企画段階から意識していました。使い勝手の良さを実現させるため、軽快さと安全性をどう両立させるか大変苦慮しましたが、ドライバーからの死角を極力減らし、フレームを露出させてギア感を演出。カラーリングでポップな雰囲気に仕上げました」と話す。目指したのは、スポーツ用の自転車やアウトドアギアなどが持つカッコ良さだ。明るい色味やギア感は、アクティブギアとして人気が高いジムニーなどのスズキ車とも重なるところだ。

また、商品企画の西浦さんによれば、開発ではスズキの強みが最大限活かされているという。「このコンセプトモデルは、スズキの2輪車および4輪車と同様に、安全に走るために重要となるクルマの基本性能である“走る、曲がる、止まる”がしっかりと考えられています。セニアカー同様に4輪車としたのは、走行中だけでなく乗降時や停車時も車両が自立し、安定性が高いためです。乗員の着座姿勢は2輪車のレイアウトを参考に、胸を張り、視線の位置を上げられるようにした。また電動キックボードなどと同様に、バーハンドルと親指で操作するレバー式アクセルを採用していますが、これは直感的な操作による安全性の向上が狙いです」と話す。

セニアカーから取り入れた工夫として特に興味深かったのは、ドライバーから前輪が見えるデザインとしたことだ。タイヤの切れ角をハンドル操作だけでなく、目視でも確認できた方が、ドライバーは運転しやすいのだという。実際、発売当初はボディパネルで前輪が隠れていたセニアカーも、改良を加え、今では前輪タイヤが見えるデザインに進化している。また、坂道や未舗装路を走ることができるセニアカーの高い走行能力も受け継いでいるため、農業やアウトドアシーンでの活躍も想定しているという。使い勝手の良さを期待させるところだ。

スズキの電動小型モビリティのコンセプトモデル「SUZU-RIDE」と「SUZU-CARGO」の開発チームメンバーであるスズキのデザイナーの松浦 漠さん(左)と商品企画の西浦 充紘さん(右)。

さすがスズキの4輪、4輪独立懸架はやっぱり乗りやすい!

今回コンセプトモデルながら、「SUZU-RIDE」と「SUZU-CARGO」の2台に試乗した。いずれも着座してみると、自然と目線が高くなり、安全な視界が確保することができた。操作はハンドル右側のグリップ付け根にあるアクセルレバーによる加減速と、ハンドル左右にあるブレーキレバーを操作するだけなので非常に扱いやすいく、簡単なレクチャーのみで運転することができた。

速度は最大20km/hとなる通常モードと、歩道走行が可能となる最大6km/hモードの2種類がある。速度切替には専用ボタンが用意され、20km/hモードがウサギ柄、6km/hモードがカメ柄となっており、面白く理解しやすい工夫も盛り込まれていた。

最大の驚きは、乗り心地の良さ。なんと4輪独立懸架という贅沢な足回りとなっていて、路面の凹凸もしっかりと受け止めてくれるので、走行安定性も高い。過去に販売していた「電動車いす」の中には4輪独立懸架仕様のモデルもあり、スズキの小型モビリティの経験がしっかりと活かされている。小回り性も良く、とても乗り易かった。これならば、即発売も可能なのではと思えたほどだ。

コンセプトモデルながら、試乗も実現。運転のしやすさと乗り心地の良さに、自動車メーカーとしての拘りを感じさせた。また法規的には不要だが、安全の確保から、バックミラーも装備している。

市販化を目指した新コンセプトモデルを開発中!?

JMS2023展示以降の反響については、交通インフラに課題のある地域団体から住民の移動の足としての利用や、工場や施設内の移動や運搬用に活用したいという声があったそうだ。また一般ユーザーからも、アウトドアを中心に趣味に活用してみたとの意見が得られ、コンセプトモデルとしての手ごたえは、まずまずといった感じのようだ。

現在、スズキは「SUZU-RIDE」と「SUZU-CARGO」のコンセプトを基に、新たな電動小型モビリティの市販化に向け、開発を進めているそうだ。発売時期や仕様は未定だが、ユーザーが安心して使え、納得できる価格のモビリティとしての市販化を目指すという。

課題はまだ多いというが、安全で身近な電動小型モビリティの登場に期待したい。

最大速度20km/hと最大速度6km/hの特定小型原付を区別するために、点滅するライト機能をハンドル部に備える。

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