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最終更新日:2024.03.21 公開日:2024.02.22

“運転する楽しさ”で人気、歩道を走れるスクーター「WHILL Model S」の魅力とは?【次世代モビリティ最前線! Vol.1】

かつてない速度で移動・交通に対する価値観が変動しているこの時代、人それぞれが求めるモビリティの在り方も転換期を迎えている。そこで、自動車ライター大音 安弘が、今みんなが気になる次世代モビリティの開発背景やモビリティの魅力に迫る。第1回目は、WHILL社の近距離モビリティ「Model S」を紹介する。

文=大音 安弘

写真=KURU KURA編集部

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WHILLと3種のパーソナルモビリティ

新たな近距離移動手段として注目を集めるパーソナルモビリティだが、全ての製品が万人向けというわけではなく、身障者や高齢者には向かない製品もあるのが現実だ。その中で、全ての交通弱者をカバーし、生活を豊かにできる近距離モビリティと、そのプラットフォーム作りに取り組んでいるのが、「WHILL(ウィル)」だ。同社は、「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに掲げ、個人向け製品として、3つの近距離モビリティを展開している。

製品は大きく二つに分けられる。そのひとつが、幅広いニーズに応える「Model C2」と「Model F」の椅子タイプの近距離モビリティだ。大きな特徴は、建物内にも対応できる小回り性や機動性の良さ、そしてジョイスティックコントローラーによる直感的な操作性などが挙げられる。そして、もうひとつが2022年9月に投入したエントリーモデルで今回の主役となる「Model S」だ。

(写真左)WHILL Model Fは、軽量で折り畳み可能なことが強み。タクシーや電車などの公共交通機関を使った移動にも適している。運転操作はジョイスティックで行う。(写真右)WHILL Model C2は、段差や悪路にも強い走破性の高さが自慢のモデル。シート下には、容量20Lのカゴも備えるなど日常の足としても重宝する。運転操作はジョイスティックで行う。介護保険を利用したレンタルも可能だ。写真=WHILL

WHILL Model Sは、免許不要の歩道を走れる電動スクーター。近距離歩行に問題がない人の利用も想定し、運転操作はクルマに近いものが目指された。満充電で最大33kmの航続距離を実現している。

「Model S」はどうして誕生した?

「Model S」は、4輪カートタイプの電動車で、免許返納後などの移動手段とされる電動アシスト自転車やシニアカーでは満たせなかったニーズを反映させている。最高速度が時速6kmなため、免許が不要で歩道を走ることも可能なのは、他の製品と共通だが、全く異なるデザインと構造を持ち、操作もハンドルとレバーで行う。そして、最大の違いは、椅子タイプの2機種が屋内外の使用を想定しているのに対して、屋外のみとすることだ。

その開発の狙いについて、開発者の一人であるプロダクト・サービス企画室の赤間 礼さんは、「先行する椅子タイプのモビリティは、幅広いニーズをカバーできるように配慮し、開発しました。しかし、多様性と機能性の高さを重視した椅子タイプでは、より歩行に困難を抱える人向けというイメージから、これまでクルマに乗ってきた方がいきなり片手操作のモビリティを選ぶのは抵抗があるという声をいただきました。そこから、違和感なく使える新たなモビリティの構想が持ち上がりました」と話す。

製品の特徴や開発の舞台裏を語ってくれたWHILLプロダクト・サービス企画室の赤間 礼さん。

WHILLはそこから、シニアカー同様の電動4輪カートタイプの構造を採用した。大きく構造変更をした理由のひとつが、ハンドルを備えたモビリティ化の必要性だ。意外なことにユーザーからは、操縦性に優れるジョイスティックが苦手との声があったそうだ。そこで操作や表示など機能面では、アナログ的な要素を重視し、多くの人が慣れ親しんでいるクルマに近いものや、クルマのような乗降性の実現を目指したという。

そして高齢者を含め、健脚の方にも受け入れられるよう、シンプルかつスタイリッシュなデザインにも拘った。このため、操作系の表示も、敢えてクルマ同様の英字表記としている。もちろん、手軽さだけでなく、買い物等の手荷物を収納できるカゴなどの機能性や、乗員に運転を楽しんで貰うべく、操作フィールや乗り心地も徹底したチューニングを施しているという。

ハンドル中央にあるコントロール部。操作は自動車に近いもので、舵取りはハンドル、前進と後退は、左右のレバーを引くことで行う。速度は、ダイヤルで細かく調整できる。

支持される背景には自動車ディーラーでの販売と手厚いサポートとが関係?

現在、WHILLの取扱店舗は、全国で3000店となっているが、Model Sの販売で大きな力となっているのが、全体の4割越えとなる1300店の自動車ディーラーだ。ディーラーは、クルマを通じて育んだユーザーと人間関係に加え、生活環境も熟知しているため、ユーザーも乗り換え相談がし易く、その後のメンテナンスなども安心して任せられる環境を維持できる。逆にディーラー側からすれば、顧客とのご縁が続くため、WHILLの販売やメンテナンスだけでなく、家族向けなどの将来的なクルマの販促にも繋がる可能性も高い。まさにウインウインの関係なのだ。

価格については、購入し易さを重視した。安価とは言えないものの、電動アシスト自転車と原動機付自転車の間を目指し、25.7万円(※消費税非課税)からとした。他社のシニアカーよりも手頃な価格である点も強みとなっている。

価格以外の強みとなっているのが、サービスだ。WHILLは自動車任意保険のような保険サービスやロードサービスを提供し、Model S専用サービスとなる「WHILL Family Service」では、車両とスマートフォンアプリによる連携でバッテリー残量や位置情報などを管理。最大5人まで専用アプリによる位置情報や走行ログなどを共有可能。さらに車両が転倒時の通知サービスもある。このように、家族も安心してModel Sを活用してもらえる仕組み作りも行っている。

ボディカラーは、フロントスポーク部の色が異なる4タイプを設定。左からアイコニックホワイト、シルキーブロンズ、ガーネットレッド、ラピスブルー。男性には赤が人気だそう。

「運転する楽しさ」が残されていることが嬉しい!

実際に、公道を試乗してみた。運転操作は非常に簡単で、キーによる電源ONで発進が可能となり、加減速は1本のレバー操作のみだ。手前に引くと加速し、離せば瞬時に減速し、停車する。前進と後退は、左右のレバーで分かれているので間違いにくい。さらに速度調整はレバーではなく、コントロールパネルにある専用ダイヤルで行うため、不用意に加速する心配もない。その走りは、小さなタイヤだが、非常に安定している。段差も7.5cmまで乗り越えられるので、車道と歩道にある段差でもスムーズ。その際の衝撃も、しっかりと吸収してくれるサスペンションも備えているのも良い。ステアリング操作感覚は、バーハンドルタイプの自転車に近いが、しっかりとして手応えがあるため、微調整もし易かった。慣れてくると、ちょっとドライブに出掛けてみたくなった。最高速度は時速6kmなので、速さはない。ただ走ると心地よい風が感じられ、運転する楽しさを感じた。個人的には、サーキットなどの広い会場を取材する際の移動手段に使ってみたくなった。

成人の平均歩行速度である時速4km前後と比べて時速6kmはスイスイ進む感覚が得られ、心地良い。

段差7.5cmまで対応できるので、車道と歩道にある段差も楽々と越えられる。また、大径タイヤとリヤサスペンションのおかげで、段差を超える際の衝撃も少ない。

今後はWHILLの無人シェアサービスが始まる?

これからのWHILLについて、日本事業部 上級執行役員 事業部長である池田 朋宏さんは「WHILLの製品は、身障者や高齢者向けと思われがちですが、徒歩で歩き回ることが多いショッピングモールや遊園地などの大型商業施設の移動手段としても有効です。すでに“WHILL SPOT”としてWHILLが一時的に借りられる施設が全国各地に増えてきていますが、2024年春以降は、スマホアプリを活用し、無人で貸出と返却ができるサービスも提供する予定です。日常生活の中で、短時間でもWHILLを活用してもらうことは、将来のユーザー獲得にも繋がります。私たちは、近距離モビリティによるサービスを提供する会社として成長していきます。WHILLの製品は、その手段のひとつです。ハードだけでなくソフトも内製していることを強みに、お客様とより身近な存在となっていきたいです」とした。

同社が目指す、誰でも安心して使える近距離モビリティサービスのこれからを語ってくれたWHILL 日本事業部上級執行役員 事業部長の池田 朋宏さん。

モダンなデザインと優れたインターフェイスを武器に存在感を示してきたWHILLが、より柔軟な考え方から生み出した「Model S」は免許返納後はもちろん、柔軟にクルマと距離に応じて使い分けもすることで、移動問題を抱えたシニアたちの救世主になろうとしている。今回の試乗では、扱いやすさや高い実用性と共に、新たな近距離移動の手段としての可能性も感じた。その馴染みやすさこそが、WHILLが大切にしている「すべての人の移動を楽しくスマートにする」という想いがもっとも表れている点だと思う。今後は、WHILLの製品が外出先の身近な移動手段となる「WHILL SPOT」にも取り組んでいくというだけに、誰もが日常的にWHILLを活用する日も、そう遠くはないかもしれない。

※Model Sのディテール画像は各画像をクリック、または【記事の画像ギャラリーを見る】よりご覧いただけます。

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