シニアカーの死亡事故は増えている! 事故での死亡率6割の実態。
nite(独立行政法人製品評価技術基盤機構)によると、2013~2023年(2023年は7月末まで)のシニアカー(ハンドル型電動車いす)の事故総数40件のうち、死亡事故は24件、重傷事故は9件になっているという。さらに、2023年1~7月時点で、死亡事故6件、重傷事故1件と、例年と比較して事故が多く発生している。高齢者の生活の質を維持しながら命を守るためにも、シニアカーの安全対策を考えていきたい。
シニアカーの事故は死亡率が高い!
最近、近所の生活道路やスーパーマーケット、コンビニなどの店内で見かけることが増えた「シニアカー」。歩行に支障が出てきた高齢者などが、普段の生活の中で手軽に利用できるよう工夫された、ハンドル操作の電動車いすである。電動の乗り物ではあるが、交通ルール上は電動車いす同様に歩行者として扱われる。もちろん、運転免許証なども必要ない。
自転車に乗れなくなった。長距離を歩けなくなった。このような高齢者にとって、外出時の“足”となっているシニアカーは、介護保険制度の福祉用具貸与種目の対象となっており、基本的には要介護認定2以上の高齢者であれば、原則1割の負担でレンタル利用できることから利用者も増えている。
なお、正確には「ハンドル型電動車いす」というが、本記事ではわかりやすいようシニアカーと記載する。また、セニアカーと呼ばれることもあるが、これはスズキの商品名である。
nite(独立行政法人製品評価技術基盤機構)に問い合わせたところ、2013~2023年(2023年は7月末まで)のシニアカーの製品事故情報は40件。そのうち、死亡事故は24件、重傷事故は9件であった。シニアカーの事故は、死亡や重症にいたるケースが高いといえる。
さらに、2023年1~7月末時点のシニアカーの死亡事故は6件と、例年と比較して増えている。新型コロナウイルスの感染状況も落ち着き、積極的に外出する高齢者が増えているのかもしれない。
シニアカーの事故の被害内容は?
シニアカーの事故は死亡率が高いとともに、踏切での事故が多いという特徴もある。niteによると、シニアカーの主な事故の状況は以下のとおりだ。
- 側溝などに転落……14件
- 踏切で電車と接触……14件
- 走行中の転倒……7件
踏切で電車と接触する事故は、ハンドルを切ってレールに車輪がはさまったり、アスファルト舗装部の端部に寄りすぎて脱輪するなどが原因になっている。また、側溝などに転落する事故も多く、こちらは幅の狭い道路やガードレールのない道路で、路肩に寄りすぎたことなどが原因という。どちらかというと、操作ミスや操作の未熟さからくる事故といえそうだ。
また、シニアカーの事故は利用者が単独で走行しているときに発生することが多く、特に死亡事故の場合は事故状況がつかめず、原因を特定できないものもあるという。
シニアカーの事故を防ぐには?
一方で、シニアカーは高齢者の生活を支える大切な乗り物でもある。利用者ができることで、より安全に使うにはどうすればいいのだろうか。
安全確保の上でまず大切なのは、初めて使う際に、必ず利用者と介助者が一緒に、自宅の敷地内など広くて安全なところで練習し、操作や速度に十分慣れてから道路に出ることである。操作が簡単なことや速度が遅いこともあり、特に自動車やバイクを乗っていた人は問題ないと感じるかもしれないが、サイズ感や速度感は他の乗り物と明らかに異なるものだ。
はじめて道路に出るときも必ず介助者が同行し、交通量や段差の有無、踏切の状況などを確認したい。普段と異なるコースを走る際も同様だ。はじめてのコースで、万が一、足の不自由な利用者が動けなくなると、事故の危険も高くなる。また、利用者も介助者も、取扱説明書をよく読んで正しい使い方をすることも、事故防止には欠かせない。
その上で、シニアカーを利用するうえで気を付けたいポイントは以下のとおりだ。
- 側溝のある道路、急な坂道、踏切の通行を避ける
- やむを得ず、踏切を横断するときは、線路に対して直角に渡る
- 夜間の外出は避ける
- 体調不良時や眠くなる薬を服用したときは使用しない
- 所有するシニアカーがリコールの対象となったら、絶対に乗らない
- 定期点検や乗車前点検(特に、バッテリー残量の確認)を習慣にする
加えて、niteでは、シニアカーを手押しする際に動力源との接続を切るクラッチの問題もありそうだという。もしも坂道でクラッチが切れたままになると、本来の速度(時速6km以下)を超えて坂道を下る危険もある。
本来、クラッチの位置はシートの背面など、手を伸ばしても届かないところにあり、クラッチを握るとはずれ、手を離すとかかるようになっている。基本的に利用者が誤って切るようなことはない。しかし、むりやり上体をねじるなど、通常とはいえない姿勢を取れば、クラッチに手が届いて意図的に切ることも考えられなくはないという。niteでは、利用者も介助者も「手押し時以外は、クラッチを切ってはいけない」と認識しておく必要があると話している。
最後に、被害者側になりやすいシニアカーだが、自走する乗り物だけに加害者になる可能性もある。実際に筆者は、近所のスーパーマーケットでシニアカーのタイヤに踵を踏まれた経験がある。幸い、たいしたことのない擦り傷ですんだが、子どもの足だったら大きな事故につながっていたかもしれない。店舗内など屋内でも使える乗り物だけに人との距離も近く、速度が遅いからといって油断すると加害者になってしまう危険もある。
普及と同時に死亡事故も増えているシニアカー。高齢者が安心・安全にシニアカーで外出するには、利用者と介助者で対策に取り組むのはもちろん、皆さんも、近所を歩いているときにシニアカーを見かけたら、安全に走れるよう見守ってもらいたい。特に踏切ではお願いしたいところである。
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