トヨタのオシャレ番長!「カローラFX 1600GT」──80年代ホットハッチの名車たち(第3回)
80年代を賑わせたトヨタのホットハッチ「カローラFX 1600GT」は、当時最高にオシャレなクルマだった? 自動車ジャーナリストの武田公実氏が解説する。
トヨタ カローラFX 1600GTとは?
コンパクトな実用ハッチバック車をベースとする高性能モデルが、スポーツカーないしはスポーティカーの新たなジャンルとして認知され始めた1980年代。この時期には本家たるヨーロッパのほか、日本からも人気の「ホットハッチ」、あるいは「ボーイズレーサー」とも称された魅力的なモデルたちが数多く登場した。そんなクルマたちをご紹介するのが、「80年代ホットハッチの名車たち」。
今回は「ちょっと気どった2BOX上級生」なるキャッチフレーズとともに、1984年秋にデビューしたトヨタ・カローラのホットハッチ版、カローラFX 1600GTをご紹介したい。
国産ホットハッチ随一の“オシャレ番長”
1974年にフォルクスワーゲン・ゴルフが登場して以来、ヨーロッパの小型車マーケットでは、前輪駆動の2ボックススタイルが主流として定着していた。いっぽう日本市場における小型車は、依然として独立したトランクを持つ3ボックスの4ドアセダンが本命。1983年(昭和58年)5月に登場した初のFFカローラでも、ノッチバックの4ドアセダンが中核モデルとして設定されていた。
しかしこの5代目カローラは、トヨタの世界戦略車となるべく企画・開発されたことから、欧州およびオセアニア市場に向けて2ボックスの3ドア/5ドアボディも用意。そして、ヨーロッパ的な自動車文化が急速に流行しつつあった日本国内マーケットでも「カローラFX」なる独立シリーズとして、翌84年10月3日に正式リリースされることになった。
FXとは「Futurue(未来)」と未知数の「X」を組み合わせた造語とのこと。この代のカローラ/スプリンターには、ファストバック・スタイルのハッチバック(リフトバック)も用意されていたが、さらにFXではセダンのリヤウインドウから後ろを潔くカットし、全長を165mm切り詰めるという大胆なデザインを採用。結果として、極めて個性的かつスタイリッシュなフォルムを獲得することになる。
AE86レビンより速かった!
パワーユニットとして選ばれたのは、同時代のFFカローラ・セダンと同じ1.5リッター「3A-LU」型と1.6リッター「4A-ELU」型エンジン。そして、ホットハッチが存在感を強めていた当時らしく、3ドアにはシリーズ最上級モデルとして「1600FX-GT」がラインアップされることになった。
1600GTには、FXのリリースと同時に追加発売されたセダン1600GTや、4カ月前に先行デビューしていたミッドシップ・スポーツ「MR2」とも共通となる4A-GELU型DOHC16バルブエンジンが搭載される。これは、AE86用の4A-GEUを横置きに仕立て直したもので、FF 2BOX用としては日本初のDOHCだったという。最高出力は130ps/6600rpm、最大トルクは15.2kgm/5200rpm(ともにJISグロス値)を発生すると謳われた。
このパワースペックは、1983年にライバルである日産パルサーに投入された1.5リッターSOHCターボの数値を上回るもので、こののち国産ホットハッチはレスポンスに優れる「テンロク」1.6リッター自然吸気マルチバルブが主流となってゆく。カローラFXの登場から3週間後には、ホンダがワンダー・シビックに「ZC」型1.6リッター DOHC16Vを搭載する「Si」を追加投入。いすゞジェミニや三菱ミラージュなどにも、1.6リッターDOHC16Vユニットを搭載するボーイズレーサー的な高性能モデルが設定されることになるのだ。
そしてカローラFX-GTは、この時代のグループA規約とともに大人気を博し、ホットハッチの売り上げも左右すると言われていた全日本ツーリングカー選手権にも積極的に参加。1986年の「インターTEC」では総合9位、ディビジョン1(1600cc以下)でクラス優勝を獲得している。ちなみに同じレースには後輪駆動のAE86レビンもエントリーしていたそうだが、ことサーキットでの速さでは前輪駆動のカローラFXに及ばなかったという。
1986年 #JTC
全日本ツーリングカー選手権#TOYOTA TEAM TOM’S
ミノルタα-7000 #トムス FX#関谷正徳 #鈴木利男雨中の激戦を制して総合優勝した
Hi-Land TOURING CAR 300km
が印象的でした#TomsRacing #カローラFX#車好きと繋がりたい pic.twitter.com/e18y8MsrAa— TOM’S Racing (@tomsracing) August 31, 2019
トヨタのオフィシャルチューナーメーカーのTOM’Sは、1986年にカローラFXで全日本ツーリングカー選手権に参戦。当時の勇姿をTwitterで公開している。
1980年代に巻き起こった「イエローバルブ」ブームって何だ?
しかし、この時代のホットハッチでは「速さ」も重要なセールスポイントながら、カローラFXが我々の記憶に今なお残っている最大の要因は、とにかく「オシャレ」だったことと言わねばなるまい。
1980年代初頭までの小型大衆車では、マットブラックないしはダークグレーの無塗装樹脂製保護モールが、前後バンパーから左右フェンダー、ドアまでグルっと一周するデザイン様式が一般的だった。ところがカローラFXのGTモデルで、ホワイト(いわゆるスーパーホワイトII)かシルバー、あるいはレッドのボディカラーでは前後バンパーおよび左右のドア保護プレート、サイドスカート、ドアミラーなどすべてをボディ一体色にする「フルカラー仕様」も選択可能とされ、格段に高級かつ一体感のあるアピアランスを獲得。このボディ同色スタイルは、直後から国産ホットハッチの定番となっていった。
そして極めつけは、イエローバルブのヘッドライトだろう。おそらくは1983年に本国デビューしていたプジョー205GTIなどのフランス車の影響と思われるが、FX-GTではオプションでイエローバルブが選択可能とされ、身内であるスターレット・ターボ(EP71系)はもちろん、明らかにカローラFXを意識したいでたちで1986年5月にデビューした日産三代目パルサーなどにも波及。さらにはアフターパーツとしても大人気を博するなど、日本国内でも短期間ながらイエローバルブの謎ブームを巻き起こすに至ったのだ。
車体や排気量の大きさ、あるいは派手な装飾パーツなどではなく、確たるセンスもステータスを体現するものとなり得る。その真理を証明するかのように、ホットハッチというカテゴリーでは「オシャレさ」を評価軸とする、それまでのわが国にはなかった価値観がもたらされた。
そしてこののち、日本は空前の好景気のもと輸入車も交えた「ホットハッチ群雄割拠」が繰り広げられることになるのだが、初代カローラFXによって構築されたイメージの影響力は、今となっては決して小さくはなかったと思うのである。
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