事故の記録を残す「EDR」義務化。ドラレコとは何が違う?
交通事故発生時の状況を記録するEDR(イベント・データ・レコーダー)をご存じだろうか。事故状況の記録というと、最近では後付けのドライブレコーダーが知られているが、EDRはクルマの製造時に組み込まれる装置。ドライブレコーダーが映像や位置情報、加減速情報等を記録するのに対して、EDRは実際の速度、アクセルやブレーキの操作状況などを記録する。池袋暴走事故でも注目され、搭載義務化の方針が決定したEDRについて、具体的な機能や特徴を解説しよう。
クルマの操作も記録する装置「EDR」
昨今、ペダルの踏み間違いや逆走、あおり運転など痛ましい交通事故が絶えない。こうした事故発生時の状況を把握するために役立つのが、クルマに後付けで装着可能な装置、ドライブレコーダーである。ドライブレコーダーの主な機能は、運転中の映像の録画や録音だ。この機能により、事故の加害者・被害者の記憶のみに頼らない真実をしっかりと確認することができ、結果として事故処理の迅速化を図ることもできるようになった。
一方、正確な速度や衝突時の衝撃の大きさの記録は一般的なドライブレコーダーでは記録が難しく、アクセルやブレーキの操作状況なども、多くのドライブレコーダーでは記録できない。しかし、事故調査の上ではこれらの記録が重要になることも多い。たとえば、先日東京地裁で判決のあった池袋暴走事故のような、ペダルの踏み間違いが問題になるケースがそうだろう。
今回のテーマであるEDR(イベント・データ・レコーダー)は、こういったドライブレコーダーでは記録が難しい、事故時のペダルの情報や正確な速度や加減速、シートベルトの状態などを記録する装置である。EDRが搭載されていれば、「アクセルペダルを踏んでいないのに加速したため、衝突してしまった」といった証言を確認することも可能になる。
EDRはすでに米国で装着が義務化されていることもあり、日本国内で販売されているクルマも含めて、現在製造されているクルマの多くがすでに搭載している。ただ、後付けのドライブレコーダーとは異なり、クルマの製造時に組み込まれる装置のため、自分のクルマにEDRが搭載されていることを知らないユーザーも少なくなさそうだ。
EDRは、基本的に、エアバッグを作動させるためのコンピューターと連動し、エアバッグ等が作動するような事故において、事故前後の車両の運動データや運転者の操作等を記録する。事故発生前は、5秒間さかのぼって記録されるという。記録されたデータは上書きされることがないため、その信頼性は非常に高い。飛行機に搭載される「ブラックボックス」に似た装置といえそうだ。記録される主なデータは以下の通りだ。
【EDRにより記録される主なデータ】
・加速度
・車両の速度
・シートベルトの状態(運転者)
・ブレーキのON/OFF
・アクセルの開閉状態 等
上記からも分かるように、EDRには映像データは記録されない。プライバシーへの配慮等から映像データを含まないといわれるが、実際の事故分析においてドライブレコーダーの事故映像が活用されていることから考えても、映像データの扱いは将来の検討課題といえそうだ。
また、これらEDRに記録されたデータを解析する場合に、各自動車メーカーの装置によって解析を行うことは、裁判などの証拠として客観性に欠けるという見方もある。このため、ドイツのボッシュ社では、公明性を重視するために、複数の自動車メーカーのEDRデータにアクセスできるCDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)を開発し、活用が広がっているという。CDRを活用するには専門的なトレーニングが必要なことから、同社ではCDRアナリスト認定トレーニングも行っている。
さらに今後、最初からクルマに搭載されたEDRのデータは誰の所有物なのかといった問題もでてくるかもしれない。後付けで、データの扱いも容易なドライブレコーダーは、ユーザーが自分のための記録として活用しやすいが、EDRのデータはユーザーが容易に扱えないだけにその利用方法も課題となりそうである。
日本では2022年7月から新型車全車にEDR搭載か
EDRは、米国において2019年9月1日より連邦規則として搭載が法制化された。日本では、今春、国連でEDR標準化の協定が締結されたことを踏まえて、2021年6月、国土交通省がEDRの新車搭載義務づけの方針を決めた。この秋には道路運送車両法の保安基準を改正し、新型車は2022年7月から全車に搭載が始まる予定という。
EDRの解析データは、記憶や主観に頼らない客観的なデータとして非常に有用性が高いといえる。EDRによる正確で迅速な事故解析が進むことを期待したい。