交通事故死者が大幅減。一方で高齢歩行者の割合増加。2020年交通事故発生状況
警察庁は2021年2月18日、2020年の交通事故発生状況を発表した。全体的には、交通事故による死者、重傷者ともに前年より減少の傾向が見られる中、それらの要因についてはどのようなものがあったのだろうか。警察庁の分析をもとに、要因を紐解いてみよう。
交通事故発生における死者数は約12%減
「令和2年における交通事故の発生状況等について」が2月18日、警察庁から発表された。発表されたデータによると、交通事故による死者数、重傷者数ともに前年から減少したことが明らかとなったが、一体どのような要因があるのだろうか。
まず死者数は2839人で、4年連続で戦後最少を更新した。2019年に比べると376人減(11.7%減)となり初めて3000人を下回った。警察庁は同資料の中で、高速道路の交通量が減少したことを背景に、5・6月の高速道路における死者数が大幅に減少したと記載している。減少率では、昨年に比べると2.7ポイント上昇している。
独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構「各高速道路会社の交通量データ」を元に同庁が作成したデータを見てみると、NEXCO三社の交通量は4~6月が前年同期比72.3%と最も低くなっている。これは、ちょうど緊急事態宣言が発出されていた時期と重なる。そして、同じく高速道路における月別交通事故死者数では、2019年が43人であるのに対し、2020年の4~6月が24人と約2倍もの差があることが見て取れた。
高速道路以外の死者数も見てみよう。こちらも前年と比べると減少しており、高速道路の統計と同じ期間で見ると、4月~6月は609人と最も少ない。しかし、前年同期が682人と、高速道路における死者数ほど大きな差がないことも分かった。緊急事態宣言による外出自粛の交通への影響は、レジャー利用の頻度が高い高速道路における交通事故発生状況に表れているといえよう。
交通事故発生における重傷者数は約13%減
次に重傷者は2万7774人で、前年から4251人減(13.3%減)となった。グラフを見ると、過去10年において重傷者数が減少し続けているが、2020年は特に交通量の減少が影響してそうだ。実際、4・5月の重傷者数が著しく減少している。
月別の交通量の推移を見ても、2020年は8月以外の全ての月において2019年を下回った数値となっている。特に、4・5月の交通量は、4月が10235台から8810台、5月が10265台から8577台と顕著な差だ。重傷者数の月別推移を見ても、12か月全てにおいて2019年の数値を下回っており、なかでも4月の減少率が825人から1832人、5月が2511人から1767人で最も大きい。ここでもやはり、緊急事態宣言の影響が見て取れる結果となった。
高齢者の死者数・重傷者数は増加傾向
一方で、全体の数値が減っているのに対し、高齢者の死者数と重傷者数の割合は、高齢者死者数が前年の55.4%から56.2%、高齢重傷者数が38%から38.2%と微増していた。一体何故なのだろうか。
その要因は、交通事故の状態別死者数の推移から探れそうだ。まず、全体の状態別死者数では歩行者が35.3%と最も高い。65歳以上の高齢者になるとその割合はさらに増加し、歩行中の交通事故による死者数は46.6%、重傷者数は37.9%となる。いずれも人数としては前年より減少したが、割合においては増加している。交通事故における歩行中死者数の割合が高いのは例年のことだが、特に2020年は外出自粛の影響で、徒歩圏内における移動が増えたためではないかと考えられる。
さらに高齢者の事故類型別死者数を見ると、横断中の事故発生が全体の76%もの高い割合を占めていた。
カーリース運営会社のナイル株式会社が2020年11月に実施した「新型コロナの流行による移動手段の変化」によると、新型コロナ流行前と後の公共交通機関の利用者は39%から32.2%に減少している。一方で、マイカー利用者は43.1%から47.2%と増加し、その主な利用目的に近所への買い物があげられた。つまり、通勤・通学での公共交通機関の利用が減る一方で、日常生活における近所でのクルマ移動が増えたということだ。この近所におけるクルマ移動の増加が、高齢者における歩行中の事故発生割合の増加へつながっていると考えられそうだ。
2020年の交通事故発生状況は、数値を見れば前年より死者数・重傷者数ともに大幅に減少し、その要因としては新型コロナ感染対策の一環である緊急事態宣言や外出自粛が考えられることがわかった。一方で、それによってマイカー利用の割合が増加したことが、高齢歩行者の事故割合増加の原因になっている可能性もある。