ポルシェ964ターボの走りに酔いしれろ!【映画の中のクルマたち Vol.01:バッドボーイズ】
映画を彩った名車たちを紹介する新連載がスタート。第1回はウィル・スミス主演の映画『バッドボーイズ』に登場した、ポルシェ 911ターボ3.6を紹介しよう。
ともに19世紀末に誕生した、「自動車」と「映画」はとても親和性が高い。
もともと産業革命以後の最新テクノロジーから生まれた「文明」として誕生しつつも、いつしか「文化」へと昇華し、全世界に熱心な愛好家を得るに至ったのは自動車と映画くらいのもの。また、これまで銀幕には数多くのクルマたちが登場してきたことも、誰もが知ることであろう。とりわけ、まさしく名車というべきクルマたちが名演を披露してきた事例も、決して少なくはない。
そこでこの特集企画では、名画に登場した名車たちをピックアップし、そのエピソードを探ってみることにした。今回は、ハリウッド作の超人気シリーズ第一弾に登場した、ある希少なポルシェ・ターボについてお話ししたい。
ウィル・スミスが漆黒の911ターボで大活躍!
ポルシェ911は、自動車界きってのカリスマ的スポーツカーとして全世界に認知されるモデル。しかも、その生産期間は約60年に及ぶにもかかわらず、銀幕での活躍は意外なほど少ないようにも感じられる。そんな状況の中、今回はポルシェ911が主人公の愛車としてメインを張り、白熱のカーチェイスまで披露した稀有な一例をご紹介することにしよう。
それは、1995年に公開されたハリウッド発の痛快アクションムービー「バッドボーイズ」である。
舞台は、享楽と犯罪の巨大都市フロリダ州マイアミ。この街では、凄腕の黒人刑事コンビが活躍していた。その一人は、当時からすでに人気を得ていたコメディアンのマーティン・ローレンスが扮するマーカス・バーネット刑事。家族を何よりも愛し、あくまで平和主義者であるマーカスに対し、直情的な気質で暴走しがちな相棒、マイク・ラーリー刑事は、今や押しも押されもせぬ世界的スーパースターとなったウィル・スミスが演じる。
ある日、マイアミ警察に押収されていた1億ドル相当のヘロインが、何者かによって強奪される。いっぽう、ヘロインを盗み出したフーシェ(チェッキー・カリョ)率いる犯罪組織の殺人現場に居合わせたことで、組織から追われる身となったジュリー(ティア・レオーニ)は、殺された親友から名前だけを聞いていたマイクのアパートに逃げ込み、そこに偶然マーカスがやって来たために彼をマイクと誤って認識。自身の身柄保護を求める。
そこでマーカスとマイクは、互いの立場を入れ替えたまま彼女を保護し、同時にヘロイン盗難と殺人事件の一気解決を図ることにした……。マイクは、幼い頃に亡くした両親から莫大な遺産を受け継いだ独身貴族という設定。クールなプレイボーイでもある彼にとって、最大の趣味はスーパーカー。そして愛車は、映画制作当時のポルシェ最強のスーパースポーツ、「911ターボ3.6」である。
911ターボ3.6とはどんなクルマだった?
1989年に登場した964系911シリーズに、その2年後にあたる1991年後半から加えられたターボ版は、当初930シリーズ以来の3.3リッターエンジンをキャリーオーバーで搭載していたが、インタークーラーの大型化などによって、930時代から20psアップとなる320psのパワーを得ていた。
そして、翌1992年には内装の簡略化などで軽量化したボディに、381psまでパワーアップしたエンジンを搭載した「ターボS」が世界限定80台のみ生産されたのち、1993年には360psの3.6リッターの空冷フラット6ターボエンジンを搭載した、964時代のポルシェ911ターボとしては最終進化形となった「911ターボ3.6」に進化を果たすことになる。
パワーこそターボSには少々及ばなかったものの排気量アップの効果は明白で、最高速が3.3リッター時代から10km/h増しの280km/h、0-100km/h加速も0.2秒の短縮に成功していた。
そのターボ3.6こそが、劇中でマイクの愛車として出演するモデル。限定モデルというワケではないものの、アメリカに輸出された台数は極めて少なかったとされる。
ウィル・スミスの出世作
作品のオープニングから「地球上で一番速いクルマ」とか「0-100km/h加速は4.14秒」など、ウィル・スミス演じるマイクは自身の愛車911ターボ3.6への熱い思いを語るいっぽうで、空港を舞台とするクライマックスでは悪漢フーシェの駆るシェルビー・コブラ(もちろんレプリカ)を相手に、全速力の”チキン・ラン”も演じてみせる。
この作品における漆黒の911ターボ3.6は、マーカスとマイクと並ぶ、もう一人の”バディ(相棒)”と言っても差し支えないほどの存在感を示すのだ。
ウィル・スミスが「インデペンデンス・デイ(1996年)」や「メン・イン・ブラック(1997年~)」の大ヒットで一躍スターダムにのし上がる直前の作品ということもあって、のちの続編「バッドボーイズ2バッド(2003年)」に比べると、このシリーズ第一作は知名度ではイマイチの感もある。
しかし、独特のカメラワークが見せる緊迫感と”バッドボーイズ”2人の軽妙なやり取りの対比は、なかなかに魅力的なもの。そしてなにより、希少な911ターボ3.6のクールな活躍がこれほど観られる映画など、どのハリウッド作品を探してもあり得ないだろう。
そのかたわら、このポルシェ911ターボ3.6の存在が絶大なものであったことは、2022年1月の北米MECUMオークションにて、このモデルのマーケット相場の4倍以上にあたる、143万ドル(約1億8000万円)で落札されたことでも証明されたのである。