日本の電動バイクはどうなる? 東京モーターサイクルショーを終えて
東京モーターサイクルショー2023(東京MCS)では、様々な新作が発表され、会場は大いに賑わっていたが、国内メーカーの電動バイクは海外に比べて主張が弱い印象を受けた。そこで、国内バイクメーカーの直近の電動バイク関連トピックスをまとめてみた。
国内バイクメーカーのEVシフトは進んでいるのか?
第50回 東京モーターサイクルショー(東京MCS)において、ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内4メーカーの展示ブースを見終えて気付いたのが、原付や電動バイクの存在感をほとんど感じなかったということだ。
50cc以下の原付一種については、年々強化される排ガス規制に対して、メーカー側は技術的に規制はクリアできるが、コストが見合わないと考えている。たしかに20万円もするような原付が売れるとは思えないので、これは仕方がない。では、電動バイクはどうだろう。現在、国内のバイクメーカーから市販車として発売しているのはヤマハのe-Vinoくらいだ。東京ビッグサイト会場内の海外の電動バイクに目を向けると、シティコミューターからオフロード、ネイキッド、スポーツなどジャンルも豊富で、デザインも斬新なモデルが並んでいた。
日本は明らかに後れを取っている印象を受けるが、実際はどうなのか。東京MCSを含め、イベント開催前後にあった国内メーカーの電動バイクの動きについて確認してみよう。
Honda 「EM1 e:」
2025年までに海外向けを含め、10モデル以上の電動バイクを導入すると発表しているホンダ。既にビジネス向けに「BENLY e:」や「GYRO e:」などを扱っているが、一般向けの市販車はまだ登場していない。
今回の東京MCSで国内初公開となった「EM1 e:(イーエムワン イー)」は、日本国内での市販予定車として登場。EM1 e:はホンダの交換式バッテリー「モバイルパワーパックe」で駆動するスクーターだ。詳細は明かされていないが、最高速度は時速45kmで、1回のチャージで航続距離は40km以上とされている。
自宅から数キロ圏内の移動だけで済むのであれば、充電も自宅のみで充分だ。これから姿を消すであろう原付スクーターの代替え用として、EM1 e:は誰でもすんなりEVシフトができそうな手堅いモデルになりそうだ。
YAMAHA 「E-01」「E-Vino」
東京MCSで展示されていたE-Vinoは、国内で一般向けに市販されている唯一の原付電動バイク。バッテリーは交換式で、最高出力は1.2kWで約3時間で満充電となり、時速30キロの標準モードで32kmの航続距離となる。価格は31万4,600円。
ヤマハの実証実験用電動スクーター「E01(イーゼロワン)」は2022年のモーターサイクルショーに出展された。人気急上昇中の125ccクラス相当の出力を持ち、最高速度時速100kmに加え、満充電では100kmの航続距離を実現。バッテリーは交換式ではなく充電式。今年は出展されず、市販のアナウンス等もなかったが、実証実験やアンバサダーへのリースを経て、どのような回答を出すのか、気になるところだ。
SUZUKI 「e-BURGMAN」
スズキからは、東京MCS開催後の3月29日にバッテリーシェアサービス「Gachaco※」が提供する交換式バッテリーを使用した電動スクーターの実証実験を4月よりスタートするとのアナウンスが入った。テストには原付二種電動スクーター「e-BURGMAN(イー バーグマン)」が用いられる。最高出力4.0kW、最大トルク18Nmを発揮し、航続距離は時速60kmの低地走行で44km。今回の実証実験では通勤・通学・買い物など日常生活の移動手段としてバイクに必要なデータを収集することが目的とのこと。航続距離が44kmでも、バッテリー交換式の有用性を示せれば、市販車として期待してもよさそうだ。
※ENEOSと国内バイクメーカー4社が共同出資して設立した企業。
Kawasaki 「Z/Ninja」
カワサキは東京MCSでの電動バイクの出展はなかったが、ネイキッドタイプのZ(写真左)と、フルカウルのNinja(写真右)と、ハイブリッドバイク(写真下)の計3種を2022年にイタリアの国際見本市で出展。その後は東京都が主催するイベントに実車を展示している。どのモデルもプロトタイプではあるが、Z・Ninjaの電動バイク2種は2023年に発売予定としている。バッテリーは取り外しても車体に搭載したままでも充電することができる仕様のようだ。
ハイブリッドバイクは自社開発のハイブリッドエンジンを搭載し、燃費の良さと高い走行性能を両立させるとのこと。通勤通学からスポーツ走行やツーリングなど走行シーンに合わせ、モーター走行またはモーターとエンジン併用走行の切り替えが可能だ。
いずれのモデルも原付二種クラスに相当するようだが、日本の電動バイク=スクーターモデルという印象が続く中、ネイキッドやスポーツタイプがこうして出てくれば、もっと注目が集まりそうだ。
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国内5社目のバイクメーカーを紹介!
aidea「AA wiz PRO」
2022年に国内5社目のバイクメーカーとして認定された「aidea(アイディア)」からは、AA wiz(AAウィズ)などの電動バイクが東京MCSに出展された。aideaの車両デザインはイタリア人デザイナーが手掛けており、日本製でありながら赤や黄色のイタリアンな色使いや直線を用いた外観が特徴的。AAウィズは約4kWhのバッテリーを搭載し、充電は100Vなら約6時間、200Vなら約3時間で満充電、一回の充電で最大123kmの走行が可能だ。写真上のモデルはフロントバスケットにフットブレーキ(右足で後輪の制動を行う)と大型リアキャリアを搭載したAAウィズPROというモデルで、新聞配達専用という尖ったコンセプトを持っている。車両区分は原付一種(50cc)で、定格出力は0.6kW、最大積載量は30kg、今春から発売予定で価格は通常モデルが52万8,000円、PROが53万9,000円。会場ではAAウィズの3輪モデルも展示されていた。
DID 「e-CONCEPT」
世界的なチェーンメーカーであるDID(大同工業)は、なんと自社で電動バイク「e-CONCEPT(eコンセプト)」を開発して参考品として出展。eコンセプトは1回の充電で70kmを走ることができ、最高速度は時速100km。部品メーカーが作ったバイクということで、注目を浴びていた。DIDでは、このeコンセプトはこのモデルが完成形ではなく、各部品の小型軽量化や配置の最適化を目指し、同時に本来の事業である電動バイク向けのチェーン開発を進めているという。バイクメーカーとは違った部品メーカーによるEVバイクへのアプローチは新鮮だ。
焦りは禁物か
国内バイクのEVシフトは、原付一種クラスの衰退を埋めるように、通勤・通学・買い物に便利な電動スクーターや、BtoB向けに配達に適した三輪モデルなどが少しずつ出てきてはいるが、まだまだ様子見という印象が強い。世界から遅れているということでネガティブな意見を持っている人もいるだろう。しかし、二輪車のEV化については、まだまだ賛否両論がある。便利に使うには、交換電池の仕様などの統一も必用になるだろう。現在のバイクブームには、エンジン車に魅力を感じているという面もあると思うので、急いで電動化に進む必要はないのかもしれない。
とはいえ、エンジンが無いバイクの魅力の追求、現実的な本体価格の提示、充電環境の充実、免許証など法の整備はしっかりと進めて欲しい。そして、電動バイクのあるべき姿について、国内バイクメーカーが世界に向けてどのような答えを出すのか、しっかりと見届けたい。