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最終更新日:2023.03.04 公開日:2023.03.04

もし一般ドライバーが「サーキットを走る能力」を手に入れたら──『私のAE86物語』前編

サーキット走行の技術や経験は、一般ドライバーにも役に立つのか? モータージャーナリストの大谷達也が初代”ハチロク”を使って運転レッスン。公道でも役立つ情報をお届けします。今回はその前編。

文=大谷達也 写真=田村 弥

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発見と再確認

 数年前まで、自分がここまでサーキット走行にのめり込むとは思ってもいませんでした。

 それが、この3年の間にサーキット走行用の中古車を手に入れ、友人を先生にしてサーキットでの練習に明け暮れ、ついには8年ぶりに4輪レースに出場して21台中7位でフィニッシュ! しかも、久しぶりのレース出場に備えてレーシングスーツを始めとする用具を改めて買い直してみたところ、その進化の度合いにビックリするという経験もしました。

 私の職業は自動車ライターなので、自動車と直接関係のない会社に勤務されている方に比べれば、サーキットは身近な存在かもしれません。それでも、自分自身がサーキットで濃密な時間を過ごしてみて、「これは普段の運転でも大いに役に立つ」ことを発見しました。そしてなによりも「サーキット走行は楽しい!」ことを再確認したのです。

 というわけで、私がこの3年間で経験したなかで、皆さんにもお役に立ちそうな情報をピックアップしてご紹介しましょう。題して「私のAE86物語」。前、中、後編の3回連載でお届けする予定です。どうぞよろしくお願い申し上げます。

運転がうまくなりたい

モータージャーナリストの大谷達也氏

 私がサーキット走行を始める直接的なきっかけは「クルマの運転がうまくなりたい」ということにありました。

 先ほども申し上げたとおり、私の職業は自動車ライターといって、新型車に試乗してその印象をリポートするのが主な仕事です。

 正直にいえば、この仕事のためだけなら、必ずしもサーキット走行は必要なかったかもしれません。なにしろ、私の書いた原稿を読んでくださるのは、サーキット走行の経験のない一般の方々が中心。そもそも、そういった方々はサーキットではなく公道でクルマを走らせるのですから、サーキット走行の技術や経験がなくても試乗記を書くのは可能です。

 私は海外で開かれるスーパースポーツカーの国際試乗会に参加することが多く、そこでは公道試乗にくわえてサーキット試乗の機会が設けられていることが少なくありませんが、それでも、これまでの自分の経験とスキルで、なんとかそういった取材もこなしてきました。

 転機は、およそ3年前にルノー・メガーヌ ルノー・スポール トロフィー(以下、メガーヌRSトロフィー)の試乗会に参加したときに訪れました。国内で行われたこの試乗会の舞台は、筑波サーキットのコース2000。筑波サーキットには、全長2kmのコース2000のほか、全長1kmのコース1000もありますが、私はコース2000のほうが走り慣れていたので、なんの不安も抱いていませんでした。

 ところが、このとき私はメガーヌRSトロフィーをまるで乗りこなすことができませんでした。国内トップクラスのドライバーが同じクルマを操ったときのタイムは1分3秒ほど。でも、私のタイムは、それよりも10秒近く遅かったはずです。

 さっきも申し上げたとおり、別に10秒遅くても試乗記は執筆できます。ただし、そのクルマの本質を見抜いたとは、まるでいえません。特にこのクルマは、コーナー進入のブレーキングで後輪を滑らせる”ブレーキングドリフト”を扱えないことには、クルマ本来の性能を引き出せないのです。このブレーキングドリフトができなかった当時の私には、したがってメガーヌRSトロフィーのポテンシャルを半分も引き出せなかったといえます。

自動車ライターとしての能力の限界

筑波サーキットでトレーニング中の様子

 この事実に直面したとき、私は大いに落ち込みました。正直にいえば、3日間くらいまともに寝られないほどでした。なぜなら、自分の自動車ライターとしての能力の限界を思い知らされたからです。

 何度も申し上げるようですが、別にブレーキングドリフトなんてできなくても自動車ライターは務まります。そんな限界的な運転をしなくても、試乗記で書きたくなることは、いくらでもあるからです。けれども、メガーヌRSトロフィーで書くべきことに関していえば、私は十分に引き出すことができなかった。

「今後、もしもメガーヌRSトロフィーと似たようなクルマが登場したら、私は本質をあいまいにした記事を執筆するのだろうか?」そう考えると不安に陥って、夜も眠れなくなってしまったのです。

 そして3日悩み抜いた末に、私は同業者の友人に電話をしました。「どうしてもクルマの運転がうまくなりたいので、協力してもらえないか?」 彼にそう頼んだのです。

 私が電話をしたのは、モータージャーナリストの山田弘樹さん。こうして「私のAE86物語」は始まったのです。

【中編につづく】

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