吉田 匠の 『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.18 新型フェアレディZ(RZ34型)とはどんなスポーツカーか?(後編)
モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する人気連載コラム。第10回目は新型日産フェアレディZを特集する。今回はその後編。
普通のクルマ。でも……
今回、RZ34の上級モデルたるバージョンSTの9段AT仕様、車両本体価格646万2500円+オプション23万4535円也の広報車を借り出した。エンジンは3リッターV6ツインターボで405psのパワーと475Nmのトルクを発生、そういう大排気量の高トルク型エンジンなら、MTの操作を愉しむよりATの方がクルマのキャラクターに合っていると思ったからだ。
日産本社のある横浜から、箱根山中のワインディングロードを目指す。2座コクピットに収まると、ウエストラインの高いボディに低く潜り込んだドライビングポジションに落ち着く。僕は基本的にスポーツカーのシートは低い方が好みだから違和感はなかったが、普段シートの高いクルマに乗っている場合は、シートリフターを使って着座位置を上げるといいだろう。そこで走り出すに際してATをDレンジに入れるが、このATセレクター、パーキングやリバースを含めて、最後まで操作に慣れなかった。従来のAT車のような単純なレバー、あるいは操作が可視できるボタンの方がずっと分かり易いと思うが、どうだろう。
横浜みなとみらいの市街地を走った印象は、普通のクルマだ。普通のクルマというのは決して悪い意味ではない。スポーツカーだからといって、乗り心地が硬かったり、操作系が重かったりということがなく、普通のクルマと同様の快適さで走れる、という意味だ。やがて首都高に乗って、コーナーでスポーツカーの片鱗を味わいながら、16号から東名に入るが、これも普通のクルマの感触。しかもATは9段という多段型だから、Dレンジのメーター100km/hでのエンジン回転数はたった1700rpmにすぎず、エンジン音も静かなものだ。ただし、路面によってはタイヤの発するロードノイズが耳についたが。
東名、小田厚と走って箱根の麓へ、そこからターンパイクを上って、目的地の芦ノ湖スカイラインへ。RZ34型フェアレディZはそれらのワインディングロードで、これまであまり顕著でなかったスポーツカーらしさを、明確に感じさせてくれた。スポーツカーの命ともいえるステアリングは適度に軽くてナチュラルな感触で、レスポンスも良好、切り込むと同時に長いノーズの向きをドライバーが狙ったとおりに変えてくれる。
「一代二役」のキャラクター
RZ34はバージョンSTのAT仕様で車重1620kgとスポーツカーとしては決して軽いクルマではなく、しかもフロントに3リッターV6ツインターボというこれも軽いとはいえないエンジンを積んでいるが、芦ノ湖スカイラインのタイトコーナーの連続でもフロントの重さを感じさせず、オンザレール感覚で狙ったとおりのラインをトレースしていくのが気持ちいい。もちろんエンジンのパワーは充分だし、ブレーキも確実に効く。
新型フェアレディZは、着座位置が低いことを別にすれば都会では普通のクルマと大差ない快適さで普段の足に使えるのに加えて、郊外のワインディングに出てコーナリングをエンジョイしようとすれば、そこではスポーツカーらしさをはっきりと味わわせてくれる。つまり「ダットサン・スポーツ」の末裔は、実用的なスポーツカーが備えるべき「一代二役」のキャラクターを、確実に実現したクルマに仕上がっているわけだ。
ただしこのRZ34型ニューフェアレディZ、世界的な半導体不足に加えて、メーカーが想定した以上のオーダーが殺到したこともあって、日産は現在オーダーをストップしているという。いやはや、買いたいモノが買えないという、おかしな世の中ではある。