「グランツーリスモ」シリーズ25周年を機にスタジオツアーに行ってきた!
「グランツーリスモ」は、シリーズの全世界累計実売が9,000万本を突破しているリアルドライビングシミュレーションレーシングゲームだ。今回は、シリーズの生みの親、山内一典氏が自らガイド役を務めるスタジオツアーに参加させてもらった。「グランツーリスモ」が生み出される環境とはどのようなものなのか、細部へのこだわりを感じるスタジオ内を写真多めで紹介しよう。
山内一典氏が自らガイド!
「グランツーリスモ」(以下、「GT」)シリーズは12月23日に誕生から25周年を迎え、その記念に開発スタジオ「ポリフォニー・デジタル」内をメディアが見学できるツアーが開催された。
ポリフォニー・デジタルは、元々ソニー・インタラクティブエンタテインメント内にあった「GT」制作チームがサテライトカンパニー制度を利用し、1998年に独立したゲーム開発会社だ。そのポリフォニー・デジタル 代表取締役 プレジデントであり「グランツーリスモ」シリーズ クリエイターの山内一典さん(以下、山内氏)が自らガイド役を務めてくれるとのことで、くるくらもスタジオツアーに参加させていただいた。スタジオの様子を知りたい人が多いと思うので、今回は写真を中心に紹介する。
都内某所にある株式会社ポリフォニー・デジタル。建物内のエレベーターに乗り、該当フロアで降りたエントランスの様子がこちら。建物自体のオフィスビル然とした外観からは想像できないエレガントな空間が突然目の前に広がった。
フロント(受付)からラウンジへ続く通路。背後にはクロークスペースがあり、静かな空間じゃなければホテルやクラブと間違えそうだ。
通路を抜けると、ゴージャスなラウンジが待っていた。「GT」シリーズ生誕25周年の軌跡についてのプレゼンテーションもここで行われた。イベント用にDJブースや照明、音響、バーカウンターまで完備しているというから恐れ入る。
ラウンジのおおまかなレイアウト。実際に、様々な「グランツーリスモ」大会も開催しているそうで12台のレースコックピットが並べられるほどの広さがある。DJブースから反時計まわりで紹介していこう。
イベントやパーティー開催時に活躍するDJブース。年に一度、ダンスパーティを開催しているそうだ。
筆者に知識はないが、わかる人のために少し寄ってみた。
次に、最新作『GT7』プレイエリア。12台のコックピットは公式世界大会の「GTワールドシリーズ」や各種大会のテスト環境としても使用され、小規模なイベントならここで開催することも可能だ。
シートにはRECARO製のモータースポーツシート、ハンドルコントローラーにはGTの公式ライセンスが入ったTHRUSTMASTER製のT-GTⅡを使用。
『GT7』プレイエリアの左側にはカウンターバーがある。こちらは「デビルズダイナー」と呼ばれている。デビルズダイナーとはドイツの有名なレーシングコース「ニュルブルクリンク」のコース脇に建つ実在するカフェから呼称を借りているそうだ。カウンター裏には映像や照明をコントロールできる機材が備わっている。ちなみに山内氏はあまりお酒は飲まないらしい。
カウンターの壁面にはメニュー表かと思いきや、歴代の「GTワールドシリーズ」優勝者の名前が刻まれたプレートが飾られている。
「PIT STOP」と名付けられたロッカールーム。写真左側は来客用の喫煙室。
ロッカーにもポリフォニー・デジタルらしい遊び心。ロッカーの扉ひとつひとつに、これまで「グランツーリスモ」シリーズの各タイトルで収録されてきたコースの名前とコースレイアウトが描画されていた。
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社長室の一部やサウンドスタジオを紹介!
ラウンジまわりのこだわりはまだ続く!
ラウンジに入ってすぐ右手にある休憩スペース。右奥のヘルメットに注目して欲しい。
こちらはアイルトン・セナ財団から贈呈されたというヘルメットがさりげなく置かれていた。故アイルトン・セナが使用していたというヘルメットだ。『グランツーリスモ6』(PS3用)には、アイルトン・セナへのトリビュートとして、彼のレースキャリアを追体験するゲームモードが収録されている。
スタジオ内には、これまでのシリーズ開発の歩みを感じさせるアイテムがそこかしこに飾られていた。詳細はこちら。
休憩スペース横にある社長室は、なんとカラス張りでラウンジからも見る事ができる。
社長室の角には公式世界大会「GTワールドシリーズ」の勝者に贈られるトロフィーが飾られている。このトロフィーはイタリアの未来派である彫刻家ウンベルト・ボッチョーニのアート作品「空間における連続性の唯一の形態」を、ポリフォニー・デジタルのスタッフがボッチョーニ氏のご家族に許可を取り、およそ3分の1スケールにダウンサイジングし鋳造したものだ。
20世紀の初頭では、車や飛行機などの工業製品が誕生したことで、人類は初めて「速度」を獲得した。機械・人間・速度を一つの造形に表現したこの作品に惚れ込んだ山内氏は、2018年の「GT ワールドシリーズ」から勝者へ贈るトロフィーに決めたと熱く語っていた。興味がある人は、ぜひトロフィーのメイキング映像も観て欲しい。
ラウンジの奥には喫煙も可能な休憩スペースがあった。楽器も置かれており、スタッフ同士がセッションすることもあるそうだ。右奥にあるモニターは東京スタジオと同社の福岡スタジオで常時オンラインで接続されており、音声もそのまま聴こえるので自然なコミュニケーションを取れるとのこと。このようなモニターは社内に何か所か設置されていた。
ホワイトボードに描かれた絵は山内氏本人によるもの。雑談の最中にサッと描きあげたそうだ。ちなみに山内氏はピアノを弾くこともあるそうだ。
こちらは休憩室から出入りできる、黄色い照明が印象的だったサウンドスタジオ。ゲーム業界ではサウンドは外注に頼る会社も少なくないが、ポリフォニー・デジタルでは自社にスタジオを持っている。モニター内の画面では、車の各所や、地面や壁から発する反射音に、観客の声やヘリコプターなど、あらゆる音源から発せられる音のテストをしている様子。音に対する並々ならぬこだわりが感じられ、自社にスタジオを設けた理由が理解できた。
ようやくラウンジまわりはここで終了。次は開発スタジオ内を案内してもらった。
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開発スタジオ内を紹介!
いよいよ開発スタジオに!
ポリフォニー・デジタルは、東京オフィスにスタッフが200名弱、福岡に50名弱、さらにロサンゼルスとアムステルダムにもエクスプロアグループ(他社とのコラボレーションなどを推進するスタッフが勤務)としてスタッフが勤務している。山内氏によると、階層は分けずにワンフロアで完結させるこだわりがあり、他地域のオフィスも同様にワンフロアで構成されているそうだ。ここではスタジオの外周にあたる共有スペースを案内してくれたので、紹介していこう。
開発スタジオ内にある休憩スペース。社内には様々なコンセプトの空間を用意するのがポリフォニー・デジタル流とのこと。
開発という仕事上、運動不足になりがちなスタッフのために、開発スタジオ内にジムを併設しているという。ランニング・サイクリングマシンをはじめ、ボルダリング用の懸垂機などが設置されていた。
ここにもポリフォニー・デジタルならではと感じさせる、脚を鍛えるトレーニングマシンもあった。これは山内氏がニュルブルクリンクでのレースに参戦していたころ、GT3カーのブレーキを踏む筋力をつけるため(高速で走行するクルマのブレーキを踏むのには、片足で120kg必要とのこと!)ために導入したそうだ。
書店のようなライブラリー。多くの資料は電子化したそうだが、「グランツーリスモ」シリーズ開発の歴史における当時のカタログや資料が大切に保管されている。書籍以外にもカラーサンプルや模型、ゲームソフト、映像資料が多く並べられていた。
こちらは山内氏が2010年のニュルブルクリンクの24時間レースに出場した際に、自身が乗車した日産GT-Rのフロントパーツだそうだ。この写真の手前には石膏像が置かれており、社内の所属アーティストがデッサン大会を開催することもあるそうだがエンジニアも参加し、絵が専門でないスタッフもかなり上手いという。間違いなくハイレベルな内容だろう。
気になる人も多いと思い、ライブラリー内は多めに写真を撮らせていただいた。
こちらはセミナールーム。このようにラウンド状に組むこともあるが、普段は学校の教室のように平行にデスクを並べていることが多く、セミナーを開催したり「学生さんを招いて1日でゲームを一緒に作る企画」を行ったりなどしているそうだ。
こちらはビデオルーム。公式世界大会の「GTワールドシリーズ」のライブコメンタリーをここで収録し画面と合成したり、プロモーションビデオ作成、実況配信する際など使用する。グリーンバックの技術を活用すれば、実写で撮影した人物を『GT7』の世界の中のどこにでも登場させること(リアルタイムで合成)ができるそうだ。
『グランツーリスモ7』が発売前に発表された映像イベント「State of Play」ではここで撮影した山内氏の姿をゲーム画面に合成し発表ライブイベントが全世界に向けて配信された。
和室がコンセプトの休憩スペース。ふすまの向こうはホワイトボードになっており打合せもできる。社内にはお茶を点てられるスタッフもいるそうだ。和室は山内氏もお好きなようで、移転前のオフィスにも設けていたとのこと。
開発スタジオの中央にある試遊スペース。こちらは、自宅にハンドルコントローラーを設置して遊んでも家族に怒られないように、と試しに作ってみたという通称「GT家具」。シートは収納式となっており、PS5や機材一式もすべて中に収納でき、ゲームをしない時はテレビ台として部屋のインテリアにマッチする。
広い開発フロアの中心にレイアウトされているガラス張りのミーティングルーム。こういったオフィスのレイアウトにも象徴されているが、ポリフォニー・デジタルでは、社内のどのメンバーも必要な情報にアクセスできる様にできるだけオープンな状況で全員で仕事が進められる様に考えている、と山内氏は語っていた。
スタジオツアーはここまで!
ドライビングシミュレーターソフトを制作しているスタジオなので、そこかしこからエンジン音が鳴り響いているイメージを持っていたが、スタジオ内はどこも静かな印象を受けた。制作スタッフもヘッドセットで作業をしている人が多かったように思う。
このスタジオツアーの後に、山内氏による「GT」シリーズ25周年の軌跡についてプレゼンテーションが行われたが、そちらも濃い内容だったので、別途お伝えしたい。