吉田 匠の『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.15 アルピーヌA110という名のフランス製スポーツカー(中編)
モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する人気連載コラム。第9回目はフランス製スポーツカーの「アルピーヌA110」を大特集。第2回は現代に蘇った2代目A110について解説する。
2代目A110はどう進化した?
アルピーヌとA110の名が復活したのは、2017年のことだった。その年3月のジュネーヴショーで、その名もアルピーヌA110が、ルノーから発表されたのだ。それは、かなりコンパクトだった初代A110を二回りほど大きくしてモダン化したようなデザインのボディを纏った2座のクーペだが、全長4205mm×全幅1800mm×全高1250mmというボディサイズからいうと、現代では小型スポーツカーの範疇に入れていいのだろう。
スタイリングは初代のそれをオマージュしたものとはいえ、2代目A110、その中身は最新のテクノロジーを駆使したものに変わっている。初代は鋼管製バックボーンフレームにFRPというプラスチック製ボディを被せた構造だったが、新型はシャシー/ボディともアルミニウム製へと一新されている。
さらにサスペンションのアーム類もアルミ製にするなど、シャシー/ボディの95%以上をアルミニウムで構成した理由は言うまでもない、初代A110がそうだったように、とにかく軽いクルマに仕上げたいという意図があったからだ。
エンジンはルノーの高性能ハッチバック、メガーヌRS用をベースにした1.8リッター4気筒ターボだが、その搭載位置と方法も初代とは異なる。初代はベースとなった1960年代のルノーR8と同様、4気筒エンジンをボディの最後端に縦置きしたリアエンジンだったが、新型は室内と後輪のあいだのミドシップにエンジンを収める、今日のレースカーや高性能スポーツカーの多くが採用するミドエンジン方式を採っている。
空力的なメリットを含めて、その理由はさまざま考えられるが、リアエンジンよりもコーナリングスピードの限界が高まり、同じ速度でコーナーを抜けるなら操縦がより容易になる、というのが最大のポイントだろう。
多彩なモデルバリエーション
こうして今から5年前の2017年に世に出た新型アルピーヌA110は、適度にコンパクトで、高性能だがハイパワーすぎず、しかもfun to driveで快適なスポーツカーを求める層に熱く支持されつつ、モデルバリエーションを増やしてきた。
現在のモデルレンジは、標準型の「A110」、やや豪華に装ったグランツーリスモ仕様の「A110 GT」、高性能版の「A110 S」、その過激バージョンたる「A110 S Ascension」、ツール・ド・コルスで優勝した初代のラリー仕様をオマージュした「A110 S Tour de Corse 75」、さらにアルピーヌの創始者、ジャン・レデレの生誕100年を記念した「A110 GT」がベースの「A110 100 Years J.Redere」、さらにA110で最も軽く(車重1082kg)、最も速く(最高速285km/h)、最もラディカルなモデル、「A110R」なるモデルも、最近になってバリエーションに加わった。
いずれのモデルもエンジンは1.8リッターDOHC4気筒ターボだが、これらのなかで標準型のA110だけが252㎰仕様を搭載、他のモデルはハイパワー版の300ps仕様を積んでいる。トランスミッションはいずれも2ペダルの7段DCTで、マニュアルはナシ。車重は1082kgから1130kgの範囲にあり、現代の装備の整った高性能スポーツカーとしてはかなり軽い。
したがって、標準のA110でもパフォーマンスに不足はなく、スロットルを踏み込めば爽快に加速する。ちなみに0-100km/h加速は252psのA110が4.5秒、他の300psのモデルが4.2秒、最高スピードは250km/hから285km/hの範囲にある。
それらの多彩なバリエーションのなかから、A110 GTと、前後に大型のスポイラーを装備したA110 S Ascentionの2台を、箱根のワインディングロードに走らせた。<後編へと続く>