カートでレースしてみない? 7時間耐久イベント「K-TAI」の魅力とは。
もっとも身近なモータースポーツのひとつである”カート”が、いま人気を集めている。モータージャーナリストの大谷達也が7時間の耐久レースイベント「K-TAI」にチャレンジ。スーパーGTやスーパーフォーミュラが開催されているのと同じ、もてぎのコースをカートで走る!
大人のカート再入門
”もてぎ”で開催されるK-TAIに、本当に久しぶりに参加した。K-TAIはカートを使った7時間の耐久イベント。敢えて「耐久レース」と呼ばないのは、勝ち負けを競うだけの競技ではなく、「モータースポーツの入り口としてのカートを多くの人に楽しんで欲しい」という主催者側の願いが込められているから。そのことは、「ゆったりと、安全に、モータースポーツを楽しむ」ための工夫がたくさん凝らされていることからもわかる。
たとえば「ゆったり楽しむ」という面でいえば、K-TAIに参加できる車両を、いわゆる”スポーツカート”を中心に据えていることにはっきりと表れている。
スポーツカートのエンジンは、遊園地のゴーカートに積まれているものと似ていて、「バタバタ」という排気音を立てながら走るタイプ。実際には、フレームやタイヤはそれなりに高性能だし、エンジンだって遊園地の「バタバタ」カートに比べればはるかに気持ちよく回ってくれるけれど、それでも本格的なレーシングカートとは比べものにならないくらい扱い易い。
おそらく、普通運転免許を持っている人であれば、誰でもすぐに乗りこなせるだろう。ちなみにK-TAI出場に必要なライセンスは、原動機付き自転車以上の運転免許を所持していれば、誰でも手に入れることができる。
K-TAIがゆったりと楽しめるもうひとつの理由、それはイベントが7時間耐久とされていることにある。7時間耐久だから、長期的な視点で戦略を組み立てられる。しかも、1回ピットストップしたら5分から6分はコースに戻れない。だから、ピット作業で慌てる必要は皆無。それよりも、落ち着いて、確実に周回を重ねていけば、自然と順位は上がっていく……。それがK-TAIだと思っていただいて間違いない。事実、私が参加したチームも、基本は「速さよりも確実性」を重視した作戦で7時間を戦うことにしていた(結果は、思いどおりにならなかったけれど)。
なぜカートはおもしろい?
「安全」というのも、K-TAIの大切な要素だ。正直、カートの速さを縛るルールはゆるいけれど、安全性に関してはしっかりとした対応が求められるのがK-TAIの特徴。なにしろ、本格的な競技と同じように、レース前には1台1台、車検が行われて、安全規準を満たしているかどうかチェックされるのだ。また、事前に行われる練習走行への参加が義務づけられていることもその一環だろうし、ヘルメットやカートスーツは安全基準をクリアしているかどうかが厳しく確認される。この辺は、なかなかしっかりした運営だと思う。
そして「モータースポーツを楽しむ」要素も、K-TAIにはふんだんに盛り込まれている。K-TAIの舞台となるのは、「モビリティリゾートもてぎ」(昨年”ツインリンクもてぎ”から名称変更)のロードコース。つまり、スーパーGTやスーパーフォーミュラが開催されているのと同じコースをカートで走れるのだ。
ここを、速いチームは2分30秒台、遅いチームでも3分前後で周回するのだが、ラップタイムを削り取る作業が本当に難しい。ちょっと慣れてくると、ブレーキングを遅らせたり、ラインをいろいろ変えて走れるようになるけれど、無理をするとかえってタイムが落ちることもあるほど、K-TAIではクレバーな走りが求められるのだ。
私が久しぶりにK-TAIに出場しようと思ったのも、まさにここに興味があったから。今回も、自分なりに工夫して走って、それでもタイムが縮まらないとお手本になるドライバーに話を聞きにいって、どうすれば速く走れるかをしつこく教えてもらった(皆さん、意外と親切に教えてくれる)。それでも理解できないと、データロガーを使って、速い人と自分の走りを比較したりもした。
データロガーと聞くと、まるでF1の世界のように思われるかもしれないが、いまではGPSを使った製品が数多く発売されていて、カートの世界ではなかば必需品となっている。カート用以外にもお手軽なデータロガーは各種あって、私も四輪でサーキット走行する際に愛用している。大切なのは、規準となる速いドライバーに手伝ってもらうことだけれど、これさえクリアできれば、とても正確に、そして客観的に速いドライビングを学べるので、興味のある方には強くお勧めしたい。
というわけで、少しでも速くなりたいという一心で、おそらく15年振りくらいにK-TAIに出場した(K-TAIは2001年が初開催)ので、そのときの様子をリポートしよう。
速さより大切なもの
今回はクラブレーシングというチームから参戦した。このチームは、私のような自動車メディア関係者と、とある自動車メーカーの有志によって結成されたもので、K-TAIへの参戦経験も長い。ただし、どちらかといえば”速さ”よりも”安全”や”楽しさ”を重視するチームで、その意味でいえば居心地はよかった。
私は、計3回行われた事前の練習走行のうち2回に参加してから、決勝当日を迎えた。
ちなみにスターティンググリッドは抽選で決める。ここでチームメンバーが引き当てたのは14番グリッド。今回は合計で98台が出走したから、恐ろしく前のほうからのスタートだ。
ただし、なにしろ我々は速さを追求するチームではないから、次第に順位を落としていき、1時間が経過した頃には70番手あたりを走行していた。まあ、この辺は想定の範囲内。それでも5人のドライバーは、アクシデントにあわないように、慎重に周回を重ねていった。
レース序盤にはマフラーが破損するトラブルが起きたりもしたが、チームをサポートするベテランメカニックたちが手早く修復してコースに復帰。結果的に、このときはほとんど順位を落とさなかった。
チャンスが訪れたのは後半に入ってからのこと。K-TAIでは1回のピットストップで給油できる燃料の量が決められているのだが、それまで余裕をもってピットストップしていたおかげもあって、残りの1時間半ほどを1回のピットストップで走りきれることがわかった。これは当初の予定にはなかったことだけれど、急遽作戦を変更し、ふたりのドライバーには、それまでの倍近い時間を連続走行してもらうことになった。
この作戦が功を奏し、うまくいけば40位台も狙えそうと思ったのもつかの間、今度はエンジンの力を後輪に伝えるスプロケットという部品が摩耗していることが発覚。その交換に30分ほどを要し、大きく順位を落としてチェッカードフラッグを受けた。
K-TAIでは同一周回数は同一順位と見なされるので、私たちのチームは24位で完走したことになっているけれど、私たちより後の順位で完走したのは9チームだけ。これ以外に13チームが何らかの理由でチェッカードフラッグを受けられなかったので、実質的には75位という結果。それでもフィニッシュ後にはメンバー全員が深い満足感を味わった。
しかも、「あそこをこうすれば、もっと速くなったかもしれない」みたいな議論はレース直後から出ていて、誰もが来年の参戦に向けてやる気満々といった様子。この辺も、K-TAIならではの醍醐味といっていいだろう。