AIが片側交互通行をコントロール。日本初「長野方式」の最新道路対策を、国道19号・犬戻トンネルの地すべりにみる【第3回】
2021年7月、長野市の国道19号・犬戻トンネル付近で発生した地すべりでは、長期の片側交互通行規制が見込まれたことから、上下線の切り替えタイミングをAIで判定する「長野方式」が採用された。現在、復旧工事が進み、2月1日から全面交通開放となっている。ここでは国土交通省長野国道事務所の担当者の話をもとに、長野方式導入までの経緯と実施の経過を振り返りながら、今後の展望についても紹介していくことにする。
AIを活用した「長野方式」の導入
2021年7月、国道19号・犬戻(いぬもどり)トンネル西側出口付近(長野市篠ノ井小松原地先)で地すべりが発生。片側交互通行規制を余儀なくされた同路線で、上下線の切り替えタイミングをAIで判定する「長野方式」が採用された。
そもそもAIを活用しようと考えた理由は、国道19号が名古屋市と長野市を結ぶ交通の大動脈であり、交通量が多いことによる。地すべり発生直後の通行止めから1週間後、同区間は片側交互通行規制で通れるようになったものの、渋滞が慢性化している状況であった。
犬戻トンネルは1994年完成で、開通以前に使われていた旧道も残っていた。その旧道を使用して通行を確保するという意見もあったが、旧道を通行できる状態に戻すためには大規模な改修工事が必要になることに加え旧道のトンネルが老朽化しており、使用しないという結論になった。
片側交互通行となると、渋滞を完全になくすのは難しい。しかしドライバーに与えるストレスは可能な限り少なくしたいという思いがあった。当初は多くの人員を配置して対応したが、地すべり発生は7月上旬であり、夏場の気温が高い中での労働となっており、環境改善が望まれていた。
また、2019年の台風19号による被害も背景にあった。当時は長野国道事務所でも、災害復旧のために多数の人員が必要という経験をしており、県全体を見れば人員削減は大きな意味があると考えていた。
ライブカメラを使った渋滞長の確認
ライブカメラを設置して渋滞の長さを確認、それを制御に役立てることで、両方向に延びる渋滞をコントロールし、人員を減らすことはできないだろうか。こうした観点からAIを使用した「長野方式」を採用。第1ステップでカメラを設置して渋滞長を確認し、第2ステップでAI導入というプロセスを取った。
AI判定のために使うライブカメラは12台を用意し、渋滞が延びた際の状況確認用として別途6台を設置した。検知精度を上げるため、カメラは約500m間隔で設置した。
AIの情報は、10分ごとにひと区切りとした。最初は細かく確認したほうが良いという考えから1分間隔で行ったが、片側通行用信号の切り替えが4〜5分間隔であり、細かく区切ってもメリットは小さいことから、10分に落ち着いた。
一方、信号の切り替えサイクルは、渋滞の長さと交通量で決めていった。
片側通行の信号には、規制区間内に走行中の車がいなくなるまでの時間、全赤時間が存在する。青信号のサイクルを長くすると、反対車線の待ち時間が長くなるが、逆に短くすると全赤時間の比率が大きくなるという欠点が生まれる。理想の青信号時間を決めるまで、試行錯誤を重ねたという。
全赤時間を短くすることにも配慮した。トンネルの中は暗いので、通常は信号機を置くことはないが、今回は安全確保のために係員を配備したうえで、トンネル内に信号を設置し、当初から規制区間を可能な限り短縮した。また、片側交互通行開始後も、できるだけ規制区間を短くするための検討を進め、当初300mだった規制区間を230m、170mと短くしていくことができた。
最終目標である自動化については当初、現場からも「AIに任せて大丈夫なのか?」という懐疑的な声があった。しかし多くの人や業者の協力があり、現場でも一丸となってAI導入を進めていったおかげで、おおむね自動化を達成することができた。
長野方式の効果
AI導入の効果であるが、まず渋滞長や時間については、規制開始当初に比べて、上下線の渋滞長のバランスは良くなったという。さらに、長野国道事務所が受ける渋滞に関する苦情の数が、次第に少なくなったという言葉もあった。
それ以外のメリットでは、監視員や作業員の数を減らせたことを挙げていた。今回の現場では交差点等で規制に関わる人員と、渋滞長を確認する人員がおり、合わせて13人だったが、AI導入によりこれを9人にすることができた。
今回は初めての試みでもあったため、安全確認という面では人間の目視を外すことはできなかったが、全赤時間の規制区間の通行を監視できるカメラを設置することで、さらに人員を減らせる可能性はあるとのことだった。
AIを活用した交通規制の展望
冒頭に書いたように、犬戻トンネルでの片側交互通行は終了している。となると今後の展開にも興味が出てくる。こちらについては、交通量が特別多い場所でなければ、従来型の設備で問題ないという回答が返ってきた。
ライブカメラは可搬式なので、他の場所にも容易に設置可能であり、警察との調整、画像解析するAIのシステム調整等の時間は必要となるが、今回より設置時間は短くなる可能性はあると予想していた。とりわけ今回は、規制区間の前後に合流道路があるなど、単純な一本道より複雑な地点だったこともあり、さまざまな知見が得られたことも付け加えていた。
広報活動についてはこれから進めていきたいという考えであるが、すでに他の機関が視察に来るなど、興味を抱いている関係者はいるようだ。
土木業界は人員確保が課題となっており、その中で今回のような事例は働き方改革、労働環境改善にもつながる。とりわけAI導入は、若い世代にもアピールになるはずであり、この業界を目指す若者が増えるきっかけにもなろう。
一方、業界内という立場では、国土交通省が2020年にインフラ分野のDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進本部を設置し、デジタルやデータ技術の活用を推進している中で、道路事業現場初のDX化の取り組みという評価ができる。
新型コロナウイルスをきっかけとして日本社会全体のデジタル化が進み、テレワークやオンライン会議、地方居住が進むなど仕事も生活も大きく変わりつつある流れに合致しており、数あるDX活動の中でも前向きな活動だったと言えるだろう。今後、土木現場でもDXが必須になっていく中で、長野方式はパイオニアとして評価されていくのではないかと感じている。