GMが描くEV戦略は”明るい”か? キャデラックの新型クロスオーバーSUV「リリック」に試乗。
キャデラック初の電気自動車、クロスオーバーSUVの「リリック」にモータージャーナリストの小川フミオが試乗した。ゼネラルモーターズ(GM)が描く電気を使った未来の社会とは。
未来へ投資するGMのいま
2040年を目標にカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)をめざす、米国の自動車会社ゼネラルモーターズ。巨額の投資で各地に電気自動車用のバッテリー工場を建設中だ。
ゼネラルモーターズ(GM)は、次世代のピュアEV用バッテリー「アルティウム」を搭載するシャシーを新たに開発。GM傘下のブランドごとに、ホイールベースやトレッド、それに搭載バッテリーの数などを調整できるのが特長だ。
GM傘下のブランド、キャデラックもアルティウムを使って初の量産型ピュアEVを開発し、先ごろ販売を開始した。それが「リリック」だ。全長5メートルに迫ろうとするクロスオーバーSUVで、「新世代の高級車像」とキャデラックではしている。
GM流のおもてなし
私がリリックに試乗したのは、2022年7月おわり。米北西部ミシガン州ミルフォードにある、GMの試験路でのことだった。リリックには2モーターの全輪駆動と、リアにモーター1基の後輪駆動とが設定されている。 現段階で世に出ているのは後者のみ。
見た目はたしかに高級車だ。スタイリングはかなり斬新で、システムを起動させると、フロントマスクをはじめボディ各所のLEDが輝くうえ、インテリアはいわゆる未来気分が充溢している。”もてなし”としても、おもしろいと私には感じられた。
バッテリーは100kWhと大容量。航続距離は300マイル(約482km)以上とされている。最高出力は255kW(340馬力)、最大トルクは440Nm。23年に発売が予定されている全輪駆動では最高出力が500馬力に達する、とキャデラックは説明する。
室内には、従来のメータパネルとマルチディスプレイを組み合わせた巨大な33インチのモニターが大きく目を惹くいっぽう、さまざまな素材を重ねていくデザインは、これまでのキャデラック車の延長線上だ。適度に新しく、操作類の使い勝手はよく、居心地がいい。
新車から宅配まで
クルマは後輪駆動でもかなり速い。2.5トンの車重はほとんど意識させない。加速の軽快感とともに、カーブを曲がるときの素直な操縦性は、ごく低速域からトルクをたっぷり出してくれるモーターの特性をフルに活かしているゆえだろう。
そしてなにより、新しい。従来と異なる”電気”というドライブトレインを搭載するなら、クルマのコンセプト自体、斬新なものにしよう、とキャデラックは考えたのだろう。個性的なスタイリング、広い室内、パワフルさと静粛性と、EVの利点をフルに追求している感じだ。
キャデラックをはじめ、GMでは、いまモーターとバッテリーというパワートレインを、新車だけでなく、さまざまな分野で活用しようとしている。なかには、 荷物運搬用カーゴに小さなシステムを組み込んで坂道などでの仕事を快適にすることまで含めた「ブライトドロップ」なる宅配業者向けのソリューションまで。
同時に、アルティウムバッテリーを米国内で製造することで「9000人の雇用を創出」と謳う。電気を使った未来は、多くの分野で産業だけでなく社会にとっても”明るい”ことだということを強調。
私が今回、ミシガン州でGMの取材をした際、各事業部の責任者クラスの人々が、さまざまな国の出身で、経歴も、自動車産業とかまったく異なる分野で活躍していたとあって、軽く驚いた。多様性もいまのGMの特徴なんだそう。多様性から新しいものを生む。それは見習いたいところだ。