新型「レンジローバー」と「アストンマーティンDBX707」を試乗して見えてきた驚くべき高級SUVの世界。
いま世界では高級SUVが大人気だそうだ。メーカーは豪華さとパワーを競い合うように次々とニューモデルを発表。イギリスの新型「レンジローバー」や、世界最強のSUVを標榜する707馬力の「アストンマーティンDBX707」もそのひとつだ。販売好調の理由はどこにあるのか。モータージャーナリストの小川フミオがレポートする。
なにもかもが超ド級
私たちにとって、夢のクルマのひとつともいうべき存在が、プレミアムSUVだ。サイズも性能も、それに価格も超ド級。これがよく売れているのだという。このカテゴリーにおける最新モデルが、新型「レンジローバー」と、707馬力の「アストンマーティンDBX707」。この2台に乗るチャンスがあったので、販売好調の理由を考えてみた。
調査会社がグローバルな販売動向をチェックしたデータによると、2017年から23年にかけてSUVの販売台数は倍になり、数でいうと累計5億台を超えるんだとか。それはちょっとすごすぎないかな。
でも、サンフランシスコでの新型レンジローバーの試乗会と、イタリアはサルディニア島でのアストンマーティンDBX707の試乗会に私が参加した際、どちらのメーカーも鼻息が荒かった。馬力だけでなくトータルな性能はもちろんのこと、ボディサイズ、それに贅沢装備は、どんどん拡充されているのだ。
なにしろ、例をあげれば、レンジローバーはホイールベースが3197mmに伸びて全長が5252mmになった3列シートバージョンも登場。80年代の日本の軽自動車がすっぽり、前輪と後輪のあいだに収まってしまうほど長い! 内装の仕上げなんか、豪華なヨットという感じだ。アストンマーティンDBX707は車名のとおり、707馬力もある。静止から時速60マイル(96km)までの加速が3.1秒って、もはやスポーツカーの領域まで侵犯している。
ユーザーは何を求めているのか
なぜ、こんなSUVが売れるのか。そもそもSUV人気は、オフロードでの走破性や荷室の広さを含めて、いざというとき便利そうだから、という理由が世界的に大きいようだ。それは私にもなんとなくわかる。高性能化については、従来なら、高性能セダンの人気が高かったが、いまはSUVが役割を引き受けるようになった、と考えてもいいだろうか。
「デザインは競合に対する大きな武器だと考えています」。そう私に語ってくれたのは、レンジローバーを手がけたランドローバーのデザインを統括する英国人CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のジェリー・マッガバン氏だ。
突起物がほとんどないようなボディが新型レンジローバーの特徴。生産プロトタイプを作ってから約1年かけて、ドアとボディパネルの隙間を出来るだけ小さくしたりと、生産技術の担当者らといっしょに徹底的に詰めていったんだそうだ(「地獄のように大変だった」との証言アリ)。興味をもっているひとなら、一目でレンジローバーとわかるいっぽう、大理石の彫刻のようななめらかなボディで、しっかり個性的である。
上記のエピソードからわかるのは、要するに、いかに手をかけるかが”高級の証”ってことだろうか。それがわかりやすいかたちで表現されていることを、多くのユーザーは喜ぶのである。
スーパーカーでもありリムジンでもある
アストンマーティンのSUV、DBX707に私が乗ったのは、イタリアのサルディニア島。全高は日本のタワーパーキングに入れにくい1680mmもあるが、うまくデザインされていて、同社の2ドアスポーツカーとどこかでイメージが共通する。
そもそも、2020年に発表されたDBX自体、スポーティな走りっぷりが身上だった。そこにさらに馬力を上乗せして、707馬力なんて超ド級のパワーを実現してしまった。
見た目も、エアダムといってバンパー下の部分の張り出しが大きいし、タイヤサイズが23インチもあって迫力満点(レンジローバーにも23インチのオプションあり)。そして、4リッターV8ツインターボエンジンと全輪駆動システムによる、高速での走りっぷりでもって、周囲に特別感を強烈に印象づけるのは間違いない。
私は、サンフランシスコでレンジローバーの後席にも乗せてもらえた。シグネチャースイートというオプションを組み込むと、リアシートの背もたれがリクライニングするので、とても楽ちんである。日本からサンフランシスコの空港に到着して、そこから市内のホテルまでだったので、うとうととまどろめた。
あらゆるものが電動で動くところにも驚いた。後席用のテーブルも電動で展開するし、席の中央にあるアームレストを倒すとワインクーラーの扉がある。テーブルにコンピューターを置いて、後席用のモニターで情報を見ながら仕事をするのもいいだろう。あるいは、ゆっくり休んでいくか。うらやましい。
こんなふうで、いまのプレミアムSUVは、まさにいっときのリムジンのよう。贅沢競争でもって、これからも、私たちを楽しませてくれるんだろう。