【史上最高額】184億円で落札された世界一高いメルセデス・ベンツ、300SLR ウーレンハウト・クーペの正体とは?
世界にわずか2台しか存在しないメルセデス・ベンツのクラシックカーが、自動車史上最高額となる1億3500万ユーロで落札された。「300SLR ウーレンハウト・クーペ」とは一体どんなクルマなのか。モータージャーナリストの小川フミオが解説する。
世界に2台しか存在しない特別なメルセデス・ベンツ
自動車史に残る1台「メルセデス・ベンツ 300SLR ウーレンハウト・クーペ」がオークションで1億3500万ユーロで落札された、とメルセデ・ベンツ・グループAGが2022年5月19日に発表した。クルマとしては過去最高という落札価格が大きな話題を呼んでいる。
このクルマ、2台しか作られていない。この稀少性とともに、ベースがレースカーというのも大きな価値を持っている。1955年当時、メルセデス・ベンツは「300SLR」なるモデルで世界中のスポーツカーレースを席巻していた。
1954年に「W196」というシングルシーターのグランプリカー(いまでいうF1)を発表したメルセデス・ベンツ。55年にはW196を2シーター化したボディに、3リッター直列8気筒エンジンを搭載した300SLRをレースに投入し、イタリアの「ミッレミリア」や「タルガフローリオ」、それに英国「ツーリストトロフィ」など大レースで立て続けに優勝をかっさらった。
破竹の勢いでスポーツカーレース界を席巻していた55年だが、6月のルマン24時間レースで大事故を起こし、それを機にメルセデス・ベンツのレーシングチームはレースから撤退することに。
300SLR(ウーレンハウト)クーペは、9基あったSLRのシャシーのうち2基を使って、公道も走れるレーシングカーとして製作された。当初は市販計画があったのだろう。しかし計画は陽の目をみることはなかった。まあ、しようがない。
で、貴重な2台(7号車と8号車)の実車は、走行実験などに使われたあと、当時、同社のエンジニアリング部門を統括していたルドルフ・ウーレンハウトが7号車をもらい受けた。それで、後年、ウーレンハウト・クーペと呼ばれるようになった。
実車は徹底的に修復されて、メルセデス・ベンツの博物館に長い間納められていた。オークションでプライベートコレクターが落札したのは、そのうちの1台(8号車)だ。
売上は全額を寄付へ
オークションはRMサザビーズの運営によって、2022年5月5日に独シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムで開催された。同社は18カ月にわたって、このクルマをオークションに出品するよう、ミュージアムの説得を続けてきたんだそう。
売り上げの1億3500万ユーロ(1ユーロ=135円として184億円超)はどうなるか。売り手のメルセデス・ベンツ・グループAGによると、「メルセデス・ベンツ基金 Mercedes-Benz Fund」に寄付されるという。
「製品開発において創意を発揮し、驚くべきテクノロジーの数々を生み出したウーレンハウトにちなんで、基金では、脱炭素と環境保全に取り組む若者を応援することになるでしょう」
メルセデス・ベンツ・グループAGのオラ・ケレニアスCEOはそんなことを述べている。同社は今後、コーポレートシティズンシップの立場からさまざまな活動に従事するとしていて、今回の、基金設立もその一環だという。メルセデス・ベンツ・グループAGでは、基金のパートナーの選定などを行っている最中で、詳細は、22年後半に発表されるそうだ。