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最終更新日:2024.05.10 公開日:2021.09.06

問題場面から、歩道の滑りやすさまで読む!?|長山先生の「危険予知」よもやま話 第3回

JAF Mate誌の人気コーナー「危険予知」の監修者である大阪大学名誉教授の長山先生に聞く、危険予知のポイント。本誌では紹介できなかった事故事例から脱線ネタまで長山先生ならではの「交通安全のエッセンス」が溢れています。

話・長山泰久(大阪大学名誉教授)

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問題場面から、歩道の滑りやすさまで読む!?

編集部:今回の問題は、自動車と歩道を走る自転車に関するものですが、ドライバーとして注意すべき点はどこでしょうか?

長山先生:問題の場面を見たとき、第1段階として下記の点に注意したいものです。
(1)信号は青。
(2)前方は下り坂。
(3)ミニバンが歩道に片輪を乗り上げて駐車している。
(4)歩行者が信号待ちをしている。
(5)自転車が狭い歩道の上を前方に向かって走っている。

編集部:第1段階にしては、けっこうたくさんありますね。(3)のミニバンのことは気づかないかもしれません。

長山先生:この場面だけ見て、瞬間的にすべてを把握するのは無理ですが、実際に運転している状況では、手前から信号は見えていて自転車や歩行者の存在も確認できるはずなので、自然にできるでしょう。逆にこれくらい把握できないのでは、前だけボーッと見ている漫然運転になってしまいます。

編集部:では、第2段階としてどんな点に気づいておく必要がありますか?

長山先生:さらに見ていくと、次のようなことが判断できます。
(6)狭い歩道に電柱があったり、その先には歩行者や駐車車両があるので、自転車は通りづらいだろうな。
(7)歩道の縁が斜めになっていて、しかも駐車禁止の黄色のペイントがあるので、自転車が右端を走れば、滑って転んでくるかもしれない。
(8)自転車のすぐ前の家に車が止まっていて、それが出てきたら、自転車はハンドル操作でそれを避けようとするかもしれないな。

編集部:歩道の縁の滑りやすさまで読むのですか? それはさすがに難しくないでしょうか?

経験から学ぶことが、危険予知では重要に

長山先生:これは私の経験から来ているものです。以前、路線バスに乗車中、大阪の国道1号線の高架下を通った際に、トンネル内の歩道が狭く自転車同士がすれ違った際に手前の自転車が転んで、車道に飛び出したことがあったのです。

編集部:ずいぶんレアケースな気がしますが、そんな経験をすると、今回の場面でもそれを思い出すのですね。

長山先生:そうです。今回の場面では自転車は1台だけですれ違いによる危険はありませんが、電柱や歩行者の影響で自転車が歩道の端を走ることは十分考えられるので、滑って転倒する可能性まで予測することが大切です。実は、このように前に経験したことを思い出して「似たようなことが起こるかもしれない」と予測することが、危険予知の学習効果であり、とても意味があることなのです。

編集部:ベテランドライバーに事故が少ないのは、いろいろな経験を積んでいて、その学習効果があるからなのですね?

長山先生:そのとおりですが、運転経験が長くても事故が多いドライバーもいます。事故の経験はもちろん、ヒヤッとした経験をしっかり蓄積して、そのときの運転状況から重要な事象(事柄)を見落とすことなく確認できることが重要なんですね。

編集部:でも、初心者ドライバーにそれを望むのは無理ですよね? 運転経験が乏しいのですから。

長山先生:確かに経験が重要ですが、本誌の「危険予知」のように誌面などから危険を予測する訓練をすることで、経験不足を補うことはできます。下図は自転車の不用意な横断による事例になりますが、このような事故事例から学ぶことも重要です。この事例では、高校生がイヤホンで音楽を聴いていたので、なおさら、後方から近づく車に気づかなかったのですが、最近では携帯電話やスマートフォンを操作しながら自転車に乗っている人も多いので、自転車の側方を通過する際は十分注意しないといけません。

編集部:本誌以外でも、教習所での学科でも「危険予測」の課題が取り入れられているので、初心者ドライバーはそこから足りない経験を補えばいいですね。

長山先生:そうですね。危険予測は1998年に運転免許の学科試験に導入されるのに先立ち、自動車学校の教習カリキュラムにも含まれるようになり、免許を取得する前に事故回避のポイントなどが学べるようになりました。ちなみに、ドイツでは1970年代にすでに試験問題に写真を使った危険予測問題が導入されています。

編集部:ドイツのほうが日本より交通安全教育は進んでいるのでしょうか?

運転者教育は、日本より欧米が進んでいる?

長山先生:そうですね。運転者教育の視点で見ると、日本よりドイツやアメリカのほうが進んでいます。たとえば、日本では「認知→判断→操作」が運転の三要素で、さまざまな交通状況を認知(発見)し、適切な判断をして、正確な操作をするように教えています。しかし、「認知する」とは具体的にどのようなことなのか、「適切な判断」とはどのようなものなのか、必ずしも教えられていません。

編集部:「認知」は危険な対象を見て確認することで、「適切な判断」は事故の危険性があるか、考えることではないでしょうか?

長山先生:では、危険な対象だと判断する基準は何ですか?

編集部:基準ですか? 歩行者なら歩き方がフラフラしていたり、道路を渡ろうとしていれば、危険だと思いますよね。

長山先生:そうです。いま挙げたことまで考えさせるのが、日本と欧米の運転者教育の違いなんです。たとえば、ドイツでは歩行者の存在に気づいたら、3Aを見てとろうと教育しています。3AのAは、Alter=age(年齢)、Aufmerksamkeit=attention(注意・何に注意が向いているか?)、Absicht=intention(意図・何をしようとしているか?)で、それらを読み取ることの必要性を教えています。年齢についても、単純に歳を読み取るのではなく、幼児だったらどんなことをしかねないか、お年寄りだとどのようなことに注意を払わなければならないかを学ばせます。

編集部:なるほど。同じ歩行者でも、大人とフラフラ歩いている子供では、注意するレベルが違いますね。

長山先生:そうです。単純に「認知」と言ってしまうと、歩行者を確認するだけで終わってしまいがちですが、”年齢はどのくらいでどんな歩行者なのか?”を考えるようにすれば、より事故の危険が予測できるのです。アメリカの場合、高校での運転者教育のプログラムで、シミュレーターを使って「IPDE」という心の働かせ方を学ばせています。IPDEは、Identify(認定する)、 Predict(予知・予測する)、 Decide(意思決定する)、Execute (実行する)のそれぞれの頭文字を取ったものです。

編集部:Identify(認定する)は日本の「認知」と似ていますが、内容は違うのですか?

長山先生:日本でも「幼児なのか、子供なのか」、「高齢者なのか」といった点を読み取ることを教えていますが、「あの人の注意はどこに向いているか」や「あの人は何をしようとしているか」「何をしたがっているか」を読み取ることの重要性を教えるところまでには至っていません。そこが日本の「認知」とアメリカの「Identify(認定する)」との違いなんですね。また、日本の「認知→判断→操作」からは、危険予測の考え方はあまりイメージできませんが、アメリカでは「Predict(予知・予測する)」と明確に危険予測の重要性を謳っているのも大きな違いです。私が以前視察に行った際は、主にCGで作成された動画を用いて、危険を予測しなくてはいけない場面で生徒が適切にブレーキやハンドル操作を行っているか先生が確認し、危険を予測するには何をどのように見ていかなくてはならないか、具体的に教えていました。

月刊『JAFMate』 2014年12月号掲載の「危険予知」を元にした
「よもやま話」です


【長山泰久(大阪大学名誉教授)】
1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。91年より『JAF Mate』危険予知ページの監修を務める。

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