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最終更新日:2021.06.11 公開日:2021.06.11

ドライバーの感情が走行速度に影響。広島大学が科学的に証明

クルマを運転する時の感情変化が運転操作に影響する。そんな経験則を、広島大学は科学的に証明できたと発表。勤務中のタクシー運転手の感情と運転速度の関係を分析した結果、ドライバーの感情と運転速度との関係性が明らかになったという。

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 ドライバーなら、クルマを運転する時の感情が運転操作に影響することを、体験的に理解しているだろう。例えば、怒りやイライラなどを伴ったまま運転すると、運転も荒っぽくなり、事故につながりかねないと感じるドライバーは少なくないはずだ。しかし、感情が安全運転に及ぼす影響を科学的に証明されたことはなかったようだ。広島大大学院 人間社会科学研究科 経済学プログラムの角谷快彦教授によると、運転シミュレーションやアンケートなどによる推察は、これまでにも実施されていた。しかし、公道での実際の運転時において、客観的かつ科学的な手法で、ドライバーの感情が運転速度に与える影響が検証された例は存在していないという。

タクシー運転手の生体データを収集

 今回、角谷教授率いる研究チームは、つばめ交通株式会社、全国健康保険協会(協会けんぽ)広島支部、TDK株式会社、日本電気株式会社(NEC)の協力を得て、ドライバーの感情が安全運転に及ぼす影響について調査を実施した。

 具体的には、つばめ交通のタクシー運転手から無作為で15名を抽出。市販のリストバンド型の生体センサ(※1)を装着させ、15日間にわたって勤務中の生体データと運転記録を収集した。

 そして、収集した生体データと運転記録を照合。さらに、生体データを用いて感情を分析できる専用アプリケーション(※2)を用いて、タクシー運転手の感情が運転操作にどのように影響したかが分析された。なお分析は、あらかじめアンケートによって確認されたタクシー運転手の年齢、学歴、年収、婚姻状況などの社会経済変数がコントロールされた上で実施された。

※1 TDK・SilmeeW20:TDKが開発したウェアラブル式生体センサ 。加速度センサ、脈拍センサ、紫外線センサ、温度センサ(皮膚温)を搭載し、心拍数や歩数、移動距離などを測定することができる。
※2 NEC・感情分析ソリューション:リストバンド型のデバイスを装着した対象者の心拍変動データなどをリアルタイムに収集・分析することで、「興奮・喜び」、「ストレス・イライラ」、「憂鬱・疲労」、「穏やか・リラックス」の感情を可視化し、認識することができるシステム。

【調査の概要】
調査期間:2019年9月12日~26日
調査対象:無作為抽出されたつばめ交通のタクシー運転手15名

怒りと悲しみの感情はスピード超過のリスク上昇

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 同分析によると、ドライバーの感情と運転速度について、以下の5点が明らかになったという。

●ドライバーの怒りと悲しみの感情はスピード超過のリスクが上がる。
●ニュートラルな感情はスピード抑制に寄与する。
●幸福感やリラックスなどの感情はスピードに影響しない。
●乗客を乗せて走る時間の長さや、実験期間中の売り上げの大きさはスピード増の要因になる。
●個人収入や世帯資産の大きさおよび勤務時間の長さはスピード減の要因になる。

 つまり、怒りや悲しみの感情は、走行速度を速くさせる傾向があること。ニュートラルな感情は、走行速度を遅くさせる傾向があることが科学的に証明されたのだ。なお、幸福感やリラックスなどの感情は影響しないという。

 また、乗客を乗せて走る時間が長かったり、売り上げが大きいとスピード増になるというのは、ドライバーだけでなく、経営者にとっても注意すべき結果かもしれない。個人収入が大きいとスピード減になるというのも、興味深い結果である。

安全運転を確保するにはドライバーの感情変化の察知が有効

 角谷教授らは、今回の結果に対し、運転時の安全性の確保には、ストレスなどによるドライバーの感情の変化を察知することが有効だとしている。また、今回の成果に対し、角谷教授らは、運送・輸送業の健全な経営と交通安全に科学的な示唆を提供することができたとしている。

 今回の研究はタクシードライバーが対象だが、マイカードライバーでも同様な結果になるのか、今後の研究を期待したいところである。

 なお、今回の研究成果の詳細は、交通と輸送の行動的および心理的側面に焦点を当てた学術誌「Transportation Research Part F: Traffic Psychology and Behaviour」に、論文タイトル「How is emotion associated with driving speed? A study on taxi drivers in Japan」として掲載された。

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