吉田 匠の『スポーツ&クラシックカー研究所』Vol.08「番外編」英王室御用達のSUV「ランドローバー・ディフェンダー」は、なぜ世界中で愛される車になったのか(後編)
モータージャーナリストの吉田 匠が、古今東西のスポーツカーとクラシックカーについて解説する連載コラム。第6回は番外編として、イギリスが世界に誇るSUV専門ブランドの「ランドローバー」をご紹介。同社の代表的モデルのひとつ「ディフェンダー」の歴史と共に、前中後編の3回に分けてお届けする。今回はその後編。
初代は2016年をもって生産終了、そして新世代へ
ディフェンダーは2016年1月、1948年以来の生産拠点だったイギリス中部ソリハルの工場から最後の一台を送り出して、一端は生産を終了する。ところがその後、誕生から70周年に当たる2018年になると、「ディフェンダーワークスV8」の名を持つモデルが150台限定で復活するが、これが最後のクラシックディフェンダーとなった。
そのディフェンダーがまったく新しいモデルとして登場したのが、2020年のことだった。それは、ランドローバー時代から受け継がれた直線的で質実剛健な雰囲気をスタイリングに残しながらも、その内側に従来型とはまったく異なる最新の構造やメカニズムを満載した、新種のクロスカントリーヴィークルというべきクルマだった。
先代の精神を受け継ぎつつも、ぐっとモダンな新型
フレームはボディと一体化されたアルミモノコックに一新され、サスペンションもフロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクという、高級サルーンやスポーツカーと同じ形式を採用。しかも車高などが調整可能な電子制御エアサスペンションが車種によって標準もしくはオプションで装着可能という、かつてのディフェンダーとはまったく逆の、ハイテクにして、快適志向。
エンジンは排気量2リッターの直列4気筒ガソリンと、初期のランドローバーを思い出させるスペックだが、しかし過日と違ってターボで過給されて、300㎰と40.8kgmという強力なパワーとトルクを発生する。しかもかつては4段マニュアルだったトランスミッションは今や8段ATを標準装備、もはやMTの設定はない。駆動方式は常時四駆のパーマネントAWDで、道なき道に踏み込むことを想定したローとハイの2段トランスファーギアボックスが備わる。
ボディは基本的にスクエアかつ直線的で、モダンななかにオリジナルのランドローバーやクラシックディフェンダーの雰囲気をよく残している。だがそのサイズは昔とは比較にならないほど巨大で、「90」で全長4510×1995×1970/1975㎜、「110」で全長4945×全幅1995×全高1970㎜もある。特にほぼ2mある全幅は日本では駐車場選びが大変だろう。
英王室に愛される武骨な一台
僕が横浜で乗ったのは「110」でエンジンは4気筒ガソリンターボ。車体が大きい上に四駆のメカニズムと様々な装備を満載しているから、車重は2250kg近くある。したがって走りは軽快ではないが、エンジンのパワーとトルクは充分で、アクセルを踏み込めば巨大なボディを思ったとおりの勢いで加速させる。
エアサスペンションの恩恵もあって乗り心地は重厚かつ快適で、普段乗りもまったく苦にならない。全幅がほぼ2mあるボディは、都内の住宅地なんかではかなり気を遣うことになると思うが、横浜の首都高やみなとみらいの大通りではあまりサイズを意識することなく走れた。Aピラーが太いとはいえ、高いところに座って運転するのでそれなりに見晴らしがいいことも、それを助けていると思う。
かつてのランドローバーのような古典的なクロスカントリーヴィークルでは、未舗装の悪路や道なき道を走る場合、そういうセクションに慣れたドライバーのスキルが要求されたものだった。ところが新型ディフェンダーは違う。同社の他の最新のSUVと同様に「テレインレスポンス」と呼ばれるシステムが備わっていて、エコ、コンフォート、草地/砂利/雪、泥/わだち、砂、岩場、水中、の7つのモードをボタンひとつで選べる。
それでも最後は人間によるコントロールがクルマの動きを左右することになるが、悪路走行や岩場の走行も、少なくとも昔のランドローバーのように難しくはないはずだ。逆にそれが、昔ながらの四駆遣いにとっては物足りないということになるかもしれないが。
ところで最近、ランドローバーにまつわる印象的なニュースを観た。それは少し前に亡くなられたイギリスのエリザベス女王の夫、フィリップ殿下の葬儀の際のシーンだが、殿下の棺が載せられた霊柩車は華やかなロールスロイスでもデイムラーでもなく、最後期ディフェンダー109をベースにした武骨なピックアップだった。しかもそのピックアップを霊柩車に改造する作業を、クルマ好きだった殿下自身も手伝ったという。いかにもイギリスらしい逸話であると同時に、ランドローバーの王家御用達ぶりがうかがえる話でもある。