清水和夫さん、良いクルマの条件とはなんですか?|清水和夫が徹底解説「クルマの未来」<連載 第5回>
“良いクルマ”とは一体どんなクルマなのだろう。安全性? 乗り心地? それともデザイン? クルマ選びにおける重要なポイントについて、モータージャーナリストの清水和夫さんに聞いてみた。
今回のテーマは良いクルマについてレポートしたいと思う。この質問は読者からもよく聞かれるが、良いクルマというのは、かなり主観的になりそうなので、ここでは一般論と清水の私的な意見を切り分けて考えてみる。
安全情報公開JNCAPを参考にする
まずは一般論だが、重要な安全の話から始めよう。最近は交通事故を削減する安全機能が充実してきたので、ここは気になるポイントだろう。安全性では日本車の水準は非常に高く、サポカーの新基準も、昨年11月1日から政府と合意の上、被害軽減ブレーキの義務化が制定された。
しかし、基準以上の安全性能を知るには、各国が行っている新車の安全性評価情報(アセスメント=NCAP)がためになる。日本ではJNCAPと呼ばれる情報公開が提供されているから、ググってみると良いだろ。
安全基準とは政府が国連で同調して取り組むものなので、安全性能のベースライン。もっと安全なクルマは各メーカーの競争領域なので、情報が公開されるようになってからは、メーカーも必死に取り組んでいる。
安全の一丁目一番地とは
しかし、人が運転するクルマの場合、そのスキルや経験で運転のし易いかどうかは個人差がありそうだ。そこで私が大切だと考えているのは、視界性能とドライビングポジション(以下ドラポジと略する)。もちろん、ペダル配置も重要だ。
クルマは動く道具なので、その道具が使いやすいかどうか。ミスをしないで安心して運転できるかどうか。そのためには視界性能とドラポジは重要なのだ。レースカーではドラポジを決めるまでに、何日もかけて入念にシートなどを調整する。
ポイントはAピラーとドアミラーの部分だ。町中で左折するとき、一番気になるのが、左後方から近づく自転車と歩行者。中にはスマフォをみながら歩く人もいるし、足の悪いお年寄りもいるが、まだ、クルマは完全に左に曲がりきっていないので、左後方は見にくい。
さらにAピラーが視界を遮ることがしばしばあるので、この部分の視界を配慮することは「安全運転の一丁目一番地」だと確信している。高速道路の事故はクルマ同士、あるいはクルマと道路の衝突なので、シートベルトを装着していれば、重症死亡率はかなり下がるが、町中のクルマの人身事故は悲劇的だ。ほとんどのケースでは歩行者の被害が大きいからだ。
ディーラーで試乗前にチェックすること
ということで、カーディーラーのショールームでは試乗する前に、この視界をチェックしてほしい。また、ドラポジのポイントは座った感じが何とも心地よく、少しモモの部分が高く、腰が低めが良いだろう。座面は長めが良いが、人は体型が大きく異なるので、実際にハンドルを持つ人がドラポジをチェックしたい。
また、座ったときに、ブレーキペダル(AT)が身体の中心よりも左にオフセットしてないかチェックする。左すぎるブレーキペダルは右足では踏みにくいので、ペダル踏み間違いの原因になりやすい。実はペダル配置は重要なポイントだったのだ。
最近は小型車でもアクセルペダルがオルガン式を採用するケースもあるが、もしアクセルペダルもブレーキペダルと同じ吊り下げ式だと、右足の動きが同じようななるため、万が一踏み間違えても気づきにくい。
しかし、普段からアクセルとブレーキで動きが違うことに慣れていると、ペダルを踏み間違えれば、感触の違いから直感的に間違えたことがわかり、いち早く足を離すことができる。人間工学的な視点で作りこんでいけば、人間がミスをしてもその影響を低減できるように設計できるはずだ。
電動化や駆動方式
ここからは実際にクルマを使う人のニーズに合わせた「良いクルマ論」になるが、まずは自分のニーズをしっかりと確かめておきたい。私の親戚にAWDのワゴン車からミニバンに乗り変えた人がいる。三列シートは年老いた両親を乗せるためというが、一年間に1~2回のニーズなら三列シートのミニバンをレンタルすることも可能だ。もっとも多く乗る時間を中心にクルマを選ぶべきだと思った。
統計では日本のオーナーカーの80%は一日の走行距離が20km以下という統計もある。しかし、たまに遠出するというようなケースではハイブリッド(HEV)かプラグイン(PHEV)がオススメだろう。長距離派ユーザーには高速巡航性能に優れたディーゼル車も良いだろう。
幸い、日本車はどの国よりも多様化が進んでいる。HEVもストロング型、シリーズ型、またPHEVも揃っているし、エンジンはディーゼル、ガソリンターボ、ガソリン自然吸気と選択肢は多い。そう、日本のユーザーは幸せなのだ。そうそう、水素で走る燃料電池車もある。環境車には補助金もサポートされるので嬉しいが、重要なポイントは電気の充電や水素の充填をしっかりと考えるべきであろう。
駆動方式もFFからFR、あるいは四駆もあるし、ボディもセダンとSUVとハッチバックが用意される。無駄な使い方を避けるために、自分のライフスタイルをじっくりと考えてから、自分にとって何がベストカーなのか、考えてみたい。このように日本車の多様化は歓迎したいが、実際にクルマ選びはかえって迷ってしまう。しかし、テーブルにカタログを置いてアレコレと悩むのも楽しいことなのだ。