高速道路の工事渋滞を抑制する新・床版取り替え工法
これまで、高速道路における床版の取り替え工事は、長期間の車線規制を伴うものだった。そこでNEXCO中日本と大林組が新たに開発したのが、工事渋滞の発生を抑制できる新たな工法だ。昼間は通行可能とし、夜間だけ車線規制して工事を行えるその工法の特徴とは。
「床版」(※1)とは、高速道路や橋梁などにおける床部分の部材のことだ。通行車両の荷重を受け止めて橋桁や橋脚に伝える重要な役割を果たしており、負荷のかかる部材でもある。床版の取り替え工事は、道路の骨格となる部分の取り替えにあたる。そのため、従来の工法は、対象となる車線を長期間にわたり規制して行ってきた。反対車線で対面通行を実施するなど、特に交通量の多い区間では渋滞が発生しやすいことが課題となっていたのである。
NEXCO中日本では、高速道路を取り巻く環境が激しく変化している状況に対応するため、「i-MOVEMENT」(※2)というマネジメント手法を展開中で、最先端のICT技術・ロボティクス技術を導入した、高速道路のモビリティの進化を目指すことを目的としている。
その一環として、NEXCO中日本が大林組と共同開発したのが、舗装と防護柵を一体化させた仮設床版や、新たな床版の接合構造などによる新工法。昼間は車線規制を解除しつつ、交通量の少ない夜間にのみ車線規制を行って工事を実施できることが特徴だ。
新工法の核となる3つの技術
新工法は、工事を細かく分割し、限られた時間内で既設床版の撤去、新しい床版の設置、路面復旧を行って車線規制を終わらせられる施工方法だ。その核となっているのが、以下の3つの技術である。
(1)更新用プレキャストPC床版(※3)の継ぎ手構造
(2)床版取り替え施工用の仮設床版
(3)移動式床版架設機
(1)の「更新用プレキャストPC床版の継ぎ手構造」とは、超高強度繊維補強コンクリート「スリムNEOプレート」(※4)を用いた構造だ。継ぎ手の間隔を従来の半分にして、強度の高いプレートを継ぎ手部に設置することで、短時間で工事を終了して車線の解放を行えることを特徴としている。さらに、車線の解放後に継ぎ手部のコンクリートを充填できるような仕組みが採用されている。
(2)の「床版取り替え施工用の仮設床版」とは、昼間は車両が通行できるようにするために開発された仮設床版のことだ。夜間の作業のみで完了できるよう、時間短縮のためにあらかじめ舗装や防護柵と一体化されている。新工法では短時間で作業を完了できるよう、既設床版を撤去する際は、上フランジ(※5)のスタッド(※6)を既設床版と合わせて撤去が行われる。そして研掃後(※7)に仮設床版をセットして鋼桁と仮設床版とを仮固定した後に、車線規制を解除する。なお、当日は設置後に目的部だけの舗設作業が行われる。また架設床版の安全性の確認については、現地でも車両積荷試験が実施される。
(3)の「移動式床版架設機」は、床版の撤去・架設用に新開発された門型クレーンに備え付けられている。トレーラーで現地まで輸送され、設置される。全高や全幅は調節可能で、短時間に設置できることが特徴だ。
新工法の導入で得られる3つのメリット
メリットのひとつは既述したように、夜間だけ工事を行えるので、交通量の多い日中に車線規制する必要がなく、工事渋滞を招きにくいということ。1車線ずつ工事を行えるので、片側2車線の路線であれば対面通行の必要もないし、一般道へ迂回するような必要もない。
また、ほかの工事への影響が少ないことも優れた点だ。そのため、施行時期の制約を受けにくいという。さらに、車線規制を連続的に行う必要がないことから、工事期間中でも土日などの工事休止日を設定することが可能。建設業界の「働き方改革」にも寄与できるとしている。
今回の新工法は現在、E20中央道・諏訪南IC~諏訪IC間のリニューアル工事において試験中だ(※8)。本採用は、今秋の同区間でのリニューアル工事が計画されている。そして試験工事で安全性や施工性などが確認された後に、都心部などの交通量の多い区間での床版取り替え工事での適用も検討していくとしている。