後付け急発進等抑制装置2020。ペダル踏み間違い事故を軽減。
近年、ペダルの踏み間違いによる事故が問題となり、新型車の多くが踏み間違い時の発進等を抑制する装置を装備するようになった。一方、未装備の車両向けには、さまざまなメーカーが後付けタイプの急発進等抑制装置を開発・販売し、国交省の認定が行われている。後付けタイプの装置には、どんな機能や種類があるのだろうか。国交省認定の装置から、その機能を紹介しよう。
ペダル踏み間違い事故とは
「ペダル踏み間違い事故」とは、車の運転中にドライバーがブレーキペダルとアクセルペダルを踏み間違えることによって発生する事故のこと。交通事故総合分析センター(ITARDA)によると、ペダル踏み間違いに起因する事故は年間約4,000件以上も発生しており、その加害者の多くは24歳以下の若者と75歳以上の高齢ドライバーに多いことが分かっている。
このような事故防止のために、ブレーキペダルと間違えてアクセルペダルを踏み込んでクルマが急発進等した際に、発進や加速を抑えてくれる装置「ペダル踏み間違い急発進等抑制装置」(以下:急発進等抑制装置)が普及。
国土交通省の資料によると、2017年に新車のペダル踏み間違い急発進等抑制装置の装着率は65.2%を超えた。しかし、これは新車に限った話で、これまでに販売された多くの車が急発進等抑制装置を装着していない。
安全のためとは言え、「そのために新車を購入するのは難しい」「乗り慣れたクルマを手放したくない」という人も多いことから、所有するクルマに後付けするタイプの急発進等抑制装置が求められていた。
後付け急発進等抑制装置の認定制度
これに応えるように、現在、後付け急発進等抑制装置は、さまざまな種類の製品が開発・販売されている。ただ、それぞれの製品で装着方法や機能、効果もさまざまで、ユーザーにとっては選ぶのが難しかった。
このため国交省は、市販されている装置のうち製造者などから申請のあった製品について、技術的な調査・確認を実施。一定の機能などを有すると認められるものを先行個別認定として発表。各装置の概要と使用上の注意点などをまとめた。なお認定を受けた製品は、以下に示した3つの分類に分けられている。
【後付け急発進等抑制装置の分類】
・障害物検知機能付きペダル踏み間違い急発進等抑制装置
・ペダル踏み間違い急発進等抑制装置
・ペダル踏み間違い防止装置
障害物検知機能付きペダル踏み間違い急発進等抑制装置
障害物検知機能付きペダル踏み間違い急発進等抑制装置は、車両の前方と後方に障害物を検知するセンサーを搭載した装置。前方または後方にある壁などの障害物を検知し、ランプやブザーが鳴ったり、アクセルペダルが必要以上に強く踏み込まれた場合にエンジン出力を抑制したりするもの。国交省が認定した製品を機能別に紹介しよう。
「踏み間違い加速抑制システム 」(トヨタ)
「ふみまちがい時加速抑制システム(9921T-72M00他)」(スズキ)
「ペダル踏み間違い加速抑制装置 (D651-V7791他)」(マツダ)
「ペダル踏み間違い時加速抑制装置 」(SUBARU)
【装置の概要】
発進時、前方または後方の壁などの障害物を検知しているときに、ランプとブザーを鳴らして警告。万一、その状態からアクセルペダルの強い踏み込みを検知した場合にはエンジン出力を抑制する装置。
【作動条件】
・前方または後方に障害物がある場合
発進時または車速が時速10km以下かつ進行方向約3m以内に障害物がある状況において、一定以上にアクセルを踏んだときに作動する。
・障害物がなく、後退する場合
後退時に後方に障害物がない状況において、車速が時速約5kmを超えたときに作動する。
【作動時の状態】
表示機によるランプとブザーで作動中であることを警告。アクセル信号がキャンセルされてアイドリング状態となる。
【注意点】
・自動で停車させる機能ではないため、運転者自身がブレーキペダルを踏んで停車する必要がある。
・登坂路走行時や右折時など、前方車両に接近した状況でアクセルを強く踏み込むと、加速抑制機能が作動する場合がある。
「つくつく防止」 (ダイハツ、SUBARU)
【装置の概要】
前方、または後方の障害物を検知している場合、停車または徐行(時速約10km以下)状態で、運転者がすばやく一定以上にアクセルペダルを踏み込んだときにエンジン出力を抑制する装置。
【作動条件】
発進時または車速が時速約10km以下かつ進行方向約3m以内に障害物がある状況において、すばやく一定以上にアクセルを踏んだときに作動する(約8秒間エンジン出力を抑える)。
【作動時の状態】
エンジンへの燃料カットを断続的に繰り返し、加速が抑制される。また、表示機によるランプとブザーで作動中であることを警告する。
【注意点】
・自動で停車させる機能ではないため、運転者自身がブレーキペダルを踏んで停車する必要がある。
・登坂路走行時や本線合流時など、前方車両に接近した状況でアクセルを強く踏み込むと、加速抑制機能が作動する場合がある。
・ウインカー点滅時は加速抑制機能が作動しない。
ペダル踏み間違い急発進等抑制装置
ペダル踏み間違い急発進等抑制装置は、アクセルセンサーの信号変化を監視し、急激なアクセルの踏み込みを検知すると、アクセルション信号がキャンセルされてアイドリング状態となり、加速が抑制される装置。国交省が認定した製品を機能別に紹介しよう。
「S-DRIVE 誤発進防止システム2(普通車専用タイプ)」(サン自動車工業)
「S-DRIVE 誤発進防止システム2(軽自動車専用タイプ)」(サン自動車工業)
「JARWA_S-DRIVE(SD0102S、SD0104S)」(日本自動車車体補修協会)
【装置の概要】
前進、後退を問わず、異常と定義したアクセルセンサーの信号変化を検出したとき、アクセル信号がキャンセルされてアイドリング状態となり、加速を抑制する装置。
【作動条件】
発進時または、加速時(時速8km以下)、減速時(時速16km以下)の状態にあるとき、一定以上(※)にアクセルを踏んだときに作動する。
※一定のアクセル開度または初期設定で記憶させた踏み込みのこと。
【作動時の状態】
アクセル信号がキャンセルされてアイドリング状態となり、加速が抑制される。また、表示機によるランプとブザーで作動中であることを警告する。
【注意点】
・自動で停車させる機能ではないため、運転者自身がブレーキペダルを踏んで停車する必要がある。
・登坂路走行時や右折時など、前方車両に接近した状況でアクセルを強く踏み込むと、加速抑制機能が作動する場合がある。
・アクセル踏み込み感度の初期設定が、運転者の特性に合わせて設定されていることを確認して使用する。
「ペダルの見張り番Ⅱ」(データシステム)
「アクセル見守り隊」(データシステム)
【装置の概要】
前進、後退を問わず、アクセルセンサーの信号を常時監視。急激なアクセル開度を検知するとアクセルとブレーキを間違えて踏み込んだものとみなし、アクセル信号を制御して不用意な急発進を抑制する装置。
【作動条件】
・発進時または車速が時速10km以下の状況において、アクセルの急な踏み込みを検知(※)したときに作動する。
※急な踏み込みの検知は、感度レベルを5段階のなかから選択。選択した感度で判断される。
【作動時の状態】
アクセル信号がキャンセルされてアイドリング状態になり、加速が抑制される。また、コントロールスイッチのランプの点滅とブザーで作動中であることを警告する。
【注意点】
・自動で停車させる機能ではないため、運転者自身がブレーキペダルを踏んで停車する必要がある。
・登坂路走行時や右折時など、前方車両に接近した状況でアクセルを強く踏み込むと、加速抑制機能が作動する場合がある。
・アクセル踏み込み感度の設定が、運転者の特性に合わせて設定されていることを確認して使用する。
「あしもと見守るくん」(ワールドウィング)
【装置の概要】
前進、後退を問わず、アクセルセンサーの信号を常時監視。急激なアクセル開度を検知するとアクセルとブレーキを間違えて踏み込んだものとみなし、アクセル信号を制御して不用意な急発進を抑制する装置。
【作動条件】
・発進時または車速が時速10km以下の状況において、一定以上アクセルを踏んだときに作動する。
・後退する場合、車速が時速約5km以上であることを検知したときに作動する。
【作動時の状態】
アクセル信号がキャンセルされてアイドリング状態となり、加速が抑制される。また、ブザーで作動中であることを警告する。
【注意点】
・自動で停車させる機能ではないため、運転者自身がブレーキペダルを踏んで停車する必要がある。
・坂道発進において車が後退する場合があるため、サイドブレーキを併用して発進する必要がある。
・加速抑制機能を停止したいときは、スイッチを使って機能OFFとすることが可能だが、OFFの状態では通知音が鳴り続ける。
ペダル踏み間違い防止装置
ペダル踏み間違い防止装置は、ブレーキとアクセルのペダルを通常とは違う形状とすることで、それぞれ違う動作での操作を可能にして踏み間違いを起こさせないようにする装置。国交省が認定した製品は現状1製品のみ。
「ワンペダル」(ナルセ機材)
【装置の概要】
アクセルとブレーキを1つのペダルで操作できるようにした装置。踏めばブレーキ、足を横にずらせばアクセルというように、「踏む動作」と「開く動作」という異なる動きで操作することによりペダルの踏み間違いを起こさないようにする装置。
【装着時の状態】
・既存のブレーキペダルにかぶせるように取り付けることでアクセルとブレーキのペダルが一体となる。
・ペダル上に足を置いたまま足を右に傾けるとアクセル、踏み込むとブレーキとなる。
・アクセルを操作していても、踏み込むとアクセルが解除されてブレーキのみがかかる。
【注意点】
・通常とアクセル操作の方法が異なるため、操作には一定の習熟が必要。
・本装置の操作を習熟後に通常の車両を運転する場合、ブレーキ操作のためにアクセルペダルに足を置いたまま踏み込むことがないよう、十分に注意する必要がある。
このように後付け急発進等抑制装置は、さまざまな製品が認定されており、機能や作動条件も違うので、自分のクルマや運転スタイルに合ったものを選択して欲しい。
また、後付け急発進等抑制装置は、一定条件での事故防止効果はあるものの、止まるにはドライバー自身がブレーキを踏んでクルマを停める必要があったりするなど、事故を完全に防いでくれるものではない。昨年池袋で発生した事故のように、相当な速度で走行中に踏み間違いを起こした場合も、防ぐことはできない。
装置には機能の限界があり、たとえ正常であっても、状況によっては作動しないことや、事故を防げないことがある。安全運転の責任はドライバー本人にあることは、改めて確認しておきたい。装置に期待するのは最後の手段と考え、日ごろから安全運転を心がけて欲しい。