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最終更新日:2020.03.16 公開日:2020.03.16

「ギャランFTO」は70年代の香りとともに。【ジオラマ作家・杉山武司の世界:その3】

YouTube「JAFで買う」チャンネルにて、ミニカー「ノレブ」シリーズのプロモーション動画が公開中だ。映像作家・尾形賢氏とジオラマ作家・杉山武司氏のコラボレーションによって制作され、4作品を視聴可能。プロモ動画中で使用された杉山氏のジオラマの魅力に迫る第3弾は、1971年登場の三菱のスポーツカー「ギャランFTO」編だ。

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画像1。ジオラマ作家・杉山武司氏の作品のひとつ、昭和の町の整備工場。通称「ガレージタケダ」。

 「ノレブ」とは、世界的な知名度を持つフランスのスケールモデルブランドである。JAF通販紀行では、同ブランドの1/43スケールのミニカーシリーズから、1960~70年代に同じ国産メーカーから発売された2車種を1セットにして「懐かしの名車シリーズ」として販売。プロモーション動画は、同シリーズで扱われた4車種を題材にしたものである。そして、その背景を彩っているのが、ジオラマ作家・杉山武司(すぎやま・たけじ)氏が製作したミニチュアの建物たちだ。

 杉山氏は、2002年に立体画家の第一人者であるはがいちよう(芳賀一洋)氏に師事し、2007年からは故郷の滝川市(北海道)にて本格的なクリエイターとしての活動を開始した。昭和のレトロ風や無国籍なイメージのジオラマで人々を魅了し続けており、個展なども開催されている。

 そんな杉山氏のジオラマに惚れ込んだのが映像作家の尾形賢氏で、プロモ動画の撮影に際して協力を打診。二人のコラボレーションにより、1960~70年代の空気をまとった珠玉の映像が完成したのである。なお、プロモ動画「三菱 ギャランクーペFTO GSR 1971年式」編(以下、「ギャランFTO」編)は、記事の最後に掲載した。

「ギャランFTO」編に登場するジオラマの魅力に迫る

画像2。昭和のレトロな雰囲気をした町の整備工場「ガレージタケダ」。

 「ギャランFTO」編にはふたつの建物が登場する。ひとつが、今回取り上げる町の整備工場だ。看板にある工場名から取って、通称「ガレージタケダ」と呼ばれる(画像1・2)。記事その1で取り上げたマツダ「ルーチェ ロータリークーペ」編の「ワーゲンガレージ」(画像3)も昭和の町の整備工場が題材だが、「ガレージタケダ」はまたそれとは異なる見所がある。

画像3。杉山氏の作品のひとつ、昭和の町の整備工場。通称「ワーゲンガレージ」。記事その1で紹介した。

 そしてもうひとつの建物は、記事その2の「ギャランGTO」編で取り上げた「メキシコカーズ」(画像4左)。無国籍な雰囲気のショールームが題材のジオラマ「メキシコカーズ」の詳細については、記事その2をご覧いただきたい。「ギャランFTO」編では、「メキシコカーズ」の左隣に「ガレージタケダ」が並べられて撮影された。

画像4。左が、記事その2で取り上げたショールーム「メキシコカーズ」。「ギャランFTO」編では、「ガレージタケダ」と並べて撮影された。

 動画の主役である三菱のスポーツカー「ギャランFTO」(画像5)は正式には「ギャランクーペFTO」といい、三菱のスペシャリティカーの第2弾として1971年に発売された。「GSR」とは最上位グレードの名称である。三菱初の本格的なスペシャリティカーとして1970年に発売された「ギャランGTO」(画像4のオレンジ色のクルマ)の弟分的な位置づけである。なお、「ギャランFTO」に関する詳細は、プロモ動画をご覧いただきたい。

画像5。三菱「ギャランFTO GSR」1971年式。三菱のスポーツカー(スペシャリティカー)第2弾として登場した。

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「ガレージタケダ」のポイントとは?

ポイントその1:図面なしで製作された建物

 「ガレージタケダ」は、昭和のレトロな雰囲気の町の整備工場をイメージして、杉山氏が創作した作品のひとつである。特にモデルがあるわけではなく、工場名は友人の名を借りたのだという。

画像6。「タケダガレージ」も隣の「メキシコカーズ」も、杉山氏の作品は図面なしで製作されている。

 それではまず、杉山氏の作品に共通するある驚異的なポイントから紹介しよう。それは、ほかのクリエイターが真似のできない製作手法についてだ。一般的に、ミニチュアの建物を製作する際でも、きちんと図面を引いて建てる人が圧倒的だという。図面を引かなくても建物を作ることは可能かも知れないが、各パーツの比率なども完全に作るとなると、図面なしではとても難しくなる(寸法をすべて頭の中だけで把握しておく必要がある)。例えば、ドアや窓などと建物全体の比率を間違えたりすると、現実にはあり得ないような不格好な建物になってしまう。

 しかし、そうした難しさがある建物のミニチュア作りを、杉山氏は図面なしにやってのける。プロモ動画4作品に登場している作品はすべて、図面なしだ。これは、杉山氏の実家が工務店で幼い頃から建築現場に慣れ親しんできたため、「建物の各部の寸法が肌感覚で身についているからだと思います」と、杉山氏は語っている。

 日本家屋の場合、現在も尺貫法が用いられるが、1間(約182cm)などの長さが縮小しても感覚的にわかるのだという。そうした基本となる長さや建物各部のパーツ同士の比率なども感覚的に身についているから、図面がなくてもパーツを作っていって組み立てるだけで、細部まで破綻のない建物が完成するのである。

 ちなみに、杉山氏の盟友で、今回のプロモ動画の撮影で協力している山野順一朗氏(杉山氏、山野氏、日本ドールハウス協会会長の相澤和子氏が、はが氏門下の三羽ガラスといわれており、その活躍が秀でている)によれば、杉山氏の図面なしで建物のミニチュアを正確に作れる技術は驚異的だという。「杉山さんは特別ですね。私はほかではまず見たことがないです」と、類い希な才能だと語っている。

ポイントその2:雰囲気を盛り上げる小物類の配置

画像7。工場内にはクルマの整備用の機器がある。ホンダ「カブ」は、工場の主の足なのだろう。

 杉山作品の多くに共通するポイントのひとつが、小物類の配置だ。小物類に関しては、記事その2でもポイントとして紹介したが、「ガレージタケダ」内にも、整備工場らしさを演出するためのさまざまな小物が配置されている。ホンダのバイク「カブ」を初め、コンプレッサー、ジャッキ、掃除機、消火器などなど(画像7)。そして、店の外には昔懐かしいビン入りの炭酸飲料の自販機が設置されていたり(画像8)、工場奥の机上にはマグカップが置いてあったりと(画像7奥)、生活感の演出も抜群だ。

画像8。杉山氏の作品は、小物の配置がポイント。店頭には、今となっては希少なビン入り炭酸飲料の自販機は食玩。

 こうした小物類は、サイズ的に合う市販のジオラマ用小物類もあるが、必ずしもそれだけで間に合うとは限らない。そのため、杉山氏は日頃からリサーチし、コンビニのお菓子などのオマケ(食玩)などもチェックしている。記事その2で紹介した「ハーレーダビッドソンの小屋」では、そのハーレーダビッドソンそのものが缶コーヒーのオマケだったという。

 このように、食玩はサイズ的にジオラマの小物として使えそうなものであることも時々あるので、できる限り収集しているのだ。「ガレージタケダ」では、収集した小物と、サイズ的にマッチする市販の小物類セットの両方を利用して、昭和の町の整備工場らしいレトロ感を演出したのである。


動画1。YouTube「JAFで買う」にて公開中の「1/43スケール 懐かしの名車シリーズ」のプロモ動画「ギャランFTO」編。再生時間3分11秒。

 「ガレージタケダ」の動画を見ていると、そこにクルマの整備をしている工場の主の姿が見えてくるような気がしないだろうか。手もツナギも油まみれにしながら「ギャランFTO」を整備している、口は悪いけど腕は一流という、昭和の頑固オヤジの姿が。そんな存在しないはずの人の姿までもが見えてくるような空気感を漂わせているのが、杉山作品の魅力のひとつなのだ。

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