自治体初、茨城県境町で自動運転バス実用化
自動運転によるバスの定期運行が2020年11月26日より茨城県境町で開始された。公共交通が少なく、高齢者の移動手段の確保に課題のあった同町では、この自動運転バスの運行による解決を狙いとしている。自動運転バスが公道を定期運行するのは、自治体が運営するものでは境町が国内初の事例だ。
自動運転バス「ナビヤ・アルマ」3台を導入
高齢化が進み移動手段を持たない住民が増加する地域社会において、地方の公共交通手段の確保は大きな課題となっている。茨城県境町では、町に鉄道駅がなく、クルマが欠かせない一方で、路線バスの運転手の人手不足にも悩まされている。そうした課題として、11月26日からハンドルのない自動運転バス「NAVYA ARAMA(ナビヤ アルマ)」の定期運行を開始した。
ナビヤ アルマは、フランスのNavya社製で、車両本体の製造と遠隔管理システムの開発をソフトバンク子会社のBOLDLY(ボードリー)が、車両の販売や自動運転のソフトウェアメンテナンスなどを株式会社マクニカが行っている。同種の自動運転バスの「定期運行」は、羽田イノベーションシティに次ぐ2例目だが、自治体運営による事例としては日本初となる。
境町では5年分の予算として5憶2000万円を計上し、ナビヤ アルマを3台購入した。運行ルートは、「境シンパシーホールNA・KA・MA」と境町の地域活性化の活動拠点である「河岸の駅さかい」をつなぐ往復約5km。この区間を、時速18kmで片道約20分~25分にて走行する。境町によると、町の中心部を通り、沿道に銀行、病院、スーパーなど主要な施設が存在することから、このルートを選んだという。さらに、当該道路の法定速度が時速30kmで低速車が中心であることから、自動運転バスとの速度差が少ないことも理由としている。
新型コロナの影響で半年延期しての運行スタートだったが、地域住民からは「安心して境町で暮らすことができる」という声が寄せられているという。運行時間は平日の10時~15時30分までで、1日4往復を無料で運行する。乗車定員は11名。乗車前の検温や消毒などの協力を呼びかけ、新型コロナ対策も徹底していくという。
3台のうち2台の外装および座席カバーには、境町出身の美術家である内海 聖史氏が制作したキービジュアルを採用。境町のコンセプトである「自然と近未来が体験できるまち」をイメージしてデザインされた。残る1台には、境町とBOLDLYが同町の近隣を流れる利根川をテーマに一般公募したデザインが採用されている。
運行管理には、複数の自動運転車両の運行を遠隔地から同時に管理・監視できる自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」が活用される。Dispatcherには、自動運転バスの状態管理や緊急時の対応、走行前の車両点検、走行指示機能などが備えられており、安全な運行管理に活用することができる。
さらに現状では、緊急時に対応できるよう、運転士と保安要員としてスタッフが2名搭乗する。自動運転中でも運転士がコントローラーを用いて手動介入できる他、システムに異常があった場合には、速やかに緊急停止ボタンを押して対処するという。
境町は今後準備が整い次第、2021年1月中を目処に2台での運行を開始して1日あたりの便数を16便に増やす予定だ。今後の展望について境町に聞くと、1月中には病院やスーパー、郵便局付近のバス停増設を目標にしているという。その上で、住民のニーズに合わせ、順次ルート、バス停を敷設していき、5年後には「誰もが生活の足に困らない町」になることを目指していくとしている。