これでいい? スマホ化するクルマの未来/小川フミオの「クルマのある日常」|連載 Vol.1
マイカーの荷室がクリーニングの受け取り場所になる!? クルマのある暮らしに焦点を当て、自動車の過去・現在・未来を探求する新連載。第1回目のテーマは、移動手段から生活の道具へと変わる新時代のクルマ社会について。
欧州でも加速するクルマ離れ。ドイツメーカーの思惑とは?
昨年9月に独フランクフルトで開催された国際自動車ショーで、フォルクスワーゲンは(フォルクスワーゲンも)ついに電気自動車を発表した。そこで彼らは、こうコメントを残した。
「2025 年までに、フォルクスワーゲンブランドは、20以上の電気自動車を100 万台販売し、世界のナンバーワンになることを目指しています。最終的に、すべてのフォルクスワーゲンモデルは、完全なコネクテッド機能を備えたスマートデバイスとなり、モバイルサービスの提供ツールとなり、”リビングルーム”になります」。
フォルクスワーゲンは、かねてより、作るのはクルマでなくプラットフォーム、と公言してきた。上記のコメントのなかでは”スマートデバイス”となっているが、つまるところは同じ。ネットに接続して、クルマを移動手段から、生活の道具へと変えようというのだ。
メルセデス・ベンツも、いま、車両を使って「Chark(チャーク)」なるサービスを始めた。チャークとは「Change the why you park」の最初の3文字と後ろの2文字の合成語である。
スマートデバイスの専用アプリにより、駐車中のクルマに移動とは別の機能を与えるというものだ。シュトゥットガルトとベルリンで始まったサービスでは、買い物やクリーニングに出した衣服を、自分が仕事でクルマから離れている間に、駐車中のマイカーの荷室に入れておいてもらうことも可能だ。
クルマに走りとは別の機能を付与しようとしているのは、欧州でも加速しているといわれるクルマ離れが背景にあるようだ。地球温暖化防止策の一環として、各地ではクルマの都市内への乗り入れ規制が強化されている。
走行距離あたりのCO2の排出量(つまり燃費)に応じて規制値があり、欧州の都市では、最新の規制をクリアしていないと、都市への乗り入れが認められなくなってきている。
クルマは借りるもの? 変わるユーザーの価値観
最新のクルマに買い替えるには、雇用の不安定さが大きなネックになる。欧州でも年契で働き、雇い止めの不安と闘っている若者たちは少なくない。どんどん規制が厳しくなるなかで、彼らがクルマを買うのはリスクが高すぎるのだ。
シビアな社会背景のなかで、ハッチバックのような大衆的製品を手がけるメーカーは、新しい価値への転換を求められている。クルマは借りるもの、とユーザーの価値観が変わってきたのも、ターニングポイントなのだ。
仕事に追われるなかで、手のかかる日常の仕事(クリーニングや買い物)は他者がやってくれ、受け取り場所がクルマだったら、通勤だけに集中できるので効率が上がる……。それがフォルクスワーゲンの考えるプラットフォーム化であり、メルセデス・ベンツの始めたCharkなのだ(他社も同様のサービスへ着手している)。
日本はこれまで24時間営業のコンビニエンスストアやドラッグストアが、朝早くから夜遅くまで働くひとの生活を支えてきた。しかし最近は、時短営業を進めたオーナーと本部とのトラブルに象徴されるように、そんなコンビニでさえ、時短営業が受け入れられる時流になりつつもある。
「純粋な自動車メーカーから、お客様の日常生活をより便利で楽しいものにする、最新のモビリティサービスとスマートデバイスのプロバイダーに進化を遂げています」
フォルクスワーゲンのコメントに接すると、いよいよクルマは新しい時代へと入りつつある感を強くする。これでいいんだろうか、という思いも、自動車好きとしてはあるのだが。