日産が開発中のEV用4WDシステム「e-4ORCE」とは?
日産は、開発中のEV用4WDシステムの名前を「e-4ORCE(イーフォース)」と命名したと発表。超緻密な制御が可能になるという「e-4ORCE」とはどのようなシステムなのか?
「e-4ORCE」はEVのスムーズで安定した出力とブレーキ性能の実現を目的に、日産が開発を続けている4WDシステムだ。現在もテスト車両を用いて開発が続けられている(画像1)。「e-4ORCE」の「e」はEVを表し、「4ROCE」は、物理的な力の「FORCE(フォース)」と4輪駆動の「4」を掛け合わせたものだという。
「e-4ORCE」は、EV「リーフ」やシリーズ型ハイブリッド技術「e-POWER」などの同社が有する電動化技術に、1980年代から培ってきた4WD制御技術とシャシー制御技術を融合させたという(画像2)。単なる4WD方式の駆動システムではなく、車両を統合的に制御し、また瞬時に4輪それぞれに必要なトルクを伝えることで、クルマの走行性能に加え、乗り心地を向上させる技術だ。
「e-4ORCE」を実現するのは前後2つのモーター
「e-4ORCE」はツインモーターによって実現する技術だ。市販「リーフ e+」はフロントにモーターを搭載するが、2019年10月に公開された「e-4ORCE」開発用の「リーフ e+」ベースのテスト車両(画像3)には、リアにもモーターを搭載している。ツインモーター化したことで、システムの最高出力は市販「リーフ e+」の1.4倍である227kW(308.6馬力)、最大トルクが2倍の680N・mとなっている。
高出力化したことと、モーターを1万分の1(0.0001)秒の緻密さで制御することで、さまざまな路面環境下においても素早いレスポンスと滑らかな加速を両立させたという。
車体の振動を抑制して快適な乗り心地も提供
EVの長所のひとつは、アクセルオフにした瞬間から始まる回生ブレーキの制動力の大きさだ。これがワンペダル操作も可能としている。しかしドライバーの運転技術によっては、逆に搭乗者が加減速Gで前後に揺さぶられ続けることになってしまい、車酔いを誘発しやすくなるというEVならではの課題もあった。
それに対し、「e-4ORCE」ではツインモーターを緻密に制御することで、車体前後の揺動を抑制。アクセルオフにするとフロントモーターに加えてリアモーターの回生ブレーキも同時に働き、車体の前後の揺れを抑える仕組みだ。これにより、車酔いを抑える効果が見込まれるという。
画像4は「e-4ORCE」搭載テスト車両と他社製EVのレスポンスと加速の滑らかさを比較したグラフだ。左から発進加速、クリープからの加速、減速からの再加速の3種類だが、どれも加速の立ち上がりが鋭い一方で、振幅が消えるのが早く加速が滑らかである。特に、減速からの再加速は振幅が認められないほどだ。
また、加速時や凹凸のある路面を通過する際にも、モーターを最適に制御することで車体の姿勢変化を減らし、快適な乗り心地を提供するとしている。
コーンリング性能も大幅に向上させる「e-4ORCE」
「e-4ORCE」による車両制御は、コーナリング時にも行われる。路面と車両の走行状況に応じて前後の駆動力を最適に配分し、その上で4輪のブレーキをそれぞれ個別に制御。タイヤごとに必要なトルクを配分し、最適なコーナリングフォースを発生させる仕組みだ(画像5)。これにより、どのような路面状況でも、ドライバーの曲がりたい方向にクルマが曲がってくれるのである。
さらに、雪道のようなスリッピーな状況の路面においても、緻密にモーターの駆動力とブレーキの制御を行うことで、高いライントレース性能を実現するという。動画1は、雨で濡れた路面をスラローム走行するテスト車両の様子を撮影したもので、その高いライントレース性能を見ることが可能だ。
冒頭のスロー映像は「e-4ORCE」の機能をオフにした状態での走行の様子。旋回中にリアがアウトに流れてラインがやや膨らんでいるのがわかる。続いて10秒目から始まるスロー映像が、「e-4ORCE」の機能をオンにしたものだ。リアがほぼ流れず、なおかつ小回りに旋回しているのが見て取れる。またその後に続く通常速度の映像も、すべて機能をオンにしたもので、通常路面を走るのに等しいライン取りなのがわかるはずだ。
「e-4ORCE」は、東京モーターショー2019の時点ではまだ命名されていなかったが、同時に出展されていた「アリア コンセプト」に搭載されていた。市販モデルへの搭載については未発表である。