トヨタのEV戦略をまとめてみた
レクサスは11月22日から始まった中国・広州モーターショーにおいて、市販EV第1弾「UX300e」を世界初公開した。2019年4月の上海モーターショーでは、コンパクトSUVの兄弟車「C-HR/IZOA」のEVグレードを発表済みで、この3車種は2020年から発売となる。トヨタは今後どのようにEVを展開していくのか、その計画をまとめた。
2010年代半ばから国内ではFCV(燃料電池車)とPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)に力を入れてきた感のあるトヨタだが、2020年からいよいよEVを市場に投入する。最初にEVを投入するのは中国で、11月22日から始まった広州モーターショーではレクサス初の市販EV「UX300e」(画像1)が世界初公開された。
「UX300e」はTNGAプラットフォーム「GA-C」を採用した都会派のコンパクト・クロスオーバーSUV「UX」のEVグレード。モーターの最高出力は204ps、最大トルクは300N・mで、54.3kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、一充電航続距離は約400kmと発表されている。
トヨタブランドとしては、2019年4月の上海モーターショーでコンパクトSUVの兄弟車「C-HR」(販売は広汽トヨタ)と「IZOA」(販売は一汽トヨタ)のEVグレードを出展(画像3)。こちらも2020年に市販される予定だ。トヨタは、どのような計画に基づいてEVを発表しているのか。従来の公表された資料等をもとに探ってみよう。
トヨタはの2015年10月発表の計画からブレていなかった
2015年10月にトヨタは長期的な目標として「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表。そのひとつに、2050年までに新車から排出される走行時のCO2排出量を、2010年と比較して90%削減する「新車CO2ゼロチャレンジ」という目標を掲げた(このほか、製造でのトータルでのCO2排出ゼロを目指す「ライフサイクルCO2チャレンジ」、世界の工場が対象の「工場CO2ゼロチャレンジ」も掲げている)。
そして2017年12月には、それらを達成するための計画として、まず2025年までに全車種に電動グレード(HV(ハイブリッド)、PHEV、EV、FCV)をラインナップすることを発表。さらに2030年には、新車販売においてHVとPHEVで450万台以上、EVとFCVで100万台以上を販売するというマイルストーンを設定した(画像4)。
2019年6月7日に開催されたメディア説明会「EVの普及を目指して」での発表によれば、電動車の普及は想定を超える勢いで進んでおり、5年ほど前倒しの状況だという。
EVを中国市場から投入する理由は?
トヨタがEVを中国市場から投入する理由は、市場として大きく、EVの普及のための補助金(助成金)制度が充実していることなどが挙げられる(ただし、補助金はまもなく打ち切られるとされている)。
中国でのEVの販売実績は世界で見てダントツだ。2018年に世界で121万台のEVが販売されたが、約6割にあたる70万7800台が中国で購入さている。環境問題などからこれまで中国では、EV、PHV、FCVの「新エネルギー車」(New Energy Vehicle:NEV)の普及に力が入れられてきた。購入時の補助金が後押しして、急速に普及が進んできたのである。最大時に比べれば削減されたものの、それでも2018年の時点でEVについても補助金が設定されていた。1充電航続距離によってクラス分けがされていて、400km以上なら5万元(1元=17円計算で約85万円)の補助金があったのである(画像5)。
ただし、この補助金制度も間もなく打ち切られるとされる。2019年3月にも削減が行われ、400km以上でも2万5000元(42万5000円)となった。これは、中国ではEVの補助金にメーカーが依存していることが懸念されており、真の競争力を持ったメーカーを育てるためだという。これに対してトヨタも、「補助金がなくても購入してもらえる、ガソリン車にはない魅力を持ったEVを開発する必要がある」としている。
2020年までにEVも含めた電動車を10車種増やす計画
補助金制度の打ち切りという懸念材料はあるが、それでもメーカーとしては魅力的な市場である中国。同時に、中国では、自動車メーカーは新エネルギー車を発売しなくてはならない規則もあり、そのためトヨタは電動車の拡充を進めている。2020年までに合計10車種の電動車をラインナップする予定で、すでに発売中の車種には、「カローラPHV」(一汽トヨタ・画像6)や「レビンPHV」(広汽トヨタ・画像7)などがある。日本未発売の車種やグレードも少なくない。
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日本など他地域でのEV展開は?
中国以外の地域でのEVの発売計画
中国以外の地域におけるEVの展開としては、2020年以降、トヨタ・レクサスの両ブランドで世界的に拡充していくとしている。その中にはもちろん日本も含まれており、インド、米国、欧州でも投入されていく予定だ。合計で10車種以上のEVをラインナップする予定としている。
そしてその10車種以上のEVを現在、大別して以下の6つのバリエーションに分けて企画しているという(画像8)。
これらのうち、ミディアムSUVについてはスバルと共同で企画・開発中で、コンパクトカーはスズキおよびダイハツと共同で進められている。具体的にどのような車種が日本国内で発売されるかについては、現時点では未発表だ。
世界に先駆けて日本では「超小型EV」を発売
日本国内では、上述したEVのほかに「超小型EV」(画像9)が2020年冬頃に発売予定とアナウンスされている。この「超小型EV」は日本市場への投入が世界で最初となる。免許取り立ての初心者や高齢者などが、買い物や日常の近距離移動での利用を想定したシティーコミューターで、最高速度は時速60km、一充電距離は約100km、2人乗りというスペックが発表されており、車名になるかどうかは分からないが、ナンバープレートには「BEV」とある。
同車は軽自動車よりもコンパクトな全長約2500×全幅約1300×全高約1500mmというサイズで、カテゴリー的には政府等が進めている「超小型モビリティ」となる予定だ。
「超小型EV」が企画された理由は、トヨタが独自にEVへのニーズを調査した結果、以下のような声が集まったからだという。新たなビジネスチャンスがあるとして、「超小型EV」は企画されたのである。
「超小型EV」のライバルとなるシティコミュータータイプの小型EVは現在、複数の国内メーカーが発売しているし、海外からの正規輸入車も複数種類がある。しかし少量生産のために価格は思ったほど安価ではないし、販売網などの関係で容易に入手できない点もネックで、街中ではまだあまり見かけない。もし低価格で、かつ購入しやすい「超小型EV」が販売されれば、一気に普及する可能性もあるだろう。
「歩行領域EV」は2020~2021年にかけて発売の予定
さらに国内では、パーソナルモビリティの「歩行領域EV」3種類の発売が予定されている(画像10)。大型施設や工場などでの巡回/警備といった主に業務用途向けとする立ち乗りタイプは2020年に発売予定。大型施設などで手荷物などが多いときや歩行に支障がある人などの利用向けの座り乗りタイプ、手動車いす用の車いす連結タイプは2021年に発売を予定している。立ち乗りタイプは、大型施設や工場などでの主に業務用途が考えられており、現状では一般道での利用は考えられていないとしている。
一方、座り乗りタイプと車いす連結タイプは、現行のシニアカーと同じで歩行者扱いとなり、一般道での走行も可能だ(免許不要)。「歩行領域EV」の1充電航続距離は約10~20km。充電時間は2~2.5時間(バッテリーの交換は可能)となっている。
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EV専用「e-TNGA」について
スバルと共同開発中のEV専用プラットフォーム「e-TNGA」
トヨタは、スバルと共にミディアムSUVタイプのEVを共同企画・開発中であることは前ページで触れたが、EV専用プラットフォーム「e-TNGA」も両社で共同開発中だ。
TNGAとはToyota New Global Architectureの略で、4代目「プリウス」から採用されたトヨタの最新プラットフォーム及び車両開発のコンセプトを指し、e-TNGAはそのEV仕様だ。モジュール構造を採用しており、その組み合わせをもって、EV開発の効率化を図るとしている(画像11)。
フロントとリアのモーターユニットやフード内(いわゆる”エンジン”ルーム)のレイアウト、前輪に対するドライバーの位置、バッテリーの幅などは固定し、ホイールベースやバッテリーの搭載量、オーバーハングなどを変更してクルマのバリエーションを展開していく。トヨタはEVの開発をモジュール化して効率よく行うことでコストダウンを図り、低価格化を実現するのが狙いだ。
また、モーターやパワーコントロールユニットなど、EV専用ユニットもトヨタとスバルで共同開発中だ(画像13)。モーターなどもユニット化されるので、車種に合わせて搭載モーターの種類や配置を変更するだけでバリエーション展開がしやすい設計となっている。
このように、トヨタ車は効率よくEVの車種を増やしていく計画だ。6つのカテゴリーで10車種以上ラインナップされれば、EVの購入者も一気に増えることだろう。しかし、EVの需要が高まれば高まるほど、顕在化する課題もあるのだ。
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EVを量産するための課題とは?
EVのバッテリーは高耐久性が重要
EVを量産する上で課題となるのが、高性能なバッテリーを確保することだ。中でも、長期間使用しても劣化しにくい耐久性が重要視されている。高耐久性のバッテリーなら、ユーザーがEVを長く安心して乗り続けられ、さらにEVの中古車市場の構築にもつながるからだ。
トヨタでは、2012年の初代「プリウスPHV」、2017年の同2代目で、当時のトップレベルの耐久性を実現。「CH-R/IZOA」では、バッテリーの材料やパック構造、制御システムなど、さまざまな点からバッテリーの劣化を抑制する技術を高め、2020年時点の世界トップレベルの性能を達成すべく開発を進めているという。レクサス「UX300e」も同程度のレベルと思われる。
EV量産の成否は高性能バッテリーの量産体制がカギを握る
バッテリーの性能を高めること以上に重要なのが、量産体制を構築することだ。電動車全体の普及率は2018年時点でトヨタの当初の想定を超えており、このままのペースが維持されると2025年には当初の予定よりも約20倍の台数になるという(画像15)。そのため、高性能なバッテリーを安定して大量に供給できる体制を確保することが必須だ。
そこでトヨタはまず、パナソニックと2019年1月に車載用角形電池事業に関する2020年の新会社設立に向けた事業統合契約と合弁契約で合意した。そして両社が立ち上げて世界シェアトップクラスとなったプライムアースEVエナジーを筆頭に、GSユアサ、東芝、豊田自動織機など、国内サプライヤーとバッテリーの調達に関する協調・連携する体制も整えた。
また中国でのEV量産に備え、バッテリーの世界的な大手である同国のCATLと7月に新エネルギー車用バッテリーに関する包括的パートナーシップを締結。さらには、中国のバッテリー・電動車メーカー大手BYDともバッテリーを含めたEVの共同開発で7月に合意し、11月7日にはEVの研究開発会社(中国国内のトヨタの4つ目の研究開発拠点)を合弁で2020年中に設立することに合意したことが発表された。
全固体電池の開発状況は?
そして気になるのが、全固体電池の開発状況だ。リチウムイオンバッテリーは液漏れや発火などの危険性があり、また充電時間が長いという課題を有する。それに対して全固体電池は固体電解質を利用するため、液漏れや発火の危険性がない。しかもエネルギー密度がより高く、高電圧化も容易なことから、小型軽量化を実現しやすいとされる。さらに高温耐久性能が高いことも手伝い、充電時間はリチウムイオンバッテリーの1/3~1/5程度で済むようになるとされている。これまでなら8割の充電で20~30分かかっていたところ、5~10分程度で済むという。
トヨタに所属する加藤祐樹博士らは、全固体電池研究の第一人者である東京工業大学大学院総合理工学研究科の菅野了次教授を中心とした共同研究チームに参加しており、ひとつの成果を2016年3月に発表。従来のリチウムイオンバッテリーの電解液よりもイオンの移動速度(伝導率)が2倍という固体電解質を発見したのだ。その後も、菅野教授らは全固体電池に関する成果を発表し続けている。
現在、全固体電池に関するトヨタの公式な情報としては、上述したトヨタとパナソニックの新会社において、全固体電池および次世代電池に関する研究開発も行うということが発表されている。広報に全固体電池について改めて確認したところ、現時点で発表できるのはこれまでと同様に「2020年代前半に実用化を目指して開発しています」ということだった。
最初は中国からだが、その後の日本を含めたEVの世界展開が気になる今後のトヨタのEV戦略である。