重さが半分、熱可塑性CFRP(CFRTP)製ホイール
EV・PHEV普及活用技術展EVEX2019の岡山県産業振興財団ブースでは、CFRPやGFRPなどの繊維強化樹脂を扱うラピートが、世界初の熱可塑性CFRPを用いたホイールを参考出展。同サイズのアルミ製の純正16インチホイールと比較して、重量が半分近くなるという衝撃的な軽さである。しかも熱可塑性なので、従来の熱硬化性CFRPと比較してリサイクルがしやすいのが特徴だ。
CFRPは航空宇宙や軍事などの分野で開発され、高価だが、鉄にも負けない抜群の強度で極めて軽量なことから、自動車分野では1980年代にまずF1などのモータースポーツで使用されるようになった。その後、コストダウンも進み、今では一部のパーツをCFRP製にしている高級車も増えてきているし、さまざまなアフターパーツも発売されている。金属製のパーツをCFRP製に交換することで車重が軽くなり、その結果、燃費がよくなる。さらに、ブレーキやタイヤ、さらには駆動系などにかかる負担も減るなど、車体の軽量化にはメリットが多いのだ。
熱可塑性CFRP一体型ホイールは純正アルミホイールに対して半分近い軽さ!
今回、ラピートが参考出展したホイールは、従来の熱すると硬くなる熱硬化性樹脂を母材として用いたCFRP(※1)ではなく、熱すると再び柔らかくなる樹脂を母材とした、リサイクルできる可能性もある熱可塑性CFRP(※2)を用いた一体型(※3)のホイールだ。
現在、ダイハツの軽オープンスポーツカー「コペン」に装着してテストしているということだが、純正の16インチアルミホイールが7.416kgなのに対し、同一形状の熱可塑性CFRP一体型ホイールは3.968kg。約54%の重さしかないという驚異的な軽さを実現した。ホイールとしての性能はメーカー規格相当を実現しており、実際に走行も可能。ただし、製品化までにはもう少し時間がかかるという。というのも、まだ完成してから日が浅いため、寿命がどのぐらいなのかがわかっていないからだ。それをクリアできたところで、製品化も見えてくるということである。
ホイールの重量が半分になると得られるメリット
クルマの軽量化では、特に「バネ下」と呼ばれる、サスペンションのスプリングの下側(路面側)にあるパーツが軽くなると、走行性能への効果が大きいといわれる。パーツでいうと、タイヤ、ホイール、ブレーキローターやパッド、サスペンションアームなどだ。
ただしホイールは、軽くなるとそれだけ路面の凹凸を拾いやすくなり、乗り心地やハンドリングが悪化してしまうこともある。そこで、タイヤとのマッチングなどを工夫したり、サスペンションの機構を改良したりする必要はあるのだが、それでもホイールの軽量化はクルマ全体の性能を向上するには魅力的だ。今回の熱可塑性16インチホイールの場合、テストに使用している「コペン」の純正ホイールよりも1輪に付き3.43kgも削れるわけで、4輪合計で13.72kg。「コペン」は車重が850~870kgなので、約1.6%の軽量化を達成できることになるのだ。
従来のCFRPが抱える課題のひとつが解決?
実は従来の熱硬化性CFRPは、環境面で課題がある。リサイクルの方法がなく、現状では最終的に産業廃棄物として処分するしか方法がなかった。そこでラピートが着目したのが、加熱すると柔らかくなる樹脂を母材とした熱可塑性CFRPだったのである。これなら加熱することで再び柔らかくでき、再利用できる可能性があるのだ。ただし実際のところは、再利用するための技術が確立されているわけではない。再利用する方法にもよるが、破断と再加熱により炭素繊維が短くなってしまうと強度が落ちてしまうなど、熱可塑性CFRPが再利用しやすいとはいっても課題はあるのだ。またリサイクルを行うためには廃棄処分のホイールを回収する仕組みや設備などが必要とされるため、環境を整えないとならないのも事実である。
また熱可塑性CFRPの長所は短所でもあり、何らかの原因によりホイールが加熱されてしまった場合、柔らかくなって強度を失ってしまう危険性もゼロとはいえない。ただしテスト車両の「コペン」での走行では、今のところ大きな問題は生じていないという。
このようにさまざまな課題は残るものの、軽量化できて、リサイクルできる可能性もあるというのが熱可塑性CFRP製ホイールである。市販化を想像したとき、どのクルマにとっても軽量化はメリットがあるが、中でも航続距離を伸ばしたいEVには有効なのではないだろうか。2020年代半ばには、国内外の複数の自動車メーカーが電動化率を上げることを宣言している。もしかしたらその頃に登場するEVの中には、熱可塑性CFRP製ホイールを装着したものがあるかもしれない。