ボルボはなぜ、安全なクルマづくりにこだわるのか
2020年、交通事故による死傷者はゼロになる? ボルボが考える最新の安全技術をモータージャーナリストの小川フミオが体験。ボルボが本社を置くスウェーデン・ヨーテボリからレポートする。
事故の要因となる3大ヒューマンエラーをどう防ぐか
交通事故による死傷者をいかに減らすか。ドライバーや道路利用者の安全意識も大切だが、自動車メーカーにもまだまだやることがある。そう主張するのは、スウェーデンのボルボだ。
2019年3月、とやや旧聞に属する話になってしまうけれど、ボルボが本社を置くスウェーデン・ヨーテボリで「ボルボ・モーメント」と題されたセミナーが開催された。世界各地から招かれたジャーナリストに紹介されたのは、安全に対するボルボの最新の取り組みだ。
「私たちは、常に人間を中心としたクルマづくりを心がけています。1927年の創業以来、絶えず安全性を念頭に置いているのも、それが理由です。ボルボは1970年代に事故調査隊を独自で組織しました。ヨーテボリから100km圏内で起きたボルボ車が関わる交通事故は、警察とともに現場に急行し、その状況をデータ化して安全性の向上に役立てています」
ヨーテボリのフィルムセンターを舞台にしたプレゼンテーションで、ボルボ・カーコーポレーションのホーカン・サムエルソン社長兼CEOはそう話し出した。
「いまの目標は『VISION 2020』といって、ボルボの新車が関わる事故における死者や重傷者を2020年には”ゼロ”にすることです。90%以上の事故は人間が原因で起きているという認識に立って、どう目標を達成するかを考えてきました」
「ドライバーに起因する事故の要因は、いくつかあげられます。大きなものは3つ。注意力散漫、飲酒、そして速度超過です。それらへの対策によって、2020年の目標に近づけると思っています」
ドライバーを監視し事故を防ぐ技術
ボルボによれば、前出の「注意力散漫」と「飲酒」による酩酊状態は、ドライバーの視線を追うことができる車載カメラで対策するという。眼球の動きやまぶたの動きで、異常を検知するとドライバーに警告・停車を促し、同時にハンドルやブレーキの操作も判断材料にして、統合的にドライバーの状態を把握するのだそうだ。導入は2020年前半を検討中と説明してくれた。
先日、2020年以降に発売するボルボ車の最高速度を時速180kmに制限すると発表し話題となったが、さらにユニークな技術が「速度超過」への対応策だ。「ケアキー」と呼ばれるリモートコントロール型のエンジンキーは、車両の最高速度をプリセットできるようになっている。
このケアキーは、車両を家族や子どもに貸し出したり、経験の浅いドライバーやカーシェアリングに提供したりする場合を想定したものだという。スピードのコントロールこそ安全につながるのは、よく知られた事実だ。
「スクールゾーンで、ドライバーが好き勝手な速度で走っているのは安全とはいえません。しかし速度を抑えていれば、なにかあったときに対応できる時間を稼ぐことができます。状況をより的確に判断し、危機回避のための行動を取る余裕が生まれるのです」
このケアキーの実用化は、2020年を予定しているとした。
独自収集の事故データ数万件を公開へ
現行のボルボ車には「IntelliSafe(インテリセーフ)」という名称で、すでに16種類以上もの先進安全技術を搭載しているモデルがある。そのなかには「被害軽減ブレーキ」「歩行者・サイクリスト・大型動物検知機能」「インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)」なども含まれる。
しかし、とサムエルソン氏は言う。
「人間に焦点を当てないと、事故はゼロに近づいていかないのです」
ボルボはこの日、興味深い発表を行った。前述の何万件にも及ぶ事故調査データを公開するというのだ。それは事故の発生した状況のみならず、乗員のプロファイル、ケガの程度、車両の損壊具合や安全装置の作動状況なども含まれている。
専用のホームページ(http://www.volvocars.com/eva)には、ボルボ車の開発における土台ともいえる事故データが掲載されており、誰もがアクセスしてPDFのダウンロードができる。ボルボが唱えているプロジェクト「E.V.A.(Equal Vehicle to All=すべてひとに安全なクルマ)」の一環なのだそうだ。
「安全に関するデータは1社で独占せず、広く共用されるべき」と、サムエルソン氏はこの大胆ともいえる行動について説明する。実際に、他の自動車メーカーの技術者は「さっそくデータを見て、どのデータがどのような車両開発に結びついているか、研究したい」と話していた。
今日も世界中のすべてのドライバーは「自分は絶対に事故を起こさない」という心構えで運転していることだろう。だが、それでも事故は起きる。事故をいかに減らすか。そしてその時、いかに乗員を守るか。事故データを公開することによって、ボルボ車だけでなく、すべてのクルマの安全性がより高まることこそ、ユーザーのなによりの望みである。