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最終更新日:2019.07.03 公開日:2019.07.03

ボルボはなぜ、安全なクルマづくりにこだわるのか

2020年、交通事故による死傷者はゼロになる? ボルボが考える最新の安全技術をモータージャーナリストの小川フミオが体験。ボルボが本社を置くスウェーデン・ヨーテボリからレポートする。

文・小川フミオ

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ボルボが本社を置くスウェーデン・ヨーテボリで開催された安全セミナー「ボルボ・モーメント」では、時速80kmと高い速度でのクラッシュテストも公開された。

事故の要因となる3大ヒューマンエラーをどう防ぐか

 交通事故による死傷者をいかに減らすか。ドライバーや道路利用者の安全意識も大切だが、自動車メーカーにもまだまだやることがある。そう主張するのは、スウェーデンのボルボだ。

 2019年3月、とやや旧聞に属する話になってしまうけれど、ボルボが本社を置くスウェーデン・ヨーテボリで「ボルボ・モーメント」と題されたセミナーが開催された。世界各地から招かれたジャーナリストに紹介されたのは、安全に対するボルボの最新の取り組みだ。

「私たちは、常に人間を中心としたクルマづくりを心がけています。1927年の創業以来、絶えず安全性を念頭に置いているのも、それが理由です。ボルボは1970年代に事故調査隊を独自で組織しました。ヨーテボリから100km圏内で起きたボルボ車が関わる交通事故は、警察とともに現場に急行し、その状況をデータ化して安全性の向上に役立てています」

 ヨーテボリのフィルムセンターを舞台にしたプレゼンテーションで、ボルボ・カーコーポレーションのホーカン・サムエルソン社長兼CEOはそう話し出した。

ボルボ・カーコーポレーションのホーカン・サムエルソン社長兼CEO。

「いまの目標は『VISION 2020』といって、ボルボの新車が関わる事故における死者や重傷者を2020年には”ゼロ”にすることです。90%以上の事故は人間が原因で起きているという認識に立って、どう目標を達成するかを考えてきました」

「ドライバーに起因する事故の要因は、いくつかあげられます。大きなものは3つ。注意力散漫、飲酒、そして速度超過です。それらへの対策によって、2020年の目標に近づけると思っています」

ドライバーの眼の動きを追う「スマートカメラ」は、車内ミラーの上に設置されている。

ドライバーを監視し事故を防ぐ技術

 ボルボによれば、前出の「注意力散漫」と「飲酒」による酩酊状態は、ドライバーの視線を追うことができる車載カメラで対策するという。眼球の動きやまぶたの動きで、異常を検知するとドライバーに警告・停車を促し、同時にハンドルやブレーキの操作も判断材料にして、統合的にドライバーの状態を把握するのだそうだ。導入は2020年前半を検討中と説明してくれた。

 先日、2020年以降に発売するボルボ車の最高速度を時速180kmに制限すると発表し話題となったが、さらにユニークな技術が「速度超過」への対応策だ。「ケアキー」と呼ばれるリモートコントロール型のエンジンキーは、車両の最高速度をプリセットできるようになっている。

車両の最高速度をプリセットできる「ケアキー」は、2020年に実用化されるという。

 このケアキーは、車両を家族や子どもに貸し出したり、経験の浅いドライバーやカーシェアリングに提供したりする場合を想定したものだという。スピードのコントロールこそ安全につながるのは、よく知られた事実だ。

「スクールゾーンで、ドライバーが好き勝手な速度で走っているのは安全とはいえません。しかし速度を抑えていれば、なにかあったときに対応できる時間を稼ぐことができます。状況をより的確に判断し、危機回避のための行動を取る余裕が生まれるのです」

 このケアキーの実用化は、2020年を予定しているとした。

会場にはドライブシミュレーターが設置され、速度が上がるといかにハンドル操作が困難になるかを、参加者は身をもって体験した。

独自収集の事故データ数万件を公開へ

 現行のボルボ車には「IntelliSafe(インテリセーフ)」という名称で、すでに16種類以上もの先進安全技術を搭載しているモデルがある。そのなかには「被害軽減ブレーキ」「歩行者・サイクリスト・大型動物検知機能」「インターセクション・サポート(右折時対向車検知機能)」なども含まれる。

 しかし、とサムエルソン氏は言う。

「人間に焦点を当てないと、事故はゼロに近づいていかないのです」

 ボルボはこの日、興味深い発表を行った。前述の何万件にも及ぶ事故調査データを公開するというのだ。それは事故の発生した状況のみならず、乗員のプロファイル、ケガの程度、車両の損壊具合や安全装置の作動状況なども含まれている。

 専用のホームページ(http://www.volvocars.com/eva)には、ボルボ車の開発における土台ともいえる事故データが掲載されており、誰もがアクセスしてPDFのダウンロードができる。ボルボが唱えているプロジェクト「E.V.A.(Equal Vehicle to All=すべてひとに安全なクルマ)」の一環なのだそうだ。

「安全に関するデータは1社で独占せず、広く共用されるべき」と、サムエルソン氏はこの大胆ともいえる行動について説明する。実際に、他の自動車メーカーの技術者は「さっそくデータを見て、どのデータがどのような車両開発に結びついているか、研究したい」と話していた。

 今日も世界中のすべてのドライバーは「自分は絶対に事故を起こさない」という心構えで運転していることだろう。だが、それでも事故は起きる。事故をいかに減らすか。そしてその時、いかに乗員を守るか。事故データを公開することによって、ボルボ車だけでなく、すべてのクルマの安全性がより高まることこそ、ユーザーのなによりの望みである。

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