「クラリティ PHEV」は半EV!? ホンダの最新電動化技術にこってりと迫る【人とくるまのテクノロジー展2019】
5月22日から24日まで開催の、エンジニアのための自動車技術専門展「人とくるまのテクノロジー展」。ホンダは、「クラリティ PHEV」に搭載した、最新の2モーター・ハイブリッド・パワートレイン「SPORT HYBRID i-MMD Plug-in」を構成する主要機器を展示した。
ホンダはここ数年で、プラグインHV(PHEV)車やEV、FCV(燃料電池車)などの環境車のラインナップを増やしている。国内でその最新車種となるのが「クラリティ PHEV」だ。「クラリティ」といえばFCVの「クラリティ FUEL CELL」のイメージが強かったが、2018年7月に「クラリティ PHEV」が登場。北米ではEVモデル「クラリティ EV」も発売されており、「クラリティ」はホンダの環境車部門を牽引するシリーズとなっている。
ブースでは、そのパワートレインの「SPORT HYBRID i-MMD Plug-in」を構成する主要機器を展示。「高圧デバイス一体床下水冷インテリジェント・パワー・ユニット(IPU)」、「高出力ボルテージ・コントロール・ユニット(VCU)一体パワー・コントロール・ユニット(PCU)」、モーター/トランスミッションの3種類だ。
前後席下に配置された「高圧デバイス一体床下水冷IPU」
「高圧デバイス一体床下水冷IPU」はバッテリー、12V DC-DCコンバーター(※1)、バッテリー制御用ECUなどで構成されている。前席から後席までのフロア下に配置されているコンパクトさが特徴だ。
小型化を実現するため、セル接続にバスバー(※2)を採用しバッテリーモジュールの全高を低減。またハーネスや12V DC-DCコンバーターをセンタートンネル内に集約することで、後席乗員の足下のスペースを確保することにも成功したという。これらにより、低全高のセダンとしてのフォルムを維持しながら、5人乗りのキャビン、リアシートのフォールダウン機構、荷室の広さなどが実現されたのである。
水冷システムもバッテリー小型化の大きなポイント
そして、バッテリーおよび「高圧デバイス一体床下水冷IPU」全体の小型化に大きく寄与した特に重要な要素が、バッテリーの冷却方式として底面水冷方式を採用したことだ。
空冷方式では、高出力化しようとすると、それに伴う発熱への対応でセル同士の隙間を空けなくてはならなくなり、容積の大型化を招いてしまう。それに対して水冷方式なら隙間を設ける必要もなく、バッテリーおよびIPU全体の小型化にもつながる。さらに、バッテリーの耐久性を高められるのだ。
ハイパワー化に対応しつつも小型化も実現した「高出力VCU一体PCU」
ホンダでは、VCUとインバーター(※3)を一体化した装置を「PCU」と呼び、「クラリティ PHEV」のエンジンルーム内に搭載している。VCUは、バッテリーの電圧をモーターが要求する電圧にまで昇圧する装置だ。これによってより効率的な領域でモーターを動作させられ、さらにモーターの小型化と高出力化にもつながっている。
課題はバッテリーの高出力化が進んでいることで、それに対応するにはVCU自体の出力も高める必要があった。しかし、VCUの高出力化はPCU全体の大型化につながってしまい、エンジンルームへの搭載が困難となってしまう。そこでホンダは高出力化を行う一方で、「磁気結合インダクター」(※4)の工夫により小型化を実現、「高出力VCU一体PCU」を開発することに成功したのである。
パラレル方式もシリーズ方式も併用するホンダの最新ハイブリッドシステム
「クラリティ PHEV」のハイブリッドシステムは、走行用と発電用の2モーター方式を採用している。バッテリーが十分で、モーターの方が効率がいい状況では、EVのようにモーターのみで走行。しかもJC08モードで114.6km、WLTCモードで101.0kmと、EV走行の距離が延ばされており、ハイブリッド車としてクラス屈指のレベルとなっている。そしてバッテリーが少ないときはもちろんだが、エンジンの方が効率がいい高速クルージング時にはエンジン直結で走行する。
エンジンとモーターを併用するときに2モーターが活用される。しかも、状況に応じて2種類のハイブリッド駆動方式が使い分けられる。ひとつはシリーズ型で、エンジンを最も効率のいい回転数で動作させて発電用モーターを回し、その電力で走行用モーターを駆動するというもの。もうひとつはパラレル型で、エンジンでタイヤを直接駆動しつつ、走行用モーターでアシストするのである。
「クラリティ PHEV」は両方を使い分けられるので、シリーズパラレル型もしくはスプリット型に含まれる。
ハイブリッド車というと、アクセルを踏むとすぐにエンジンが作動する仕様になっていることが多い。しかし「クラリティ PHEV」は、外部充電さえ毎日しっかり行っていれば、街乗りだけならエンジンを使わなくても済みそうなほどである。EVに近い性能を有しているのが「クラリティ PHEV」であり、それを実現しているのが「SPORT HYBRID i-MMD Plug-in」なのだ。
ホンダは2030年には、世界で販売するクルマの3分の2を電動化することを目標としている。先のようにも思えるが、2030年まではあと10年強。2020年代はホンダにとっても大きな変革が予感される、そんな展示であった。