救急自動通報システム「D-Call Net」とは。新たにスバル、日産、マツダ車にも搭載。
近年、通信技術の向上により、家電の中にもインターネット端末が搭載され、「モノ」と「インターネット」を繋ぐ技術に注目が集まっている。それは自動車も同様で、「コネクテッドカー」と言われる、インターネット端末を搭載した自動車が登場している。その技術の一つである救急自動通報システム「D-Call Net」について紹介しよう。
認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)と自動車メーカー、サービスプロバイダーからなる「D-Call Net」へ、新たに、スバル、日産、マツダの自動車メーカー3社が3月28日に参画することになった。今後は、全9団体で救命率向上を推進する方針だ。
D-Call Netとは
「D-Call Net」は、一般的にAACN(Advanced Automatic Collision Notification)と呼ばれる、車両のコネクテッド技術を活用した救急自動通報システムの中でも、特に先進的なシステムのこと。従来の救急自動通報システムはACN(Automatic Collision Notification)と呼ばれ、事故時の自動通報のみ可能であったが、AACNは下図のように事故状況のデータを同時に送信できる。
では「D-Call Net」の仕組みを具体的にみていこう。同システムを搭載した車両が交通事故を引き起こすと、衝突速度などの事故データが発信される。そのデータを受け取った「D-Call Netサーバー」は、過去の国内事故データ約280万件を統計処理したアルゴリズムに基づいて事故データを自動で分析。その事故による死亡重傷確率が推定される。その推定された情報を全国約730か所の全消防本部と37道県・46機・54病院の協力病院(2019年3月現在)に通報することで、ドクターヘリやドクターカーの早期出動判断、交通事故での救命率向上を目指すものだ。
ドクターヘリ基地病院に自動送信される様子を、上画面で説明しよう。事故の位置情報、事故発生からの経過時間、死亡・重症率、衝突の方向、衝突時の速度変化を示すデルタV、事故に関する細かな情報が示されている。これにより、命にかかわる事故であるのか、緊急を要する事故なのかを判断することが可能となる。
治療開始までの時間を17分短縮!
次に上図を見てみよう。同システムを導入前は、事故が発生してから治療開始まで約38分を要している。導入後を見てみると、治療開始までは約21分と、導入前に比べて17分短縮されていることがわかる。同システムにより、消防署が事故を覚知(※)するのとドクターヘリの要請がほぼシームレスになっているのだ。
HEM-Net理事長の篠田伸夫氏は「交通事故重症者の救急医療は、必要な医療をどれだけ早く実施するかがカギ。まさにこうした領域にこそ、コネクテッド技術のような先端技術が活用されるべきだ。救命率の向上を推進し、交通事故のない社会の実現に寄与していきたい」とコメントしている。
同システムは、2011年よりデータ集積とアルゴリズム設計を開始、2015年11月からの試験運用を経て、2018年6月から本格運用を開始している。たった17分の短縮と思うかもしれないが、死亡率と時間の経過を表す「カーラー曲線」によると、心臓が停止してから3分が経過したとき、呼吸が停止してから10分が経過したとき、多量出血してから30分が経過したとき、それぞれ死亡率が50%になるとされ、それまでに救命措置をすれば助かる確率は格段に上がる。この17分は大きな進歩なのだ。
もし、同システムが全ての車両に搭載されると、年間282人の事故死者を減少できるという。ちなみに、2018年の全国の交通事故死者数は3532人。2017年の3694人と比較すると162人の減少だ。1年で162人しか減少できなかった事故死者数を、さらに282人減少できるとは、驚きの効果である。今後の搭載車拡大に期待したい。