EV火災が恐ろしい理由。最新消火システムで日本もEVシフトに備えよ!
クルマの火災において、ガソリン車とEVでは火災の性質が全く異なることをご存じだろうか? 6月に開催された東京国際消防防災展では、EV火災を何度も経験している海外から、消火活動の大変さと課題解決手段が製品として提案されていたので紹介しよう。
消火した5日後に再発火!? EV火災のおそろしさ
リチウムイオン電池を搭載しているBEVやPHEVなどは、事故などで損傷するとショートを起こして発熱する。さらに、熱は他のバッテリーにも次々と伝わり、発熱が連鎖する”熱暴走”状態になる。熱暴走が始まると、火が消えていても自己発熱が続き、やがて発火してしまう。これが理由で、EV火災の消火には大量の水で長時間の放水を要することが問題となっている。
米国運輸安全委員会(NTSB)では、世界で起きたEV火災の消火活動を報告書にまとめている。例えば2017年8月に米国カリフォルニア州でSUVが衝突事故を起こし火災が発生した際には、約50分で消火したものの、1時間後に再発火したという記録がある。しかも、その後消火するも、さらに45分後に再々発火し、合計で約7万6000リットルもの水を使用したという。通常の自動車火災では数千リットルの放水で消火されることもあるので、この数字が如何に大きなものであるか想像できるだろう。
また、2018年3月に同じくカリフォルニア州で起こったSUVの衝突事故では、事故発生から数分後に消火できたものの、メーカーのサポートの到着を待つため、高速道路を6時間近く閉鎖。しかも、事故発生から約7時間後と5日後にも再発火が確認されている。
EV火災での再発火に悩まされた事例は多いが、2019年3月にオランダで展示中の車両が燃える事故があった際は、水が入った大型の水槽にクルマを24時間水没させることで再発火を防いでいる。
一般的な火災であれば酸素供給を断つことが有効とされているが、リチウムイオン電池の場合はそれが通用しない。リチウムイオン電池は発熱すると、電極の活物質が熱分解して自ら酸素を放出するからだ。おまけにバッテリーは車両の下部に配置されているため、放水しても正確に消火・冷却することが困難だ。このことからも、EV火災において現時点で確実に消火できる方法は「クルマを丸ごと水槽に沈める」という結論に至っている。
クルマを最小限の水で水没させる!
いつまた燃え上がるか分からないクルマをどう隔離するかという課題について、ドイツのVetter(フェッター)社が出した一つの解がEV消火システム「EIS」の使用だ。
EISでは、一度消火したクルマを耐熱性の生地で包み、中を水で満たしてクルマを水没させることで、再発火の危険性を限りになく取り除く”包囲冠水隔離”を最小限の器具で実現することができる。
EISでの包囲冠水隔離のメリットは、使用する水の量は最低限まで抑えられることと、被災車両を隔離したまま保管場所まで運搬できるため、火災現場の通行止め時間も大幅に短縮させられることにある。
火災発生からEISを用いた現場の安全確保までの手順は次のようなイメージだ。
1.初期消火はこれまでのやり方と同様に行う。
2.消火後、車体をジャッキアップしてEISを素早く装着させる。
3.EIS装着後、基準の高さまで注水を行う。
4.クレーンで吊り上げて搬送を行う。
このEISは、消防車や消防用設備の製造・販売を行う帝国繊維(テイセン)が取扱いを開始しており、今回の東京国際消防防災展に最新のEV火災用消防器具として出展している。日本でもEV火災の際には活躍してくれることだろう。
改めて注意したいのは、ガソリン車とEVの火災はどちらが大変なのか、という話では決してないということだ。流出したガソリンに引火すればあっという間に燃え広がるし、恐ろしい爆発を招くこともある。EV火災は消火しても熱暴走を起こすという、性質の違いがあるだけで、どちらの消火活動も大変なことに変わりはない。
世界中のEVシフトが進むことで、日本でもEVの火災事故は増えるだろう。EV火災の消火手段はどこまで進化していくのか、日本ではどのような対策が主流となるのか、しっかりと見ていきたい。
記事の画像ギャラリーを見る