メルセデス・ベンツが3Dプリンターで旧車パーツの提供開始
メルセデス・ベンツは11月20日、3Dプリンターで製造した クラシックカー用スペアパーツの提供を開始した。
近年、目覚ましい進化を続ける3Dプリンター。図面なしにCGやCADなど3次元データから直接立体造形を作り出すことができる機械として、デスクトップサイズの個人向けから大型産業用まで多様な機種が開発されている。最近、ドイツの学生がフォーミュラカーを3Dプリンターで制作し話題にもなった。
これまでは液体樹脂を使ったものが多かったが、近年は金属を材料として使用するメタル3Dプリンターが産業界の大きなトレンドだ。(関連記事:3Dプリンターは、樹脂から金属へ!)
メルセデス・ベンツでは30年前からこの研究をスタート。2016年には、3Dプリンターで製造した同社初のスペアパーツとして、トラック部門への供給を開始していたが、今回、クラシックカー用スペアパーツがそのラインナップに加わった。
用意されたのは、300SLクーペ(W198)用のインナーミラーの台座とスパークプラグホルダー。それにW110、W111、W112、W123用のスライディングサンルーフローラー(サンルーフを動かすためのアタッチメント)だ。
同社のメタル3Dプリンターは、SLS(Selective Laser Melting)方式と呼ばれるもので、敷き詰められた金属粉材料にレーザービームを照射し、溶融・凝固を繰り返すことで造形。使用できる金属は、鉄やステンレスといった鉄鋼系から、アルミニウム系、チタン系、銅系などと幅広い。
造形終了後、固化していない金属の粉末を取り除くと、3Dプリンターで製造したパーツが姿を現す。
300SLクーペのためにリビルドされたインナーミラーはアルミ製で、造形後、表面にはクロムメッキ処理が施されている。ユニークなのはそれが完全なオリジナルのコピーではない点だ。全長は42.5mm長くなり、その理由を、安全性上、良好な後方視界を得るため、とメルセデスは説明する。
「プリントされた全ての交換部品は、メルセデス・ベンツブランドの高品質基準を満たし、すべての点においてオリジナルパーツと遜色ありません。『Future meets Classic』、つまり最先端のデジタルプロダクションテクノロジーが、ブランドの伝統を補完してくれるのです」と同社。今後こうしたスペアパーツの供給は、さらに拡大していくと思われる。近い将来、メーカーにパーツを取り寄せるのではなくデータを取り寄せその場でプリント、なんていう話もあり得ない話でない。
ところで、3Dプリンターによるパーツ提供がクラシックカーや希少モデルのオーナーにとって朗報となる一方、いま最も熱い視線を浴びるのが航空・宇宙産業での活用だ。NASAは2023年までに宇宙船「オリオン」による、月軌道への有人ミッションを予定し、従来の製造手法では実現できなかったより複雑で耐久性の高いパーツ作りの研究を進めている。その船には、3Dプリンターで作られた100以上のパーツが使用されるのだとか。3Dプリンターによる新たなものづくり革命は、まだ序章に過ぎないようだ。