アウディの歴史を体感する「アウディ・ミュージアム」は、エポックメイキングな旧車天国だ!
(c) AUDI AG
南ドイツ・ミュンヘン市から電車で北へ45分ほどのインゴルシュタット市にアウディ本社 Audi Forum Ingolstadt はある。入口の右側に立つガラスを多用した円柱の建物が、1899年アウグスト・ホルヒによって創立されたアウディの歴史を体感できるアウディ・ミュージアム Audi Museum Mobile だ。
ホスピタリティーのひとつがミュージアム
ポルシェ・ミュージアム、フォルクスワーゲンのアウトシュタット、BMWミュージアム‥‥。ドイツの主な自動車メーカーは本社の敷地内に自動車ミュージアムを有している。
ドイツでは新車を購入すると、ディーラーで受け取るか、メーカーの本社に直接ピックアップに行くことができる。ドイツのメーカーの本社が、新車の受け渡しが行われるデリバリーセンターの他に、ミュージアム、レストラン、ショップ、工場見学といったビジター向けのサービスを提供しているのは、マイカーを手にするという晴れの日を、ミュージアムや工場見学、おいしい食事などで素敵に彩ってあげたいというメーカーからのホスピタリティの表れなのである。
4階に渡る巨大な自動車の観覧車は見もののひとつだ (c)AUDI AG
アウディ・ミュージアムに足を踏み入れてまず目を引くのは、4階までの吹き抜けに立つ巨大な自動車観覧車である。アウディの歴代車を乗せたこの観覧車は、特別展のテーマごとに展示車が変えられ、まるでアウディの歴史を誇るかのように優雅に周回を続けている。
全4階建てのミュージアムは、1階が映画館、2階がミュージアムショップと特別展示、3階と4階が常設展示のための空間となっている。
2000年にドイツの建築家グループ『HENN』によって設計された円柱の建築は、それぞれの階層が4つのリングからなるアウディのエンブレムを象徴する。車輪でもあるミュージアムのフォルムは、円に沿ってビジターが展示空間を移動し、パーティションが円を描いて移動するなど、前進するアウディの移動性を表現する。
ミュージアムのアーカイブを担当するコーバー氏のセレクトによる、アウディ史を飾ったエポックメーキングな名車の一部を紹介したい。
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アウディを世に知らしめた「アルプスの覇者」
Audi 14/35 PS Typ C Limousine, 1913
アウディTyp C リムジンの形状は、馬車の影響を留めている。(c) AUDI AG
自動車の黎明期に先駆的役割を果たしたエンジニア、アウグスト・ホルヒは、ベンツ社で自動車生産部門の責任者を務めた後、1899年に独立し会社を創立する。これがアウディの始まりである。
アウディTyp Cはアウグスト・ホルヒによって3番目に設計されたモデルであり、1911年~14年にかけてアルプスを舞台にした山岳レース「オーストリア アルペンラン」で優勝することで、わずか数年にしてアウディ・ブランドを国際的に知らしめた。「アルプスの覇者」というニックネームを得たこのモデルは、当時最も成功を収めた車種であり、アウディ史にとって欠かせない1台である。
アウトバーンで400km/h超を記録したストリームライナー
Auto Union 16-Zylinder Stromlinien-Rennwagen Typ C, 1937
(c) AUDI AG
アウトウニオンのレーシングカーは1933年~39年までレースのみを目的として製造された車両で、アウグスト・ホルヒの製造工場に設置されたレース専用部署で開発・製造された。
このタイプC・ストリームライナーは、1937年ベルリンのサーキット『アヴス』でレーサーのベルント・ローゼマイヤーにより380km/hを記録。同年フランクフルト~ダルムシュタット間の直線アウトバーンで400km/hを超える世界速度記録を達成した伝説のモデルだ。
アウディ・ミュージアムに展示されているストリームライナーは、2000年にレプリカとして製造されたもので、世界各国のイベントにも借り出される。
Auto Union 16-Zylinder Bergrennwagen Typ C/D, 1939
(c) AUDI AG
1938年、国際グランプリは3リッターの最大排気量規定を設けた。それに応じて、アウトウニオンは12気筒エンジンを搭載したレーシングカーD型を発表した。 山岳ラリーでは規定は設けられなかったため、タイプDとタイプCの16気筒エンジンの組み合わせとして、新しいマウンテンレーシングカーが並行して製造された。
このタイプC/Dは、現存するオリジナルのレーシングカーとしては非常にレアなアイテムだ。戦後の賠償としてソ連に没収されたままになっていたが、ソ連崩壊後さまざまな経緯を経て本拠地であるアウディの元に里帰りを果たした。
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4つのリングの意味は?
DKW F 89 L Schnellaster, 1949
(c) AUDI AG
DKW F89 Lは、1949年に現在のアウディ本社の所在地であるインゴルシュタットの工場で初めて生産された、688ccのエンジンと3速ギアボックスを備えた前輪駆動車。フロントのシェープが愛らしいバンは、販売用、救急車、動物の運搬などに使用された。インゴルシュタットの工場ではこの人気モデルが1日300台生産され、今日のアウディの本社工場の礎を築いたと言われている。
DKW Meisterklasse F 89 P Limousine, 1951
(c) AUDI AG
アウディ・エンブレムの成り立ち
4つのリングを重ねたアウディのエンブレムは、1932年に4つのドイツの自動車メーカー(アウディ、DKW、ホルヒ、ヴァンダラー)が融合してひとつの会社ができたことを表す。1969年にはさらにアウトウニオンとNSUが合併して今日のアウディAGに繋がるが、アウディの歴代のクルマがさまざまな名前を持っているのはこうした背景による。
DKWはオートバイとバンなどの商用車を専門にしていたが、最初の乗用車であるF89を1950年に発表。DKW F 89 Pは流線型の調和のとれたボディを持ち、60年代の初めまでDKWデザインの外観を形作った。 ドイツ人の支持を得たこの車種はその後、セダン、4人乗りまたは2人乗りのコンバーチブル、クーペなどさまざまなバリエーションが発表された。
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戦後のアウディの躍進
Audi 100, 1970~
写真はAudi 100 Limousine (c) AUDI AG
初代Audi 100 (C1モデル)の開発には劇的なドラマがあった。1966年アウトウニオンは、フォルクスワーゲンAGの一子会社になり、独自に新型車を開発することを禁じられる。しかし、当時、開発総責任者だったルードヴィヒ・クラウスはそれを受け入れず、新型車Audi 100の開発を秘密裏に進めた。最終的にフォルクスワーゲン首脳の正式な承認を得て1970年の発売にこぎつけた初代Audi 100 は、多くの顧客を惹きつけた。Audi100は、1969年から1976年のあいだ約80万台が生産されるというヒットモデルになったのであるが、この業績がクラウスの判断が正しかったことを表している。
70年代の広告から。ミュージアムではAudi 100の特別展が行われたこともある (c) AUDI AG
Audi quattro, 1980
(c) AUDI AG
4WDのイメージを一新したアウディ史の一章を飾る画期的なモデル。アウディ・クワトロは、1980年3月のジュネーブ モーターショーで発表された。フルタイム式4WDシステムによるトラクションと、マニュアル操作でロック可能な2つの機能により、滑りやすい路面上でも性能を発揮することに成功した。アウディはこのモデルで、翌1981年から世界ラリー選手権(WRC)に挑戦し、1986年までに23度の勝利と、4つのワールドチャンピオンタイトル獲得という偉業を達成した。
クワトロのラリー用モデル (c) AUDI AG
Audi TT, 1998~
(c) AUDI AG
アルミ製のクールな質感を前面に押し出したアウディTTはその後のアウディのデザインの方向性だけでなく、他社のデザインにも影響を与えた。1998年に発表された初代TTは、1995年のスタディモデルがほぼそのままの形で市販化されているが、ミュージアムではそのスタディモデルを実際に目にすることができる。
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ミュージアム情報
Audi Museum Mobile (アウディ・ミュージアム)
【住所】
Audi Forum Ingolstadt(アウディ本社)
Ettinger Str.
85057 Ingolstadt
【開館時間】
月~金:9:00~18:00、土日祝:10:00~16:00
【アクセス】
公共交通:ミュンヘン中央駅から電車(ICE)でインゴルシュタット中央駅まで約35分。インゴルシュタット中央駅からバス11番またはタクシー(約5km)でAudi Forum Ingolstadtへ。
車:アウトバーンA9でミュンヘンから Nürnberg方向に。Lentingで下車。その後「Audi」の案内標識に従ってAudi Forum Ingolstadtまで
【入館料金(ガイドツアーなし)】
大人:2ユーロ(約260円)、学生(18歳まで)と定年退職者:1ユーロ、子供:無料
【HP】https://www.audi.com/foren/en/audi-forum-ingolstadt/audi-museum-mobile.html
【電話番号】
0800 – 2 83 44 44(ドイツ国内から)
+49 (0)841 – 8 93 75 75(海外から)