EVは本当に環境にやさしい? 独ADACが総CO2量を試算
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今年2月、ドイツでは環境保護のため、各都市においてディーゼル車の走行を禁止できる判決が下された。これにより将来のクルマは、排ガス対策の難しいディーゼル車からEV(電気自動車)へと変化していくと見られている。
(詳しい記事はこちら「ドイツで都市ごとのディーゼル走行禁止が可能に。EVシフトにさらなる追い風か?」)
こういった流れの中、ADAC(ドイツ自動車連盟)が「EVは本当に環境にやさしい?」という記事を発表した。同記事では、地球温暖化の原因であるCO2(二酸化炭素)の排出量を、ガソリン車、ディーゼル車、PHV(プラグインハイブリッド)、EVなど燃料の異なる車種ごとに割り出している。
製造から処理まで、クルマ1台が排出する総CO2量を測定
この調査結果が興味深いのは、クルマの「走行」時に排出するCO2だけでなく、クルマの製造から処理(リサイクル)まで、また燃料の製造から使用時まで、1台のクルマが排出する総CO2量を導き出している点である。 以下、ADACから許可を得て翻訳した記事の一部を紹介しよう。
EVは本当に環境にやさしい?
1台のクルマの総CO2排出量
一般的に環境保護にとってEVは希望の星だといわれる。本当にそうだろうか?
ADACは今回初めて、1台のクルマの「製造/リサイクル」から「走行」「整備」「処理」まで、それぞれの過程において排出される総CO2の値を算出した。
2015年のパリ協定において、ドイツ政府はCO2排出量を2025年までに、80~95%削減する目標を掲げた。そのためにはガソリン、ディーゼルなど内燃エネルギー車から温室効果を増長しない再生可能エネルギー(太陽光や風力など自然界にあるエネルギー)を動力とするクルマに転換していく。この目標に向けてドイツの自動車メーカーは、EVの生産を推し進めてきた。
クルマ1台の寿命を走行距離15万kmと想定し計算
しかし、EVは本当に環境にやさしいクルマなのだろうか? EVの車体やバッテリーの製造、走行に必要な電気の発電においてもCO2は同じように排出される。いったいその量はどのくらいなのだろうか? そして内燃エンジン車と比べるとどうなのだろうか? これについての統計は存在しない。よってADACはハイデルベルク・エネルギー&環境研究所とともに、データを収集し分析を行った。条件として、クルマ1台の寿命を走行15万kmと想定し、次の3つの項目でのCO2排出量を計算した。
1.自動車の「製造」と「リサイクル」におけるCO2排出量
2.自動車で使う「燃料の製造」と「電気の製造」におけるCO2排出量
3.自動車の「運転」におけるCO2排出量(ADACが独自で行った自動車テストの数値を使用)
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大型車~小型車における総CO2排出量は?
以下の図はADACによって算出された、大型車、中型車、小型車の総CO2排出量である(翻訳は下に)。
(c) Quelle: ADAC
見やすいよう、大型車、中型車、小型車に分けて翻訳する。
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大型車においては、ディーゼル車が最も環境にやさしいという結果が出ている。EVの場合、100%再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など)によって作られた電気の場合のみCO2の排出はぐっと低くなる。
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中型車においては、EVが最もCO2の排出量が少ない。PHVも同じく環境に優しい値が出ている。
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小型車においても、EVが最もCO2の排出量が低い。5万キロ走行は、セカンドカーあるいは都市で使用するクルマと想定した場合の値であるが、この場合EVはガソリン車やディーゼル車と比べて最もCO2の排出量が多くなる。
EVのCO2量は電気がどうやって作られたかが決め手
EVの場合、走行中に排ガスは発生しないので、バッテリーと電気の製造時に発生するCO2の排出量の決め手になる。バッテリーの使用量が多くなる大型車ほどCO2の排出量は多い。EVの排ガス値が低いのは中型車以下の車両においてであり、最もその能力を発揮するのはEVが100%再生可能エネルギーを使って走る場合である。現在ドイツでは、約70%の電気が火力発電と原子力発電によって作られている。ドイツでEVが本当の意味で環境にやさしいクルマとなるためには、太陽光や風力など再生可能エネルギーの分野の開発が必要である。
上述したように、EVが環境にやさしいかどうかは、電気がどの燃料によって作られているかが大きい。そこでドイツの発電所の割合について次のページで紹介する。
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ドイツでは電気は何によって作られているか?
以下の図表はドイツの電気がどういった燃料によって作られているか、発電所の割合を示したものである。
(c) Quelle: ADAC
以下が翻訳である。
(c) Quelle: ADAC
石油、石炭、褐炭、天然ガスを使った火力発電は多くのCO2を排出する。再生可能エネルギーを使っての電力供給は全体の23%であるが、このデータは環境省が2013年に出したものであり、2017年では33.2%であると推定値が出ている。また、環境省はこの値を2025年までに、40~45%に引き上げる目標を掲げている。
空はゴミ捨て場ではない
二酸化炭素(CO2)は、それ自体は危険な物質ではないが、量によっては人に害を及ぼす。CO2が起こす温室効果とは、太陽光によって地球に注がれた熱を宇宙に戻さず大気圏に留まらせる。適度のCO2は人間の生存に必要不可欠であり、さもないと地球は冷却してしまう。
しかし、私たちは必要以上のCO2を排出し、空(大気圏)をゴミ箱にしてしまっている。CO2は大気圏に長く存続するため、その量は増加を続け2013年には400ppmを超過している。これは人類の歴史でいまだかつてない数値であり、地球の平均気温は産業革命以前に比べ約1度上昇した。このままCO2が増え続ければ、2100年にはさらに3~4度の平均気温の上昇が見込まれており、海面水位の上昇や農作物の不況らの危険性をはらんでいる。この事態を逃れるために、私たちにはCO2の排出量をすぐにでも減少させる必要がある。
以上がADACの記事である。EVといえども、何で発電するかによってCO2排出量が大きく変わってくることが分かる。ドイツの火力発電は、多くが石炭を燃料にしているためEVに不利になりやすいことは以前から指摘されていた。一方、同国は、風力、太陽光といった再生可能エネルギーでの発電で世界をリードする環境先進国でもある。これら再生可能エネルギーで作った電力をクルマで利用するには、クルマは当然EVである必要がある。その点から考えると、まだまだ発展途上とはいえ、ドイツにおいても将来のクルマがEVへ向かうことは間違いないだろう。
また、ドイツの電気使用について補足すれば、ドイツでは住居で使用する電気を選ぶことができる。住居で再生可能エネルギーによって作られた電気を使いたい場合は、そのような電気を供給する電気会社がドイツにはあり、契約すれば使用することができる。それ以外の電気会社を選んだ場合は、さまざまな燃料で発電された電気を使用するが、これを「ミックス電気」と呼ぶ。記者がドイツで契約していた1990年~2010年の期間は、再生可能エネルギーによる電気はミックス電気よりも料金がいくぶん割高だったが、環境問題に意識的な人はこちらを選ぶ傾向にあった。
2018年4月18日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)