高速道路には専用フォントがある!?「公団文字」は見やすければ誤字もOKって本当?
高速道路の案内標識には、オリジナルフォントとして「公団文字」あるいは「公団ゴシック」というものが存在する。案内標識を見るたび「高速道路を走行している」と実感させられる独創性の高い書体であったが、実はいま、その姿を消しつつある。消え去る前に公団文字を解説したい。
公団文字はこうして誕生した
見慣れた高速道路の案内標識に使用される独特なフォント。正式には「和文用公団文字」と呼ばれるもので、一般的には「公団文字」や「公団ゴシック」として知られている。高速道路の管理者が現在のNEXCO各社ではなく、日本道路公団だった頃に生み出された書体だ。
高度経済成長期の1960年代初頭。東京オリンピックの開催を間近に控え、首都高速や名神高速道路の早期開通を目指すなど、高速道路の整備も急ピッチで進められていた。
このような状況のなかで、新しくできた高速道路に案内標識を設置していくわけだが、日本道路公団の前に問題が立ちはだかる。案内標識に使用する書体をどうするかだ。当時は現在のように多種多様な市販のフォントは販売されていなかったこともあり、高速道路の案内標識用に1字1字デザインせざるを得なかったという。
日本道路公団は、高速道路専用の書体をつくるにあたり、高速で移動する車内からでもきちんと認識できるようにと、画数の多い漢字を簡略化するなどした独自のフォントを開発。こうして「和文用公団文字」として公団文字は誕生した。
日本で最初に開通した高速道路「名神高速道路」で公団文字の案内標識を設置してから半世紀近くにわたり、全国各地の高速道路で使用され続けている。いまとなっては見慣れた案内標識だが、全国に道路網が整備される高度成長期において、案内標識の視認性を高めようとした関係者たちの努力があったことも、ぜひ覚えておいてもらいたい。
高速道路に適応させた公団文字の特徴
公団文字は時速100km前後で走行している車両の運転席や助手席からでも、案内標識の文字を瞬時に認識できなければならないことから、見慣れているゴシック体のフォントとは明らかに違うものになっている。
その特徴は、以下の4点である。公団文字とゴシック体を比較しながら説明していこう。
(1) 1字1字必要に応じて製作されてきたオリジナルフォント
東京の京は、東の日と京の口の天地を揃えたデザインにしているため、第三京浜、京都などの京よりも口の縦幅が大きい「東京専用の京」となっている。同じ文字でも複数のデザインが存在するのだ。
(2) 字の画を直線的に造形
通常のゴシックでは曲線の箇所も、公団文字では視認性を重視して直線にできる箇所は直線にしている。
(3) 画やハネなどを独自の判断で省略
公団文字のわかりやすい特徴といえば、やはり画やハネなどを独自の判断で省略しているところではないだろうか。鶴見の「鶴」も鳥のれっか(よつてん)をひとつの曲線に省略している。
以下の豊田の「豊」も京都の「都」も、誤字ともいえる省略をしていることがわかる。
(4)多くの字が基準枠全体を使うよう作字
公団文字の大部分が図のように基準枠の全体を使うよう作字している。一般的に、文字の中の空洞「ふところ」が広ければ広いほど視認性も高まる。
“絶滅”も時間の問題……消えゆく公団文字
視認性を最優先した公団文字は、長きにわたりたくさんのドライバーの行く先を案内してきた。しかし、公団文字の“絶滅”も時間の問題である。新設される案内標識は公団文字でなく「ヒラギノ」フォントに書き換えられ、徐々にその数を減らしつつあるのだ。
NEXCO各社は、公団文字を廃止する理由について、「高速道路上での視認性を最優先にしたことで、正字とは言い難い文字(誤字)が続出してしまったこと」「長年にわたり多くの人の手で制作されたことで文字ごとの筆致がばらつき、フォント全体の統一感に欠けること」「すべての文字を基準枠の限界にデザインしたため、隣り合う文字の組み合わせによっては、ひとつの文字だけ大きく見えること」などを挙げている。
そのうえで、現代ではデジタルフォントの選択肢も格段に増えていることから、視認性にも優れたフォントに変更するとして、2010年7月より、新設する案内標識や更新する案内標識をヒラギノゴシックで作成することに決定。この13年間で置き換えが進んでいる。
とはいえ、フォントを変更するためだけに、一斉に撤去・新設しているわけではないため、内容を更新する必要もなく、破損や劣化を免れている案内標識には、引き続き公団文字が使用されている。公団文字をその目に焼き付けておきたい道路愛好家は、今のうちに見ておいてほしい。
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