米国ではじめて性別Xの免許証が! セクシャル・マイノリティは 社会の常識か?
この記事をシェア
© picture alliance / Wolfgang Kumm/dpa
米ワシントンで、男女の性差にとらわれない「ジェンダー ニュートラル」の運転免許証が交付された。
アメリカではじめて性別「X」の運転免許証が
米CNNによると、6月28日、ワシントンのRoad Department of Motor Vehicle office(自動車道路局)は、アメリカ合衆国市民としてはじめてニック・サクライさんに対して、性別欄に男女の代わりに「X」と記載した運転免許証と身分証明書を交付した。
ジェンダーとは、社会的意味合いから見た男女の性区別のことを差し、「トランスジェンダー(性同一性障害)」という、生まれついた性に対して違和感を抱いたり、Xジェンダーという「中性」の性同一性を持つ人もいる。
今回のニック・サクライさんのケースは、アメリカが公的な証明書において男性「M」でも、女性「F」でもない、第三の性の存在「X」を認めたことになる。
サクライさんは、「わたしは社会から見た性(男性や女性)が、本来の性であるとは感じていません。本来のわたしの性と同じID(身分証明書)を持つことが認められて嬉しいです。」とコメントを発表。Facebookを通して多くの人々に、この歴史的な日を一緒にお祝いするように呼びかけた。
性別Xの免許証を得た喜びを表明するニック・サクライさん。© Sam Sweeney ABC
LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字を取ったセクシャル・マイノリティを表す総称である。CNNによれば、米LGBT代表者はXの表記により、身体的な外観が身分証明書の性別と一致しない場合の嫌がらせや差別を軽減できると述べている。
ワシントンは今回の証明書の公布は、数か月前から性同一障害者の権利を守る対策を行ってきた結果であり、ムリエル・バウザー市長は、「全てのワシントン市民の安全と権利を守ることが、私の最優先事項であり、そのためにワシントンの条例を改正するべきならば、わたしはそれを行います。」と発表したそうだ。
同じような事例は、カナダ、インド、バングラデッシュ、オーストラリア、ニュージーランド、ネパールでも行われていることをCNNは伝えている。
ドイツでは同性婚が合法化
セクシャル・マイノリティが権利を得た例として、ドイツでは6月30日、全ての人に婚姻の権利を与える法律がドイツ連邦議会で可決された。これによって男女間だけでなく、同性間でも婚姻が可能になった。
可決直後にクラッカーでお祝いする国会議員。© picture alliance / Wolfgang Kumm/dpa
ドイツ政府は、2001年から同性パートナーシップ制度を導入しているが、パートナーシップ制度は平等な結婚には相当しない。近年ヨーロッパでは同性婚の合法化が進んでおり、フィンランドやスロベニアでも合法化されている。
教会で結婚式を挙げる同性カップルのスベン・クレッチュマーさんとティム・シュミット=クレッチュマーさん。© picture alliance / dpa Photographer: Wolfram Kastl
セクシャル・マイノリティーの権利を保護する日本企業の「働き方改革」
日本におけるセクシャル・マイノリティに対する動きかけとしては、経団連が5月、日本企業の15%にあたる233社に行った調査によると、LGBTの人たちが働きやすくするための取り込みを行っている大手企業は、全体の約4割に上るとの結果を発表した。
セクシャル・マイノリティが働きやすくするための取り組みを行っているか
◆実施している・・・42.1%
◆検討中・・・34.3%
◆予定なし・・・23.2%
実施していると答えた企業の取り組み
◆LGBTへの理解を深める社内セミナーなどの開催・・・91.8%
◆相談窓口の設置・・・82.8%
◆性別を問わないトイレなど職場環境の整備・・・52.2%
◆結婚休暇や配偶者手当を同性のパートナーにも認めるなど人事制度の制定・・・32.8%
具体的な取り組み内容を見てみると、大手化粧品メーカー資生堂は、6年前から企業理念に性的指向による差別やパワーハラスメントを行わないことを明記し、LGBTの人たちを差別しない姿勢を明確に打ち出している。パナソニックやソニー、野村ホールディングスなどの企業は、同性のパートナーも結婚に相当する関係として認めるなど、制度を見直す動きが相次いでいることが明らかになった。
オリンピック対策がその背景に?
働き方改革が行われ、またグローバル化が進む中、多様な人材の受け入れは、優秀な人材を確保したり成長性を高めたりするための課題となっており、職場環境や制度の整備を広く呼びかけていく傾向が日本の企業にも見受けられる。
しかし、こういった日本企業のセクシャル・マイノリティへの取り組みについて、ドイツの国営テレビ局ZDFは、2020年開催予定の東京オリンピックの影響が大きいとリポートしている。
オリンピック憲章では、人種や肌の色等とならんで性別や性的指向による差別の禁止が明記されている。差別をしていると見なされた企業は、物品やサービスの調達を行う対象から外されることが日本企業のセクシャル・マイノリティ対策の大きなきっかけになっていると指摘しており、日本の企業は欧米に比べ、女性や(性的)マイノリティが働きにくい環境であり、依然としてヘテロセクシャリティ(男性優位)の傾向が強いこと。また、米アップル社CEOティモシー・クック氏のようにゲイであると公言する企業の重役は皆無である、という批判的な見方をしている。
アップル社CEOクック氏。© Spicture alliance / dpa Photographer: Tobias Hase
株式会社電通の「電通ダイバーシティラボ」の調査によると、LGBTは日本人の約7.6%を占め、これは左利きの人や、血液型がAB型の人、日本の全人口に占める神奈川県民の割合とほぼ同じである。
経団連は、それだけLGBTが存在するのであるから、企業が活動するうえでその存在を認識することは重要である。LGBTは当事者が自らカミングアウトしなければ周囲から認識されない。見えないマイノリティを「身近な存在」として周囲が進んで理解するとともに、多様性を社会が受容していく必要があるとコメントしている。
LGBTのシンボルであるレインボーは多様性と寛容性を意味しているという。© picture alliance / dpa Photographer: Britta Pedersen
2017年7月13日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)