横断歩道で9割の車が 止まらない日本。 必ず止まるドイツとは何が違う?
信号なし横断歩道を渡るドイツの小学生児童。© picture-alliance/ dpa
交通安全には、交通ルールを守るということが基本であるが、それに加えて「思いやりのある行為」もまた大切ではないだろうか。
交通事故は、思いやりのない2者が出会ったときに発生しやすいといわれる。双方でなくてもいい。どちらか一方が思いやりある運転操作をすれば、事故の多くは防げるということである。スピードや効率が求められる現代社会では、ついつい自己優先になりがちだが、一歩引いて相手を尊重すること、人からされて嫌なことは自分もしないことなど、ひとりひとりのちょっとした意識改革が交通事故の減少につながる。
交通社会の思いやりの輪を広げる「思いやりティ」
JAFでは、交通社会において思いやりの輪を広げる「思いやりティ ドライブキャンペーン」を展開し、6月13日の時点で、レーシングドライバー、ジャーナリスト、芸能人など著名人も含め7,519人の賛同者を得ている。
このキャンペーンの第1弾に取り上げたテーマは、「信号機のない横断歩道で、歩行者が渡ろうとしています。ドライバーのあなたは止まりますか?」である。そこで、横断歩道での車のマナーについて、自動車大国といわれるドイツと比較しながら考察してみたい。
9割以上の車が停止しない
昨年JAFが全国94か所で実地調査を行ったところ、歩行者が待つ「信号機のない横断歩道」で一時停止しなかった車の割合は、92.4%にも上ったという。道路交通法では、横断歩道を渡ろうとしている人がいる場合、ドライバーはその手前で止まらなければならないが、そればかりか、止まっている車を追い越して、横断中の歩行者を危険な目にあわせるドライバーさえいるのが現状だという。
ドイツでは?
学校前の横断歩道。横断歩道の交通標識の下に、「交通初心者の新入学生(に注意)」という看板も掲げられている。© picture-alliance/ dpa
ドイツの状況はどうかというと、20年間居住した実感では、信号機のない横断歩道ではほとんどの車が停止して歩行者を横断させてくれる。理由としては、道路交通法で規定されており、守らなかった場合は違反点数ならびに罰金80~120ユーロ(約9,900~15,000円、6月13日時点の換算)が厳しく科せられていることにあると思われる。
もう1つの理由として、社会での交通ルールの認識の高さが挙げられるのではないだろうか。「横断歩道では、歩行者に絶対的に優先権がある」というルールは、歩行者にも運転者にもよく知られた基本的なことであり、信号機のない横断歩道で停止しなかった車のナンバーを警察に通報する歩行者もいるほどだ。
学校が始まる前に、一緒に通学路を歩きながら交通安全教育をする母親。ドイツでは交通安全教育は家庭と学校で行われている。© picture-alliance/ dpa
日本での信号機のない横断歩道での交通ルールは、道路交通法第38条第六節の二「横断歩行者等の保護のための通行方法」で、「横断しようとしている、あるいは横断中の歩行者や自転車がいるときは必ず一時停止をする」と定められており、ドライバーは横断歩道の直前でクルマを一時停止させ、歩行者や自転車の通行を妨げないよう義務付けられ、違反者には違反点数(2点)や反則金(車両の大きさにより7,000~12,000円)が科せられる。つまりドイツと同じなのであるが、日本ではこのルールに対するドライバーの認識がなぜか非常に甘いようで、規則はあっても守られていないことが大きな原因といえる。
さらに規則に加えて、弱者である歩行者を守ろうという思いやりも大切だ。極端な話、規則がなくても、弱者への思いやりを持てるドライバーであれば、必ず止まろうと思うはずだ。JAFが進める「思いやりティドライブ」は、思いやりの力で、交通事故を円満に解決する手段であるといえよう。
次回は「思いやり」という概念がドイツでどう認識され、具体的に運転時にどのような対策が取られているかを紹介してみたい。
2017年6月15日(JAFメディアワークス IT Media部 荒井 剛)