スパコン「京」+フェイズドアレイレーダーでゲリラ豪雨予測
画像1。局地的に短時間に一気に多量の雨が降るゲリラ豪雨は、ヒートアイランド現象などが原因とされている。
近年、局地的に短時間で大雨をもたらす「ゲリラ豪雨」が増えている。人命を奪うような事故も起きており、問題になっているのは多くの方がご存じのことだろう。
予測できれば被害を最小限に抑えられるわけだが、これが難しい。気象衛星も高性能化し、コンピューターの性能も発達していて天気予報の精度も上がっているのだから予測できそうな気がするが、ゲリラ豪雨はそれをも上回る強敵なのである。
現在の天気予測手法ではゲリラ豪雨に対応しきれない!
例えば、気象庁で運用されている局地モデルの場合、全国を対象に縦横2kmずつのグリッドでエリアを区切って1時間ごとに新しい観測データを取り込んで更新している。日本は国土が狭いとはいっても、南北に約3000kmもあるわけで、これでも十分すごいことをしているのだが、ゲリラ豪雨はこの精度では間に合わない。
ゲリラ豪雨は降る場所が非常に局地的な上に、しかも数分の間に豪雨を降らす積乱雲が発生・発達するので、解像度2kmで1時間ごとの更新では、下手したら降ったことさえ把握できない可能性すらあるのだ。
スパコン「京」と「フェーズドアレイ気象レーダー」で予測!
そこで理化学研究所(理研)と情報通信研究機構(NICT)、大阪大学(阪大)の共同研究グループは、2016年6月現在は世界第5位の実力を持つ理研のスーパーコンピューター「京」と、NICTと阪大が2012年に共同開発した、最新鋭の「フェーズドアレイ気象レーダー」(画像2)を組み合わせた、「ゲリラ豪雨予測手法」を開発。8月9日に発表を行った。
阪大に設置されているフェーズドアレイ気象レーダーは解像度100mという細かさで、半径60kmのエリアに対して10~30秒間隔で3次元降水分布を観測することが可能。従来のレーダーとは比較にならない圧倒的な性能を持つ。
今回は30秒間隔でデータを取り込んでいるが、それでも天気予測シミュレーションとしては従来のものより空間的にも時間的にも、まさに桁違いといえる性能である。ゲリラ豪雨の動きを、30分先まで予測できるようになったという。
阪大に設置されいているフェーズドアレイ気象レーダー。NICTのプレスリリースより抜粋。
フェーズドアレイ方式は軍事用として使われるほど高性能!
フェーズドアレイ方式のレーダーは必ずしも気象用というわけではない。戦闘機やミサイルなどの高速で飛翔する物体をとらえやすいことから、軍事用途でも利用されているほどの性能を出せる方式のレーダーなのである。
ちなみにレーダーというと、パラボラ型のアンテナが機械的に回転しているイメージが強いが、それはもはや時代遅れといってもいい古い方式(ただし、フェーズドアレイ方式では取得できない情報を得られるといったメリットもある)。
フェーズドアレイ気象レーダーと、従来の機械式に回転するパラボラアンテナ型の気象レーダー(MPレーダー)と性能比較したものが、画像3だ。
画像3。従来のMPレーダーとフェーズドアレイ気象レーダーの比較。NICTプレスリリースより抜粋。
現在の天気予報はシミュレーション+実測データから成り立つ!
また現在の天気予報というと、気象衛星ひまわりによる宇宙からの映像をもとに、過去の写真を組み合わせて雨雲などの未来の動きを予測しているようなイメージがあるかも知れない。
しかし、実際にはコンピューターによるシミュレーションも非常に重要だ。シミュレーションと、ひまわりや地上の気象レーダーなどによる実測データを組み合わせる「データ同化」という手法で、天気の予測は行われているのだ。
データが多ければ多いほど予測は正確になるわけで、フェーズドアレイ気象レーダーならまさにそれが可能。同レーダーによる30秒ごとに収集される気象情報は、今はやりの「ビッグデータ」の域に達しており、データ同化の範疇を超え、「ビッグデータ同化」というレベルだ。
解像度100mで30秒ごとに得られる膨大なデータ量を天気予測に利用するのは、今回の研究が初めてだという。実用化できれば、これまでは想像もつかなかったような超高速かつ超高精細な天気予報が可能となり、天気予報に革命をもたらすことも期待できるとしている。
ちなみに今回の研究成果によるシミュレーションの様子は、下の動画で見ることが可能。従来のものやデータ同化を行わないもの、フェーズドアレイ気象レーダーによる実測データなどと比較しているが、かなり実測データに近く、精度が上がっているのがわかる。
理研により作成された、今回のシミュレーションと、従来のシミュレーションなどとを比較した動画。
今回の技術を実用化するにはまだ大きな課題もある
今回のゲリラ豪雨予測手法、30分先までの動きを予測できるのなら、すぐさま実用化してほしいところだが、実はクリアーすべき大きな課題もある。
データ量が多いのがいいことなのは間違いないが、フェーズドアレイ気象レーダーが取得するデータ量はあまりにも膨大なため、実は現在のプログラムやデータ転送方式では、ビッグデータ同化の際の計算にものすごく時間がかかってしまうのだ。なんと、京を用いても、おおよそ10分もかかるという。
30秒ごとに新たなデータが得られるのだから、リアルタイムに運用するのなら30秒以内に1回の計算を完了しなければ意味がない。現在、世界1位の性能を持つ中国製「神威・太湖之光(しんい・たいこのひかり:英名Sunway TaihuLight)」は京の10倍の性能を持つというが、それでも1分はかかるわけで、30秒以内というのはかなりのハードルの高さであることがわかる。
また、当たり前だが京を毎日天気予測のために占有するわけにはいかないので、実用化という面では、もっと低スペックのスーパーコンピューターを使うことを想定して、それでも30秒以内に計算を終えられるようにする必要もあるだろう。
共同研究チームもそこを重要な課題とし、今後は計算やデータ転送のさらなる高速化を行っていくとしている。
2016年8月17日(JAFメディアワークス IT Media部 日高 保)
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