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クルマ最終更新日:2019.07.19 公開日:2019.07.19

気品ある超高級車ロールス・ロイス史 その2【古き良き英国車の世界】

1970年代までの英国の名車を紹介する「古き良き英国車の世界」シリーズ。ロールス・ロイス編その2をお届けする。今回は第2次大戦後、1950年代から1970年代にかけて(1台のみ特別に1980年代)の6車種7台だ。

ロールス・ロイス シルヴァーシャドウ 1977年式|Rolls-Royce Silver Shadow 1977 model year

ロールス・ロイスのクルマの中で、最も売れたのが「シルヴァーシャドウ」(11年間で約2万4000台)。画像は、その直系の後継モデルである「シルヴァーシャドウII」1978年式。「オートモビルカウンシル2018」のはらモータースブースにて撮影した。

 クルマ作りにおいて徹底した品質第一主義を貫いた、超一流のエンジニアであるフレデリック・ヘンリー・ロイス(1933年没・享年70歳)。貴族の子息でクルマの利便性をいち早く見抜き、社会に貢献するものとして普及に尽力したチャールズ・スチュワート・ロールス(1910年没・享年32歳)。この二人が出会ったことで、超高級車ロールス・ロイスは誕生した。

 その1では1907年に登場した初期の傑作「シルヴァーゴースト」から、1929年登場の「ファントムII」までを取り上げた。その2では、1955年登場の「シルヴァークラウド」から1977年登場の「シルヴァーシャドウII」までを紹介しよう(特別に1988年の「コーニッシュII」も掲載した)。

ロールス・ロイスのマスコット「スピリット・オブ・エクスタシー」とエンブレム

ロールス・ロイスのマスコット「スピリット・オブ・エクスタシー(フライング・レディ)」とエンブレム。「スピリット・オブ・エクスタシー」は盗難に遭いやすいこともあって、近年のモデルではエンジンを切った時や、触った瞬間に自動的に収納される仕組みだ。またエンブレムの文字は当初赤だったが、ロイスが1933年に没した際に喪に服すとして黒としたというのが通説。ただし、顧客からの要望を叶えた(赤がボディに合わない)、ロイスが他界する前に黒にするよう指示したなど、諸説ある。

北米市場を意識した新機軸の第2弾「シルヴァークラウド」(1955~1959)

ロールス・ロイス シルヴァークラウド シューティングブレイク 1957年式|Rolls-Royce Silver Cloud Shootingbreak 1957 model year

「シルヴァークラウド シューティングブレーク」1957年式。”シューティングブレーク”とはステーションワゴンやバンのことで、後部の積載量が増やされている。最高出力はロールス・ロイス伝統の「enough(十分)」。「お台場旧車天国2017」にて撮影。

 1949年、それまでとは異なる系譜の新型車「シルヴァードーン」が誕生する。同車の大きな特徴は、輸出先の米国市場で販売台数を増やすことを目的とし、生産性を重視したこと。ロールス・ロイスはこれまで一貫してボディはコーチビルダーに任せていたが、1台当たりの生産にとても時間がかかっていた。そこで、自車においてスチール製ボディ(「スタンダード・スチール・サルーン」と呼ばれた)を量産し、生産性を高めたのである。

 しかしその「シルヴァードーン」は北米でも欧州でも販売台数が伸びなかったため、ロールス・ロイスは後継モデルとして「シルヴァークラウド」を1955年に投入する。シャシー、サスペンションが新たに開発されたほか、エンジンも改良が施された。「シルヴァードーン」で採用されていた排気量4887ccの直列6気筒をベースに、シリンダーヘッドをアルミ製に変更。これ以降、8気筒エンジンが搭載されたことから、同エンジンは”究極のロールス・ロイス6気筒”と呼ばれた。

V8エンジンを搭載した大きく進歩した「シルヴァークラウドII」(1959~1962)

 「シルヴァークラウド」は1959年、モデルチェンジを行い、「シルヴァークラウドII」となる。最大の違いは、エンジンが直列6気筒からV型8気筒に載せ替えられたこと。これにより排気量は6227ccとなった。このV8化も、V8が好まれている米国市場をにらんでのことだった。

ロールス・ロイス シルヴァークラウドII スタンダード・スチール・サルーン 1959年式|Rolls-Royce Silver Cloud II Standard Steel Saloon

「シルヴァークラウドII」1959年式。エンジンはV8に改められ、排気量6277cc・最高出力200馬力前後となった。2500台以上が生産された。「オートモビルカウンシル2018」のガレージイガラシブースにて撮影。

 気筒数を増やしたことに加え、シリンダーヘッドだけでなく、シリンダーブロックもアルミ化を実現。当時のロールス・ロイスは、アルミのエンジンへの利用については、どのメーカーよりも豊富といわれた。そのほかの変更点は細かいところが多く、「シルヴァークラウドI」から目立った差はなかった。

 そして1962年に再びモデルチェンジが行われ、「シルヴァークラウドIII」となる。「シルヴァークラウドIII」は1966年まで生産された。

ロールス・ロイス シルヴァークラウドII 1961年式|Rolls-Royce Silver Cloud II 1961 model year

「シルヴァークラウドII」1961年式。「トヨタ博物館 クラシックカー・フェスティバル in 神宮外苑2018」にて撮影。

「シルヴァーシャドウ」のスペシャルモデル「コーニッシュ」(1971~1987)

 ボディに関して大きな方針転換が行われたのが、「シルヴァークラウドIII」の後を継いで1965年に登場した「シルヴァーシャドウI」である。現代のクルマに通じるモノコック・ボディが採用された点が特徴だ。これはボディ剛性が上がったが、これまで深い関係を築いていたコーチビルダーをほぼ必要としなくなったことを意味してもいた。

 技術は”枯れてから”採用するのが、創業者のロイス以来の伝統だったが、そのほかにも新機軸が複数採用された。足回りでは、フロントがダブルウィッシュボーン+コイルで、リアがセミトレーリングアーム+コイルを採用。前後とも独立懸架方式となっている。さらに、4輪に油圧式ディスクブレーキを採用するなど、新しい技術が数多く採用されたことが「シルヴァーシャドウI」の特徴だった。

ロールス・ロイス コーニッシュ 1971年式(ホワイトボディ)|Rolls-Royce Corniche 1971 model year (whitebody)

「コーニッシュ」のホワイトボディ(エンジンなどすべてのメカが取り外されている)。「オートモビルカウンシル2017」のワクイミュージアムブースにて撮影。同ミュージアムでは、ロールス・ロイスとベントレーを中心とした旧車のレストアを行っており、その作業の真っ最中の1台を披露した。同車は、排気量6750ccのV型8気筒エンジンを搭載。最高出力は220馬力とされ、最高速度は時速200km超。

 その「シルヴァーシャドウI」を強化・豪華にしたスペシャルモデルとして1971年に登場したのが「コーニッシュ」だ。車名にはシルヴァーがつかず、心霊系でも自然系でもない車名であるところに、特殊性が感じられるようになっている。実はその車名は、1932年にロールス・ロイスが買収したベントレー(同じ英国の高級車・スポーツメーカー)が、第2次世界大戦前に製作していた試作車にちなんだものだ。

 「コーニッシュ」は1971年から1987年まで生産され、その生産総数はコンバーチブル(オープン)とクローズドボディを合わせて4000台以上とされる。その後、1988年に下の写真の「コーニッシュII」にモデルチェンジし、1990年には「コーニッシュIII」が登場した。

ロールス・ロイス コーニッシュII 1988年式|Rolls-Royce Corniche II 1988 model year

「コーニッシュII」1988年式。年代的に対象外の1980年代の車種だが、上の画像がホワイトボディのみなので、後継機の同車を掲載した。エンジンの排気量は6750cc、1988年式はインジェクション化されている。「オートモビルカウンシル2018」のガレージイガラシブースにて撮影。

11年間で2万4000台という大ヒット車種の後継モデル「シルヴァーシャドウII」(1977~1980)

 「シルヴァーシャドウ」は1977年までの11年間で2万4000台を販売し、ロールス・ロイスが手がけたクルマの中で販売台数のレコードホルダーとなった。その大ヒット車の後継モデルとして1977年に登場したのが、「シルヴァーシャドウII」である。

ロールス・ロイス シルヴァーシャドウII 1978年式|Rolls-Royce Silver Shadow II 1978 model year

「シルヴァーシャドウII」1978年式。排気量6750ccのV型8気筒OHVエンジンを搭載。最高出力は220馬力とされる。最高速度は時速190km。「オートモビルカウンシル2018」の原モータースブースにて撮影。

 変更点は反応が鈍くて不評だったパワステをラック&ピニオン方式に変更したほか、サスペンションも改良された。そして電動ファンが搭載されるなど、冷却系も強化されている。

 先代の人気も手伝い、「シルヴァーシャドウII」は1980年までのわずか3年間で8000台以上を販売。「シルヴァーシャドウI」と同様に11年間販売していたら、記録を更新できたかもしれないハイペースだった。しかしモデルチェンジとなり、再び心霊・スピリチュアル系の車名に戻った「シルヴァースピリット」にバトンを渡した。

ロールス・ロイス シルヴァーシャドウ II 1979式|Rolls-Royce Silver Shadow II 1979 model year

「シルヴァーシャドウII」1979年式。「オートモビルカウンシル2019」のガレージイガラシブースにて撮影。


 このように開発したクルマだけを紹介すると、ロールス・ロイスは順風満帆のように見えることだろう。超高級車というイメージ戦略に成功し、世界中の富裕層が顧客なのだろうと推測してしまいたくなる。

 しかしロールス・ロイスは、もうひとつの部門である航空機用エンジンでつまずいてしまう。ジェットエンジンの開発に失敗して経営難に陥り、「コーニッシュ」の登場した1971年に経営が破綻。一度は国営化されているのだ。

 その後、1973年に航空機用エンジン部門と自動車部門が分割され、自動車部門のロールス・ロイス・モーターズだけが売却されることとなり、1980年にヴィッカーズ社が買収。

 さらに1998年、フォルクスワーゲン(VW)がヴィッカーズ社からロールス・ロイス・モーターズを買収したのだが、ロールス・ロイスのブランド使用権をBMWが獲得するという、ねじれた展開に。VWがBMWと協議した結果、ベントレーはVW傘下として、ロールス・ロイスはBMW傘下として、袂を分かつ形となって現在に至っている。

 こうして、純然たる英国の自動車メーカーではなくなってしまったロールス・ロイス。しかし、英国で生産してこそ超高級車としてのブランドを守れるとBMWは判断したようで、英国グッドウッドに新たな工場を建設。品質を第一とする創業当時からの伝統を受け継ぎ、新生ロールス・ロイスは今も超高級車メーカーとしてのブランドを守っている。

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