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クルマ最終更新日:2018.09.07 公開日:2018.09.07

「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」がラストマイルを担う

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郊外ニュータウンの入居者の高齢化も問題となってきている。郊外ニュータウンは、丘陵地帯に建設されていることが多く、高齢者にとっては普段の買い物ですら体力的に厳しい場合も少なくない。※画像は、ニュータウンのイメージであり、今回の実証実験が行われる神戸市北区筑紫が丘とは異なります。

 財政難や人材不足による公共交通の路線廃止や縮小のため、過疎地における交通網の縮小が問題となっている。そのため、過疎地の住民は自家用車に頼らざるを得ないが、高齢化もあり交通事故の危険性という問題もある。それらを解決するため、現在、最寄り駅と自宅などの間を自動運転車でつなぐ「ラストマイル」構想が掲げられ、各地で実証実験が進められている。

 そうした中、日本総合研究所(日本総研)は8月29日、交通の問題を抱えた限定地域内において、自動運転技術を活用して高齢者などの近隣移動をサポートするサービス「まちなか自動移動サービス」の事業構想を策定することを目的として、「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」を設立したと発表した。そして翌29日から2019年3月31日までの約7か月間、参画企業と共に兵庫県神戸市北区筑紫が丘地区において実証実験を開始した。

 一般会員として同コンソーシアムへの参画を表明したのは、あいおいニッセイ同和損害保険(あいおい)、NTTデータ、沖電気工業、関西電力、電通など。オブザーバーとして、一般財団法人日本自動車研究所が加わっているほか、協力会員として神戸市、神戸市北区筑紫が丘自治会、みなと観光バスなどとなっている。

 どのような経緯から「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」が設立されたのか、なぜ”まちなか”なのかを見ていく。

郊外ニュータウンにもラストマイル自動運転車が必要

 高齢化と公共交通の少なさという問題が生じているのは、過疎地だけの話ではなく、都市郊外でも急速に進行しているのだ。首都圏では多摩ニュータウンが有名だが、1970年代に集中的に開発された郊外ニュータウンは現在、全国に2000か所以上が存在。約700万人という住民は入居当時は子育て世代だったが、現在は高齢化が進んでいる。

 郊外ニュータウンは丘陵地帯に建てられていることが多いという立地条件も大きな問題だ。高齢者が徒歩で移動するには厳しく、近隣の移動も自家用車に頼るしかない。そのため、免許を返納したら買い物すらままならないという不安を多くの住民が抱えているのだ。

 日本総研はクルマのパラダイムシフトが進むのを見越して、2013年から自動運転の実証実験などを行ってきてきた。そうした中で見えてきたのが郊外ニュータウンの抱える問題だったという。

 そこで日本総研は、そうした郊外ニュータウンとして筑紫が丘を選び、2017年11月には神戸自動走行研究会、NTTドコモ、国立群馬大学、神戸市とともに「ラストマイル自動運転移動サービス」の実証実験を実施した。この時は群馬大学が開発したトヨタ「アルファード」ベースの大型ミニバンタイプの自動運転車2台を用いて、路線バスタイプの「定ルート走行型移動」、オンデマンドの「呼び出し走行型移動」などが試された。

 その実験などにより、高齢者の近隣移動のサポートが、郊外ニュータウンの活性化につながるという感触をつかんだことが、今回の「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」設立につながったという。

→ 次ページ:
「まちなか自動移動サービス」に迫る!

「まちなか自動移動サービス」とはどんなサービスか

 日本総研が郊外ニュータウンに居住する高齢者のラストマイルをサポートする手段として構想している「まちなか自動移動サービス」。自動運転なら運転手の人件費がかからないため、利用者数が限られる場合であっても、移動サービスを低料金で提供してもビジネスとして成立させやすい。それにより、高齢者や障害者などの近距離移動をサポートする手段として、多くの地域への導入が可能と日本総研は考えている。

 なぜ過疎地でなく郊外ニュータウンなのか。それは、自動運転サービスをビジネスとして成立させようとした場合、過疎地では人数が少なすぎることが問題となるからだ。その点、郊外ニュータウンは人口が多く、ビジネスとして成立させやすいとする。

 また技術的な面でも、自動運転サービスは過疎地よりも郊外ニュータウンの方が難易度が低いという。山間部の過疎地の場合、谷間やトンネルなど、GPS信号を受信しにくい場所も多く、そうした環境で確実に自動運転できるようにするには、さらに精度を高める技術開発が必要だからだ。その点、ニュータウンならそうした心配はない。建物の陰で受信できない場合も確かにあるだろうが、山間部の過疎地に比べたら受信しやすいのである(日本上空の軌道を回る準天頂衛星の打ち上げが進んでいることもあり、GPSの高精度化も進みつつある)。

 日本総研としては、実証実験などから、「まちなか自動移動サービス」によって近距離移動を充実させることで、郊外ニュータウンのコミュニティが活力を取り戻せると考えるようになったという。そして既存の公共交通へのアクセス性も向上させることで、遠方への外出もしやすくなり、人々の往来が活発な街づくりに貢献できるとしている。

「まちなか自動移動サービス事業構想コンソーシアム」の活動内容

 「まちなか自動移動サービス」が目指すのは、きめ細かなラストマイルの移動手段を提供することで、既存の公共交通とともに利便性の高い新しい交通ネットワークを実現することとする。

 今回、神戸市北区筑紫が丘で実証実験が進められることになったのは、2017年に同地区で実験が行われたことが大きい。ちなみに神戸市にはこうした郊外ニュータウンが50以上存在しており、郊外ニュータウンの課題を解決したい神戸市と、地元の交通事業者であるみなと観光バスが協力会員として参加しているというわけだ。今後は、筑紫が丘自治会とともにワークショップや実証実験を行いながら、「まちなか自動移動サービス」の社会実装に必要な車両のほか、システムの仕様や事業として成立するか否かなどを検討していくとしている。

 今回の実験では、ニュータウン地域内のあらかじめ決められた片道2km以内の運行ルートを走行。地域内の店舗、公共施設、病院、バス停などへの移動をサポートし、ラストマイルの移動サービスとして機能していく計画だ。

 運行速度は時速30km以下で、バスのような乗り合い制となる。乗降方法は、オンデマンド(呼び出し)型。利用者はあらかじめ決められた乗降ポイントの中から、乗車と降車の場所をスマホアプリなどを通じて指定し、迎車を依頼する。

 安全対策としては、車内外の状況、車両の機器類やシステムなどの状況などを管制センターで遠隔監視する。見通しの悪い交差点では、道路側にセンサーなどを設置して「先読み情報」で安全を確認する。これには、同コンソーシアムに参加している沖電気工業が開発したITSサービス「LocoMobi 2.0」が利用される予定だ。

 そして使用する自動運転車だが、市販車を改造すること以外は現在は未定。車両提供という形で、自動車メーカーに同コンソーシアムに参加してもらえるよう、話し合いが行われているという。

 2017年の実験では群馬大学が開発したトヨタ「アルファード」ベースの自動運転車が利用されたが、取り回しのよさを求めて、今回はもっと小型のミニバンもしくはワンボックスをベースにする計画だという。

 移動サービスの運営を通じて取得されるデータを活用し、店舗への販促支援や情報配信など、移動に関連した付加価値を提供することも計画されている。

そのほかの参加企業の役割

 そのほかのコンソーシアム参加企業の役割としては、NTTドコモは、2017年の実験に参加した際は自動運転車などのICTシステムを整備提供した。みなと観光バスは運用主体として対象モニターや自動運転車の管理を行い、定ルート走行時の車両位置情報の提供も実施した。

 さらに、今回のコンソーシアムから保険会社のあいおいが参画したが、その目的として、「自動運転車を活用した移動サービスの実用化を見据えた最適な保険商品などの開発」と「自動運転車事故時の対応にかかわる態勢構築のサポート」としている。

 今後、同コンソーシムはほかの地域での活動も検討中としたが、まずは神戸市での活動に絞って力を注いでいくとした。そして同コンソーシアムの成果を踏まえ、賛同企業と共に2020年度に事業体を設立し、「まちなか自動移動サービス」を各地に導入するための支援を開始することを目指すとしている。

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