クルマのある暮らしをもっと豊かに、もっと楽しく

Cars

最終更新日:2018.09.04 公開日:2018.09.04

誤訳はじける自動翻訳で綴ったシュールな「日本昔話Remix」第3弾

日本昔話はどこ!? というシュール感が漂うイラスト。いったい「日本昔話Remix」とは何なのか!? 画像は、「逃亡者おむすびころりん」のクラウドファンディングサイトより。

 現代美術家の原倫太郎さんと原游さんによるアーティストユニットHara seal Factory of Japanが取り組んでいる、自動翻訳で綴るシュールな作品「日本昔話Remix」シリーズが人気だ。

 第1弾「匂いをかがれるかぐや姫」は2008年文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門で奨励賞を受賞。第2弾「背面ストライプの浦島太郎」と合わせ、累計発行部数3万8000部となっている(マガジンハウス刊)。そして現在制作に取り組んでいるのが第3弾、「逃亡者おむすびころりん」だ。

自動翻訳と昔話がどう結びついている?

 ”自動翻訳で綴る”とはどういうことかというと、まずはWeb上の翻訳ツールなど10種類を利用し、誰もが知っている昔話を英訳するところからスタートする。そしてアウトプットされた英文を日本語に再翻訳。すると、いくつものツールから誤訳の多い文章が出てくる。その中から原倫太郎さんが最も面白いものをチョイスしてミックスさせていき、物語を完成。その上で、原游さんがシュールな内容に合わせたイラストを描いて、作品として完成させているのである。人と自動翻訳の合作によるトンデモ昔話なのだ。

 例えば、「桃太郎」。この誰もが知る昔話の主人公の名を、あるツールで英訳すると、どうなるか? アウトプットは「Peach Taro」。個人名を分割して英訳している時点で苦笑してしまうが、これは想像の範疇内だろう。今度は「Peach Taro」を日本語に再翻訳してみるとどうなるか? すると、衝撃…というか笑撃が。なんと、「桃タロイモ」になってしまったという。もはや人ではない。

 さらに「一寸法師」は強烈だ。英訳が「A ligtle, low menter」で、再翻訳すると「少量法律助言者」。原形をまったくとどめておらず、ここから「一寸法師」を想像するのは無理な領域に到達してしまっている。

 現在の自動翻訳はまだまだ性能的に低く、利用者にとっては不満を感じてしまうことも少なくない。しかし、この「日本昔話Remix」シリーズはそれを逆手に取るという、発想の転換で誕生した文学作品だ。とんでもない誤訳を出してくることも多い自動翻訳は、このようにシュールさを求める場合、もはや人智を超えているといってもいい。

「桃タロイモ」は、多少響きとしては「桃太郎」が残っているので、何となくはわかる。しかし、「一寸法師」になると、「少量法律助言者」になるので、もはや何のつながりもない。「逃亡者おむすびころりん」のクラウドファンディングサイトより。

→ 次ページ:
「おむすびころりん」が「逃亡者おむすびころりん」になると?

現在、第3弾「逃亡者おむすびころりん」を制作中!

 そして現在、ふたりが取りかかっていて、クラウドファンディングで資金調達を行っているのが、第3弾「逃亡者おむすびころりん」だ。話の冒頭でおむすびが転がっておじいさんの手から逃げていくから、いわんとすることはわかるのだが…。

 そもそも「逃亡者」という単語は、昔話とはとても不釣り合いな言葉。知っている単語ではあっても、日常生活で使われることはなく、ハリウッド映画のタイトルなどでしか見ないだろう。「おむすびころりん」の前に「逃亡者」とつくだけで、そのギャップは強烈な破壊力を生み出す。自分の中の常識が、音を立てて崩壊していく感覚を味わう人は多いのではないだろうか。

 では、ここで「おむすびころりん」の序盤の1文を例に、日本語→英訳→日本語再翻訳でどう変化するのかを見てみよう。

【原文】
おむすびころりん
すっとんとん!

【英訳】
Runaway Riceball
Sutto Thun!

【再翻訳】
逃亡者ライスボール
スットートゥーン!

 本来、実用性の面でいったら、「自動翻訳は使えない」というレッテルを貼られてしまっても仕方がないレベル。しかし、どうだろうか? シュールな文章を編み出す能力という観点に立つと、自動翻訳の性能、恐るべし! という驚きを誰もが受けるのではないだろうか?

「逃亡者おむすびころりん」の序盤の1ページ。日本人なら話を知っているので、何となくはわかる。しかし、何も知らない人が見たら、「?」しか浮かばないであろう、シュールな文章の連続。なぜ下半身がとうもろこしの蚊におじいさんは乗ってるのか!? 「逃亡者おむすびころりん」のクラウドファンディングサイトより。

あまりに意味不明になってもダメ

 原倫太郎さんによれば、再翻訳された文章の意味が不明過ぎると、読者がいくら元の話を知っているとしても、理解できずに面白くなくなってしまうという。

 10種類の翻訳ツールを使っているため、再翻訳された文章はいくつも出てくる。そこで、本来の昔話のストーリーがある程度わかりつつ、でもシュールさも併せ持つよう、どうリミックスするかで苦心しているという。そして、翻訳過程も想像して楽しんでもらえるような文章をチョイスしているとし、そうした部分がアーティストとしての腕の見せ所だとした。

 ちなみに、翻訳前の本来のストーリーと、翻訳後の両方を掲載して比較しながら楽しめるようにもしてあるそうである。

→ 次ページ:
自動翻訳の性能の低さが始まり!

きっかけはビジネスの場で体験した自動翻訳の性能の低さ

 何がきっかけでこんな物語の作り方を思いついたのか? 原さんに話を伺ったところ、若い頃のビジネスの場での自動翻訳の性能の低さに気がついたことが始まりだったという。

 2000年代初頭、原さんがまだ20代の頃、ビジネスで海外の顧客とメールでよくやり取りしていたが、その際に自動翻訳を使っていたそうだ。しかし、顧客からメールの内容がわからないといわれてしまった。そこで送った英文を日本語に再翻訳してみたところ、めちゃくちゃな文章が。

 原さんがアーティストだったのは、そこで怒りを感じるのでなく、面白いと感じたことだろう。これを作品にできないかというアイディアに結びつき、たどり着いたのがこの「日本昔話Remix」シリーズなのである。

 昔話が選ばれたのは、子どもでも馴染みがあり、誰もがストーリー展開を思い出せるからだ。そんな昔話であっても、自動翻訳を通すと、昔話に対する固定観念が崩壊してしまうような内容に変化を遂げることを知り、こうして作品作りを本格的に開始したそうである。

現代だからこそできる自動翻訳で綴る昔話

 現在のAIの急速な進展は、自動翻訳の性能も今後、確実に引き上げていくものと思われる。自動翻訳の性能が人に追いついたとき、日本語→英語→日本語という翻訳をしたとしても、もう今ほどの誤訳らしい誤訳はなくなり、シュールさという観点からはあまり面白くない、普通の文章がアウトプットされてしまうものと思われる。ふたりは自動翻訳のレベルがまだ低い今しかできないとして、「日本昔話Remix」シリーズに取り組んでいるそうだ。

 そんな、おむすびころりんが逃亡を繰り広げていそうな、サスペンス色漂うタイトルとなった第3弾「逃亡者おむすびころりん」。あの昔話がどれだけ常識から遠く変貌したのか実際に確かめてみたい方は、応援してみてはいかがだろうか? あまりのシュールさに目からウロコ、そして大爆笑間違いなしの「日本昔話Remix」シリーズ最新作に期待しよう。

外部リンク

この記事をシェア

  

Campaign

応募はこちら!(1月5日まで)
応募はこちら!(1月5日まで)