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クルマ最終更新日:2018.06.29 公開日:2018.06.29

日本最古参のメーカーが生んだミゼット

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「ダイハツ・ミゼット」1957〜72年 (スペックはDKA型。時期により変遷あり) 全長×全幅×全高:2540×1200×1500mm 軸距:1680mm トレッドR:1030mm 乗車定員:1名 最大積載量:300kg エンジン:2サイクル強制空冷単気筒65.0×75.0=249cc 出力:10HP 価格:184,000円 延生産台数:約317,000台(写真はMP5)

戦後の復興期を支えたミゼット

 戦後の復興期は、日本中でオート三輪が走り回り、まさに復興の立役者だった。長い材木や鋼材を満載し、狭い路地でも直角近くに曲がれるのだ。ところが、三輪トラックは荷物を積み過ぎると、坂道で前輪を持ち上げ尻もちをつき、立ち往生してしまう。(関連記事

 当時中学生だった私は、運悪く線路の踏切で尻もちをついてしまったオート三輪に出くわした。オート三輪の運転席はクルマの先端にある。そのため運転手は、宙に浮き手も足も出ない。私は、急いで荷台からはみ出した材木の先端を力一杯持ち上げ、なんとか踏切から脱出させることができた。運転手は大声で礼を言っていたようだが、エンジン音にかき消され、聞こえなかった。

 その頃の三輪トラックのブランドは、くろがね、みずほ、三菱、マツダ、ヂャイアント……と林立していた。特にダイハツはエンジンが丈夫で、急な坂道も登れるという定評があった。大型化していったオート三輪と、二輪の間を狙って、1957年に同社から誕生したのがミゼットである。技術部門の担当役員・藪健一氏が市場調査をした結果から生まれたというが、彼は時代の空気を読む力があったに相違ない。

 初期のDKA型はバーハンドルの1人乗りで、ドアもなく、全長×全幅×全高は2540×1200×1500mmしかなかった。エンジンは2サイクルの250㏄で出力はわずか10馬力である。そこに300㎏もの荷を積むことができた。

 62年には丸ハンドルの2人乗りとなり、エンジンは305㏄まで拡大され、積載量も50㎏アップ(MP5)。映画「稲村ジェーン」に登場したのがそんなMP型である。愛くるしいスタイルと相まってたちまち街の人気者になり、57〜72年の16年間に31万7000台も売れたのだ。

 どうだろうか、今、これを電動に改造したら、エコ時代にぴったりのEVコミューターになると思うのだが。

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ミゼットの何が人を惹きつけるのか

ミゼットの何が人を惹きつけるのか

 60年の乗用車生産台数は、前年比2.1倍増という未曽有の記録を示した。現在のように前年割れも珍しくない国内販売からは考えられないことだ。

 1900年前半の日本車は、欧米より遅れていたように思われがちだが、実は04年に山羽虎夫が蒸気自動車を誕生させ、07年にはダイハツの前身である発動機製造(株)が設立された。T型フォードが生まれる5年も前のことだ。ちなみに日産の前身である快進社が11年、(それぞれ前身の)三菱が17年、31年に東洋工業、33年にトヨタ。新しいところでは、ホンダ46年、いすゞ(改称) 49年、富士重53年、スズキ(改称)54年から自動車を手がけ始めた。

 この(現存中で)日本最古参の自動車メーカーのダイハツを、数年前に訪ねたことがある。場所は大阪池田市のダイハツ町。町名にもなっているダイハツの由来は、大阪の「大」と発動機の「発」をとって1951年にダイハツ工業に変わったという。

 そんなダイハツのミュージアム正面には、背の丈を超える巨大なエンジンが置かれていた。なんと10400㏄の単気筒だ。昭和初期、ダイハツは内燃機関の国産化を目指して多くの動力用エンジンを作っていた。この他にもミュージアムには66年の日本グランプリで優勝したP-5のレーシンガカーや、ヴィニャーレが製作したスポーツカーもあった。しかし一番輝いて見えたのはミゼットであった。

 ミゼットは、日本のモータリーゼーションの先駆け的な役割を担った。米や醤油、ビール瓶を満載し路地から路地を走り回り大活躍。町内を活性化させた人気者で、日本経済を支えたヒーローでもあった。それは日本の原風景でもあり、軒の低い木造家屋とともに私の脳裏に刻まれている。稲村ジェーンではないが、人は、技術が進化しても、心に響く原風景に惹かれるものなのだと、ミゼットを前にして思った。

文=立花啓毅
1942年生まれ。ブリヂストンサイクル工業を経て、68年東洋工業(現マツダ)入社。在籍時は初代FFファミリアや初代FFカペラ、2代目RXー7やユーノス・ロードスターといった幾多の名車を開発。

(この記事はJAFMateNeo2014年6月号掲載「哲学車」を再構成したものです。記事内容は公開当時のものです)

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