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クルマ最終更新日:2022.03.21 公開日:2022.03.21

8年ぶりに車両規則を大変更。2022年型 F1マシンはグランドエフェクトでどう変わる

F1が8年ぶりにマシンに関する車両規則を大変更する。大きなポイントはグランドエフェクトを活用した空力デザインと、ホイールが13インチから18インチへと大型化すること。それに則った2022年型マシンがシーズン前のテストを走りだした。それらをモータースポーツライターの大串信が解説。

文・大串信(モータースポーツライター)

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抜きつ抜かれつを多くするために

バーレーンテストを走行するメルセデスAMGのW13

3月10日のバーレーンテストを走行するメルセデスAMGW13。サイドポンツーンが極小なものを登場させた 写真=メルセデス・ベンツ 

 2022年シーズン、F1グランプリの展開は大きく変わるかもしれない。というのも、F1を統括するFIA2022年度からF1の車両規則を大きく改定したからだ。今シーズン参戦するすべてのチームは、新車両規則に基づき設計を全面的に見直したマシンを開発して開幕戦に臨む。つまり誰も新車両規則に適した理想形を知らないままシーズンが始まるのだ。

 新しい車両規則で最も大きく変わるのが空力デザインに関する条項である。これまでFIAは、車体下面に設けたベンチュリー構造でグラウンドエフェクトを引き出して、ダウンフォースを獲得する手法(空力デザイン)を厳しく規制してきた。それが2022年シーズンからは、オーバーテイクを増やしてレースをショーアップするために規制を大幅に緩和。

 また、これまでの13インチとしてきたホイールサイズを近年の市販車に近い18インチへ拡大したのも注目すべき変更点である。これに対し、パワーユニットは開発を凍結された昨年と同じものを使うことになる。

 こうした新規則を受けて各チームはどんなデザインが最も効率よくグラウンドエフェクトを生み出せるのか、どんな足回りにすれば18インチホイールに装着する扁平タイヤから最大限のパフォーマンスを引き出せるのか、というアイデア競争に突入した。このアイデア競争に勝てば、昨年までのマシンの戦力差を一気に縮め、逆転することも可能になる。

 2022年が明けると、各チームはシーズン開幕に向けてニューマシンの発表会を催した。しかし多くのチームが新型マシンの詳細を明らかにせず、中には全く別のダミーをわざわざ作ったり、全く別のCG画像を作ったりして発表した。このように手の内を見せようとしなかったのは、開幕まで自分たちのアイデアを隠しておき、少しでもシーズンを有利に運びたいという思惑からだ。

 実際、開幕に備えて初めてニューマシンを走らせる機会となったスペイン・バルセロナとバーレーンでのプレシーズンテストには、発表時の車両とは全く異なる車両が現れたりもした。各チーム、それだけ今年の技術的ゼロスタートに賭けているのである。

発表会でのレッドブルRB18

発表会でのレッドブルRB18。肝心な部分が見えないように撮影された写真しか公表されなかった ⓒGetty Images / Red Bull Content Pool

サイドポンツーンのデザイン

 そしてプレシーズンテストで実際に走り始めた各チームのニューマシンを眺めると、サイドポンツーンのデザインにいくつか異なる傾向が見て取れる。

 まずハースVF-22のサイドポンツーンは、上下にも左右にも極端な絞り込みをしない、非常にオーソドックスなデザインとなっているのに対し、アルファロメオC42、アストンマーティンAMR22、レッドブルRB18は、サイドポンツーンを左右に張り出し、下部を絞り込んでいる。これは、空気を上側と下側に分けたうえで後下方へ向けて流し込み、リアウイングと車体下面構造の効率を上げるためだろう。

バルセロナテストでのレッドブルRB18

バルセロナテストでのレッドブルRB18のサイドポンツーン ⓒGetty Images / Red Bull Content Pool

 フェラーリF1-75もこれらと同じ傾向のデザインだが、興味深いことにサイドポンツーン上面が大きく凹んでおり、上面の空気を横方向に逃がさないようせき止めながら後方へ向けて流し込むような、独特の構造となっている。

発表時のフェラーリF1-7のサイドポンツーン

発表時のフェラーリF1-7のサイドポンツーン 写真=フェラーリ

 一方、アルファタウリAT03とアルピーヌA522はサイドポンツーン下側をこれらのマシンに比較して絞り込まず、上面と側面に空気を流す、比較的オーソドックスなデザインとなっている。

バルセロナテストでのアルファタウリAT03のサイドポンツーン

バルセロナテストでのアルファタウリAT03のサイドポンツーン ⓒGetty Images / Red Bull Content Pool

 いささか異なるアプローチをしているのが、メルセデスW13、マクラーレンMCL36、ウイリアムズFW44である。これらは3車ともメルセデスのパワーユニットを用いるマシンだが、なぜか共通してサイドポンツーン本体の幅を絞り込み、アンダーフロアの上面に空気を流す基本デザインとなっている。アンダーフロア後部には車体下面の空気を引き抜くためのディフューザーがあるので、上面に空気を多く流しディフューザー効率を引き上げてグラウンドエフェクトを増大させる狙いがあるようだ。

バルセロナテストでのメルセデスAMGのW13のサイドポンツーン

バルセロナテストでのメルセデスAMG W13のサイドポンツーン。 写真=メルセデス・ベンツ

 フロントウイングは新しい車両規定により昨年までのように何枚ものフラップを組み合わせた複雑な形状にすることができなくなり、リアウイングは幅広く高くなる。この結果、サイドポンツーンのデザインとともに今シーズンのニューマシンを目新しく見せるポイントとなっている。

バルセロナテストはポーポイズ現象が多発

バルセロナテストでは写真のようなアンテナのような器具を付けて走るマシンが多かった

バルセロナテストでは写真のようなアンテナのような器具を付けて走るマシンが多かった。器具には空気の流れを測るセンサーが取り付けられている ⓒGetty Images / Red Bull Content Pool

 こうして2022年型のF1グランプリカーは昨シーズンから大変身を遂げた。しかしプレシーズンテストではまず大幅に変化した空力デザインに1つの課題が持ち上がった。車体下面で発生するグラウンドエフェクトに依存するレーシングカーで発生するポーポイズ現象が、多くのチームの車に発生したのである。

 ポーポイズ現象は、車体が激しく上下する現象のことだ。原理は車体下面と路面の間に流れる空気がグラウンドエフェクト効果でダウンフォースを生む。それにより車体が沈み込むと車体下面と路面の隙間が狭まって、空気の流れが悪くなってダウンフォースが弱まる。すると車体が浮き上がる。再び隙間が広がるので、空気が流れ込みダウンフォースを生んで、車体が沈み込むという繰り返しが起きる。この現象は、グラウンドエフェクトが非常に効率よく発生しているときに起きるもので、ある意味空力デザインが狙い通り働いているということを示している。しかし対策を打たなければ、ドライバーは頭を振られるので安定したペースでレースを戦うことができないことになる。

 このように、新しい車両規則に基づくニューマシンをどのようにデザインするかの開発競争だけでなく、走行特性が大幅に変わるニューマシンをどのように仕上げるかという熟成競争も始まっている。

 今シーズンの各チームは、これらの課題を抱えて開幕を迎えることになる。それゆえに老舗チームがこれまでのように主導権を握り続けるのか、それとも新興チームが一気に勢力図を書き換えるのかもしれない。ファンにとっては見どころの多いシーズンになりそうだ。


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